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シスコのLinksys買収に見る成熟期のM&A戦略

2003/04/01 09:56
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シリコンバレーで経営コンサルティングを行なう傍ら、ベンチャーキャピタリストとしても活躍する梅田望夫さんが、IT業界の先を読むのに役立つ英文コンテンツを毎日紹介していきます。これを読めば、英語と業界動向を読む力が同時に身に付くはず(このブログの更新は2004年12月30日で終了しました)。
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3月20日に、シスコシステムズによるLinksys買収(株式交換で5億ドル)が発表された。買収であれ何であれ、5億ドルでのexitは、最近のIT産業では大型と言っていい。ただLinksysも未公開ながら、設立から約15年が経過し、既に売上高4億ドルを越えている優良企業であるから、exitの期待もずいぶん落ち着いてきたということである。

シスコは90年代、買収を通して成長してきた。その経営手法はA&D(Acquisition & Development)とも言われてきたが、シスコが90年代に繰り返してきた買収(成功したものも失敗したものもあるが)と、このLinksys買収は、その性格がぜんぜん違う。シスコの90年代の買収は、主に新しい技術を獲得するための買収で、研究開発を補完するものであった。

802.11専門ニュースサイト「802.11Planet」に掲載された「Why Cisco Chose Buy Over Build」を読んでみよう。タイトルの含意は、「シスコは、自分でも開発できるものなのに、なぜ買収を選んだのか」ということである。

「"When we first started looking into this we thought it was something we would do in-house," said Charlie Giancarlo, Cisco's senior vice president and general manager of product development. To be sure, Cisco engineers could have designed products allowing home users to access the broadband Internet connections and interconnect computers, printers and other devices on a local area network. The company didn't get where it is without top-notched engineers.」

Linksys製品を、シスコの技術者が作れないわけがない。

買収のポイントの第1は時間である。Wi-Fiがこれだけぐっと立ち上がってきた今、シスコが不得手なコンシューマー市場を本気で攻略すると決めたとしても、悠長に時間をかけて事業インフラを構築している余裕はない。

「Even with Cisco's immense resources, it would take a year, maybe two, to design, test and market the offerings.」

ポイントの第2はコスト構造である。ハイマージンのシスコのハイエンド主力製品事業(Gross Marginが70%くらい)とLinksysのコンシューマー製品事業(Gross Marginが30%強)のコスト構造は全く違うから、全く異なる事業インフラを必要とする。

「Besides time-to-market, production costs were a concern. Building the systems at Cisco plants was not an option because of higher labor and material costs. Manufacturing for Linksys's line, which includes 70 distinct products is outsourced to Asia-Pacific designers and manufacturers, mostly in China and Taiwan. The relationships, cultivated over several years, allow the company to keep prices down -- around $200 for the average home wireless set-up.」

ポイントの第3は販売チャネルと顧客対応体制である。シスコは90年代後半、いっときかなり真剣にコンシューマー市場を攻略しようとしたが失敗して撤退した歴史がある。

「Similarly, Linksys had a sales pipeline, both direct and through resellers, to the consumer and small office/home office market. It also had a customer support call center, where one in four customers dial in for help free of charge. To compete, Cisco would have to hire and train its own sales and help desk staff, further driving up the costs.」

ポイントの第4はコンシューマー市場におけるLinksysのブランドであり、買収後もLinksysブランドを残すことだが、

「"Linksys has a good consumer brand name and very well-baked products,"」

シスコ自身のブランド力はものすごく強いから、この部分はほとんど買収の価値にはならないだろう。

ポイントの第5は、将来のシナジー効果、特に海外販売の強化である。

「Cisco believes it can energize the company's sales overseas. "Cisco can help with international distribution, sales teams and international retailers," said Dan Scheinman, Cisco's senior vice president of corporate development. "The combination of the two brands will make the (international rollout) quicker and more powerful."」

この記事が指し示す5つのポイントは、M&A戦略の「いろは」である。「戦略的にそれほど面白みがなく、成功するかどうかは執行次第」というときに、米国ではよくExecution Playと表現するが、この買収はそのExecution playの典型と言えよう。ざっくり言えば、ごく当たり前の、シスコらしくない普通の買収だということである。

急激な成長期に指向された創造的なA&D戦略と、成熟期を迎えた現在のM&Aは、その性格が全く異なるわけだ。

ややマニアックな「Wi-Fi Networking News」というWi-Fi専門BLOGサイト(by Glenn Fleishman)では、技術的にこんな見方をしている。

「In discussions with many in the industry in the last year, it was clear that the coming WPA (Wi-Fi Protected Access) and 802.11i, which would put certain enterprise-style network authentication features into every Wi-Fi access point, meant that at the same time as basic security will be improved, every AP is also now ready for the enterprise. (Performance, throughput, aggregated management, simultaneous users, and secured tunneled EAP messaging will differentiate consumer and enterprise products.) Several WPA or 802.11i-compliant Linksys AP for $100 could provide much of the functionality needed by a business with 50 to 500 employees with an IT department that knew how to run an 802.1x system with their RADIUS server.」

買収したLinksysのアセットが、今後、シスコの強みであるコーポレート市場にアプライできるということ。全くその通りなのだろうが、この程度のことは、買収後のExecution playの一要素だと言っていいだろう。

ついでながら、Glenn Fleishmanは、

「Even with the tech downturn and Cisco's remarkable write-off two years ago, the company has a market cap of $100 billion.」

とも書いているが、シスコを含む米国IT産業の「勝ち組」企業の時価総額や財務状況は、不況下の今も、とてつもなくいいということは記憶しておく必要がある。

ITバブル崩壊後、ナスダックが暴落し、各社が買収評価損を出したり、リストラをしたりという米国企業の状況を、新聞報道などから散見し、米国企業も日本の大企業同様おしなべて苦しんでいる、という印象を持っている人が日本には多いが、米国「勝ち組」IT企業に限っては、全くそんなことはない。バブルのときの株価上昇の勢いはないが、「勝ち組」企業の多くは、有利子負債など全くないし、キャッシュもふんだんに持っているし、時価総額だってそれほど落ち込んでいない。だから、大型買収を含めた思い切った戦略を描いて、それを実行することができるのである。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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