いまさらながら電化の時代に生きた起業家達の試行錯誤と現在のインターネット革命との間の近似については学ぶべき点がとても多い。
電気料金の面では、従量制を採用していたエジソンは定額制のウエスティングハウスをリードしていたことになる。やがてウエスティングハウスも1888年8月に交流用のメータが導入されると、電気使用量は5割近く激減したのである。つまり、出力は半分に削減でき、利益は変わらないことになった。それはまた、同じ中央発電所で2倍の顧客に給電すれば、利益を2倍に増やせることにもつながったのである。
現時点のネットに於けるビジネスモデルとして最も有効に機能していると思われる、Googleの広告モデルにしても、その価格形成メカニズムがもたらす一定の納得性、経済合理性の部分がとても大きい。
情報送信コストの計測および支払をいかに効率的に自動化するのか?が、その広告プラットフォームの核になっていること。これはエジソン・システムに於いて電力計の精度が大きな問題になっていたことと実に近似している。
このアナロジーで考えるならば、広告効果の測定方法を精緻化・効率化すればするほどGoogleの収益性は高まるということになる。
だが、顧客に電気をガス料金とあまり違わない料金で供給したとすると、開設当初では収入の2倍程度の経費がかかってしまうはずであった。しかし、技術が進歩し、負荷がもっと増加して規則的な電力供給ができれば、経費は減るだろうと予測した。そして、コストを抑えるために、既存のガスパイプとバーナを改造して電線を通した。電気照明がガスにとって代わるためには、ガスの人気を支える特長をできるだけ生かす必要があった。まず危険(感電)がないこと、そのためにエジソンは、銅の導線すべてに絶縁処理を施し、地下に埋設した。また、電気火災の懸念を払拭するため、ガスをやめて電気照明に切り換える建物に対して、保険料の値上げはしないことを火災保険業界に保証させた。
そして、ガスが電気に切り替わる段階で、エジソンが既存の価格体系やインフラを積極的に活かしつつ、さらにその上に電化のメリットを加えていった発想は、iPhoneアプリの現行の提供スタイルに近さを感じる。
タッチパネル方式の大画面に加えてデフォルトでマイクとカメラを有していること。そしてWi-FiあるいはGPSで位置情報取得できること。これらの基本的な機能に加えてiPhoneOS+AppStoreは、モバイルインターネットに最適化されたウェブサービスのための操作インターフェイスを、実に自然な手順によって提供している。
また、その際の流通インフラがインターネットプロトコル網を最大限に応用していることは当然といえば当然だといえるのだが、もう少しそのあたりの機微を捉え直すとiPhoneの持つユニークさが浮き彫りになるだろう。
要するに、既存のケータイ・インターネットはあくまでウェブのリモコン端末的なサブセットだったに過ぎない。それに比してiPhoneのSafariやYouTube、GoogleMapsなどはむしろ拡張版アプリの印象さえある。
それは、機能の洗練や単純化もある種の進化と考えた場合の拡張なのだが、このあたりは実際に店頭でiPhone 3Gを触ってみるだけでも体感できることだ。
ところが、ここで体験できるiPhoneのネット体験とは、位置情報およびマイク、カメラの入出力に関しては本当に控えめな応用しか無いものばかりで(ゲームアプリに関しては重力センサーが相当活用されている)、前回のエントリーで触れた「データが向こう側から飛んでくる」体験性に訴えかけるアプリケーションなどは残念ながらまだ存在しない。
そして、この「情報が飛び込んでくる」体験性を単純に「PUSH型」と片付けてしまうには正直もったいなさも感じる。なにしろ、Web 1.0以降何度ももてはやされてきたPUSHの系譜とは、ほぼすべてが(一部のメッセージングサービスなどを除いて)失敗の連続だった。
しかし、その失敗の時代と現時点とではネット環境そのものが大きく変化していることには着目すべきだろう。それはつまり、
1) クラウドコンピューティングの隆盛
2) セマンティックウェブの萌芽
3) Wi-Fiネットワークの浸透
の三点に集約されるのではないか?
(1)は、いわゆる「向こう側」のデータ+サービスが圧倒的に充実していること。(2)は、その背景にあるデータ組織化の手法がより洗練・効率化を遂げつつあること。
そして(3)は、携帯電話の高速データ通信という進化の流れよりも、よりアドホックでハイスピードなネットインフラが広がりつつあること。つまりデータの蓄積・処理だけでなく、その組織化や送受信のスタイルが大きく変化しつつあるのが、この08年のインターネット環境なのではないか?
そして、それらの先にある iPhone3.0以降のネット環境とは、従来のパーソナルコンピューティングがデスクトップで体現してきた情報環境をさらに日常空間の広がりへと開放することに他ならない( 09年の米国がWi-Fi 2.0の年になるとするなら、その大きな変化は確実に訪れるだろう)。
iPhoneのカメラで目前の商品を撮影する→商品カタログと照合してオンラインコマースに接続する
接続したコマースを通じて価格比較、類似商品検索、配達サービス、ポイント・サービスなどを参照
商品を購入・決済して自宅へのデリバリーを依頼する。その商品の配達をオンタイムでチェックする
こんなプロセスは現状のiPhoneアプリのポテンシャルとしては(ウェブサービスの現状も踏まえて)決して困難ではない。
駅前に到着したところでiPhoneに仕込んでおいたエージェントにオンデマンド情報誌が届く
今日約束していた、飲み会のスケジュールに連動して添付されているクーポン券を選択する
クーポン券を選ぶとiPhoneのライブビューに景観に応じたナビゲーション情報が表示される
移動中に気になったランドマークを、ナビ情報といっしょにメッセージ送信して友人を誘導する
このようなソリューションも、ほぼ射程内にあると言っていいだろう。もちろん、個々のサービスは珍しくないし、組み合わせ方についても決して目新しさは無い。しかし、ここで強調すべきは、
1) iPhoneという共通規格によって動作していること(アプリケーション層に限らない垂直統合型)
2) サーチというアクションが必ずしもキー動作にはならないこと(不要ということではなく不可欠ではないということ)
3) カメラやGPSがウェブサービスとの組み合わせで新しい機能性を発揮し得ること
などではないだろうか?当然、万人がiPhoneユーザーの訳は無いので、(1)については「?」の部分も多いのだが、デファクトスタンダードがどのように生まれていくのか?の考察は、また別途検討すべきポイントだろう。
iPhoneにはいろいろ不自由があって、世界一自由でオープンなプラットフォームとはとても言えない。
しかし、iPhoneの中の自由と不自由のポートフォリオは、計算されたものであり状況に応じて変化していけるものだ。金になって他に現実的な選択肢が無い所では、アップルはユーザに不自由を強いて金を吐き出させる。金にならない所では、ユーザに自由を与えサードパーティに競わせる。
またアンカテblogの引用で恐縮なのだが、スティーブジョブズのiPhone戦略性とは、常に「その戦略ポートフォリオを柔軟/果断に組み替える」ことであって、単純な「OPEN対CLOSED」の図式だけでは読み切れない。
その発想の自由さに於いて双璧を成していると考えられる任天堂が、今後nintendo DS 2.0でどのようなソリューションを打ち出してくるのか?これはiPhoneの将来を占う上でも大きな要因になるだろうし、それはゲーム・プラットフォームとしての市場占有率という過少な領域の話には決して終始しないはずだ。
もっと言えば、iPhoneとnintendo DSを単なるコンペティターとして看做すという考え方でさえ、やがて陳腐化してしまうのかも知れない。革命って単なる勝ち負けじゃ量れないですもんね。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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