さて、後編です(前編はこちら)。
■チープレイバーギフトの競争戦略
ところが、情報化された「財」の生産に関しては、ウィキノミクスは「限りなくゼロ円で担ってくれる数千万単位の集合体が控えている」国際分業制ですから、もしかするとその影響度は、世界の工場「中国」と比較しても遜色ないインパクトがありそうです(CGMに於ける無償労働が常にこのまま維持継続するかどうか?そのインセンティブがこのままボランタリティによって保たれるのかどうか?などの課題はあるでしょうが) 。
そのように考えますと、出版不況という目下の状況は従来の再販制、取次制度の老朽化、機能不全にとっては絶好のイノベーション機会かも知れません。
それはなぜかと言うと、ウィキノミクスのアプローチが「巨大な無償労働の生産拠点」をいかにリアルエコノミクスに取り入れるのか?の「競争優位」獲得戦略として構想し得るものだからです。
「非競争領域=自社が特に優位性を持っていない領域,競争領域=自社が優位性を持っている領域」――という構造となったときに,企業の競争力は上がる。そして,「非競争領域」にする有効な手段の一つが「ウィキノミクス」になると言えるのかもしれない。競合相手が優位性を持っている分野をターゲットにして,究極の「チープレイバー」を使って限りなく提供価格をゼロにしてコモディティー化した血の海の底に沈める。その一方で,自らはブラックボックス化した強みを生かして青々とした海の水面上で栄華を極める…。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/COLUMN/20070730/136996/?P=1
■出版不況、そしてウィキノミクスの浸透...
ケータイ小説とは、「無償労働生産拠点のリアルエコノミクス化」の一例として捉えられますから、「従来型の書籍コンテンツ生産」に対する「チープレイバー」戦略として機動的に組み込み可能です。
「書籍コンテンツ獲得コストを限りなくゼロに出来ることによる優位性の獲得」を現実にどう組み立てていくのか?この視点で今起こっていることを捉えなおすと、既存の出版システムが「情報財生産」の面から大いなる構造変動を迫られていると考えられます。
つまり、ここで起こっているのは「生産によるエコノミーの変革」ですから「流通インフラから出版エコノミーの変革」を志した碧天舎・ビブロポートの戦略には大幅な“錯誤”があったのかも知れないという批判的検討も可能でしょう。
実際、その後グーグルはブックサーチの国内展開をスタートしていますし、アマゾンは電子書籍販売を本格的に開始しましたから、「情報財流通」の側からの構造変革の波は国外から(そう意識されることもあまり無いまま)押し寄せています。
そして、草思社破産以降も続々押し寄せるだろう出版社の“苦境”がこの後さらに過酷になるだろうと感じるのは、ひとつには「出版システムの機能不全」が業界内部からは一切省みられることなく、その一方でウィキノミクスの圧倒的な“変化”は恐らくスパイラル的に加速を遂げ、「情報財生産環境」としての影響力を一層増していくだろうからです。
■イノベーション機会としてのパラダイス鎖国
パラダイス鎖国的な安穏(この場合は出版システムの構造的安定)はある一面で文化保護の美名で業界の安寧を維持するファイアーウォール的な役割を果たしますが、その反面ウィキノミクスのような「国境の無い巨大な知的労働移転」は、出版業界とはまったく関係の無いエコノミーとして(でも、現実には関係性を持って)出版システムを切り替えざるを得ないでしょう。
そのコペルニクス的転回(サプライサイドからではなくユーザードリブンで出版構造変革が進んでいくこと)に際して国内ベンチャーができることは膨大にあります。
ですが、出版システムの構造的機能不全というドメスティックな問題への対処療法的な試みは碧天舎・ビブロポート破綻に見られるように非常に困難な面があります(という検討が加えられるというだけでも両社の“失敗の価値”はあると考えられます)。
鎖国制度内ではドメスティックな制度維持への復元力が強いので、ベンチャー企業の悪戦苦闘は余り報われそうにありません(でも、一方では国外からの黒船来航には脆弱)。
ですから情報財生産拠点への取り組み=チープレイバー戦略と考えたほうが現実には成功の確率は高いでしょう。ただ、それを「出版エコノミクス」という視点から捉える動きはまだ非常にレアで、CGM環境=「広告エコノミクス」としてのみ捉えている限りはグーグル経済のプラットフォームの範疇に収まってしまうように感じます。もし機会があれば、出版エコノミクスとしてのCGMについて、さらに検討を加えてみたいと思います。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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