■2006年3月に何が起こっていたか?
前回エントリーで触れた「碧天舎」および「ビブロポート」の経営破綻ですが、それを「出版システムの構造改革に挑もうとした暴挙の破綻」 として捉える動きはありません。
ですが、その事業構想が描こうとしていた未来像は明らかに小部数発行(1冊単位で増刷可能)および電子化(在庫不要=書籍の情報化)による「絶版の発生しない出版インフラ」でした。
そして両社が破綻した2006年3月とは、実はYouTube(2005年5月創業)が飛躍を遂げた、まさにエポックメイキングな瞬間でもありました。
2006年上旬にはYouTubeの映像をブログなどに貼り付け、簡単に見られるAPIも公開され、爆発的に普及した。日本ではこの頃から2ちゃんねるやブログなどで紹介され人気が上昇、2006年3月頃からニュースサイトで取り上げられるようになった。
また、Wikipedia英語版の登録項目が100万項目を超えたことがニュースになったのも同じく2006年3月です。
読者が作るオンライン百科事典Wikipediaで項目の登録件数が100万件に達したと、同サイトを運営する非営利団体Wikimedia Foundationが米国時間1日夜に発表した。
http://japan.cnet.com/news/media/story/0,2000056023,20097674,00.htm
YouTubeおよびWikipediaという今やネット生活に欠かせないサービスが浸透したのは意外と忘れがちなのですが06年以降のことで、 本当にまだまだ日の浅いことです。
■YouTube/Wikipediaの情報経済学
両社の破綻がたまたま06年3月だったこととの符合をそのままこれらのニュースと直接結びつけるのは強引な牽強付会のようですが、実はその事業構造の深層に於いては関係しているように感じます。
それは一言で言うと「出版システムの構造改革」を「出版インフラの改善」という角度から考える考え方の「無理」と、「結果としては出版システム(を含んだ情報エコノミー)の構造変革に繋がってしまうネットエコノミクス」との“対比”として考えられるような気がします。
YouTubeはビデオコンテンツを扱っているわけですし、Wikipediaは百科事典とはいえ本来百科事典の出版構造をどうにかしようと思って始まったサービスというわけではありません。
ですが、「DVD書籍流通」および「百科事典」に限らず辞典的な書籍の流通という切り口に限って、それらのサービスの起こした構造変化を捉えてみると、実は“結果として”ですがYouTube/Wikipediaは情報財生産に関して、既に大いなる構造組み換えを実現してしまっています(例えば、一例として「知恵蔵」と「イミダス」の休刊は2006年末のことです)。
この“動静と消息”を考える上で有効なコンセプトとしては、ひとつには「ウィキノミクス」の考え方があります。
■ウィキノミクスのチープ革命
ただ、ウィキノミクスと言いますと、知的生産行為のボランタリー経済化という比較的“理想論”的な見方と捉えられる傾向が強いように思えるのですが、たとえば下の論考(「チープレーバー・ギフト」と「オープン・アーキテクチャーの進化形?」---『ウィキノミクス』を読んで)など参照しますと、「知的労働のネット集合知化」とは「知的生産拠点の国際分散化、流動化」 という意味では非常にリアリスティックな出来事だといえます。
ここで挙げたケースは「ウィキノミクス」とは性格が異なるかも知れないが、別に本業を持っている方々が何かのついでに行うという面では共通点があるように思った。いずれにせよ、「ウィキノミクス」のコラボレーションに参加される方々は、別のところで生活のための給料をもらい、謝礼程度か場合によっては無償で仕事をしてくれるわけだから、参加してもらう側にとっては、人件費面でのメリットが大きい。
このあたりを考えながら読んでいて、なぜか以前のコラムで紹介した「チープレーバー・ギフト」(これに関するコラム)という言葉を思い出した。「チープレーバー・ギフト」は,ドイツ証券副会長の武者陵司氏が著書の中で使った言葉で、中国の貧困層を中心とする労働者が低賃金労働をすることにより世界経済に付加価値を生んでいる状況を世界経済に対するギフト(贈り物)だとする見方である。こう言うと語弊があるかもしれないが「ウィキノミクス」を「チープレーバー・ギフト」だと考えると理解しやすいのではなかろうか。
90年代後半以降劇的に発生した生産拠点のアジア圏化とは、詰まるところ圧倒的に安価な中国労働者による生産労働の大規模移転です。
2005年時点でも、「1日の収入が1ドル未満(月収約3,500円未満)の貧困人口が1億7千3百万人もいる(アジア開発銀行報告)。その内、月収にして1,000円以下の人たちが8600万人を占める(国務院扶貧弁公室)。(参照先はこちら)」 という中国の状況を考えるとこの動向は当分継続しそうです。
非常に長くなってしまったので前編後編に分けました。
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