■新風舎の倒産から学ぶ..ビジネスモデルのネジレは負のスパイラルに繋がる
新風舎の倒産が波紋を呼んでいます。これで業界第三位だった碧天舎(06年3月に倒産)に続いて業界第二位が脱落したことになります。
この場合の「業界」とは一般的には「自費出版」業界と言うべきなのでしょうが、実態としては「出版サービス業界」とでも呼ぶべきビジネスモデル(※1)でした。
ただ、実際にはそのような呼称は存在しませんしユーザー(執筆者)もサービサー(出版社) もそのような認識・定義はしていませんでした。
でも、現実にはユーザー視点=「出版社ビジネス」への参加という“認識”に対して、サービサー側の“実態”=出版サービスの提供(但し、そのサービスの満足度は別問題として)という大きな食い違いがありました。
この食い違いこそが新風舎的ビジネスの本来的なギャップであり、この「業界」への批判の根底に横たわっていた「問題」(※2)のように感じます。
■お互いがWin-Winになれないビジネスはリピーターを産まない
そもそも、「自ら出版した書籍をすべて定価で買い取ったときの総額よりも自己負担した出版協力費用の方が断然高い」というコスト構造(※3)を適正に説明できるロジックは「それは付加価値サービスだから」以外には無いように思います。
ですから、本来そのような利益構造(出版社の側はサービスを提供することで対価を得る=出版物の販売では儲からない)を元に成り立っていることを適正に説明したうえで「出版サービス契約」を両者納得の上で結ぶというビジネスモデルであれば(ビジネスとしての成否はともかく)商売としての不透明さやロジックのネジレは無かったように思います。
なにしろ「増刷すればするほど出版社が儲からない」仕組みである以上(※4)、増刷するための営業インセンティブは生まれようがありません。
ユーザーにとっては「増刷して印税が入ってくる」という期待感がありながら、その一方で出版社としては「刷れば刷る程コストが掛かり赤字が増す」という関係性ではWin-Winの関係は築きようがありません。
■もしも、本来のミッションに忠実であったとすれば..
でも、本来的には「出版リスクが限りなく低く」「点数を出せば出すほど儲かる」仕組みであるはずの出版サービス業がなぜ破綻してしまうのでしょうか?
これは、本質的には、ビジネス構造的にリピーターを産まない構造がセットされているという前提がまず考えられます。実際には増刷をされない(適正に営業されない)というビジネスは、構造的にリピーターを呼び寄せられません。
顧客の争奪が激しくなることによって顧客(執筆者=サービスユーザー)獲得コストがどんどん掛かってしまうという収益構造の破綻だと言ってしまえばそれまでです(新聞広告は“効果”ではなく“カバレッジ”に対しての単価設定ですから、不可避的な固定費的な営業コストとして非常に大きく経営を圧迫していたようです 注:同業態の「文芸社」の場合、2003年の売上高57億円に対して新聞広告費は27億円であった)。
ですから、もしも本来的な共同・協力出版のビジネスコンセプトに従うのであれば、その顧客獲得のために掛かっていた膨大なプロモーション費用はユーザーによって執筆された書籍の販売促進に対して積極的に配分・投下されるべきものだったと言えるでしょう(新風舎モデルの場合はそういった収益獲得構造にはなかった)。
■もしも、その自費出版ビジネスを再構築するのであれば..
改めて考えてみますに、「出版サービス」業として新風舎的なビジネスモデルを再構築するとすれば、二つのメソッドがあるように思います。
ひとつは「冠婚葬祭」ビジネスのように、個人のメモリアルとして出版サービスを提供する立場。もうひとつは本来の定義どおりに、「共同」事業として、お互いが「協力」して、執筆者と出版社がパートナーシップを組んで取り組むという立場です。
この場合それぞれのビジネスコンセプトは全く異なるものになります。
「冠婚葬祭」バージョンの場合はとにかく記念行事としての顧客満足度が重要です。また、「パートナー」バージョンの場合は、ヒット書籍を成立させるための関係性の構築がなにより肝心です。
そして、「パートナー」バージョンの方は、多かれ少なかれ通常の書籍出版ビジネスとして成立しているパターンでもあります。
■著者と版元は本来的にはパートナー関係のはず
それはなぜかというと、キャッシュによる事前の費用負担は無くても、一定の組織(ファン組織や利益共同体など様々ですが)あるいは読者層(固定ファンという母数がある場合など含めて、これも多様な形態が考えられます)が確保されているということは、「採算分岐が読みやすい」という点で既にある程度確度のある利益を供与していると考えられるからです。
ネットという新しいプラットフォームを扱った出版ビジネスは、そういった点で執筆者自身がある程度可視化された形で「一定確度のある読者層の提示」ができるだけでなく、それを継続的にメインテナンスしたりダイレクトに働きかけることのできる非常に有力なツールを最初から手にしていると言ってもいいでしょう。
であれば、ネットユーザーでブログ等のパーソナルなメディアを持っている場合かなり説得的な出版企画を提示可能な状態にあると言えますし(コンテンツの固有価値や影響力など含めて魅力的かどうかは個人の力量次第ですが)、そういう立場であれば、出版社とのパートナーシップとしてもかなり有利な立場でフェアに交渉できると言えます。
これは本来的な意味での協力出版的な関係性を意味します。
■自費出版的なアプローチはネットならではの可能性がある
正直言って、執筆者からの収益で成り立っている「出版サービス」をあたかも通常の「出版」であるかのように見せかける手法は好ましくありませんし、お互いの共存共栄を図っていくことは非常に困難です。そういったビジネスは本来収益の源泉になるはずのリピーターをもたらしませんし「負のスパイラル」効果によってますます新規ユーザー獲得コストが高騰していくことになってしまいます。
ですが、その一方で「執筆者自身が(必ずしもキャッシュだけでなく)コンテンツ制作以外にマーケティングやプロモーションを自己負担していく」ような出版のスタイルは今後も可能性があるのではないでしょうか?なにしろ機会コストは圧倒的に低コスト化している訳ですし、リアルタイムマーケティングしながら執筆するようなターンアラウンドの速さというのは新しい書籍コンテンツ開発のパワーになり得るものですから。
その一方で「マジックミドル」領域(中規模の個人メディア)を扱う意欲的な(ブログネットワーク的な)パブリッシャーの存在はまだまだ少なく、これは今後の課題だと言えると思います。
また、ブログネットワーク的な視点で(つまり、アテンション経済の視点ですね)従来の出版ビジネスを捉え直してみることで、既存出版社と新しいタイプのパブリッシャーとのWin-Winモデルが構築できそうです。それについてはまた改めて、もう少し踏み込んだエントリーを書いてみたいと思います。
※1 協力・共同出版に見るビジネスモデルのネジレ
文芸社・新風舎の盛衰と自費出版(11)本質論とメディア、業界への提言(抜粋)
http://www.news.janjan.jp/media/0701/0701238649/1.php
協力・共同出版社の場合、提携書店や協力書店での販売を謳っていることが多いのですが、限られた提携書店だけでの販売では、多くの本を売ることは困難です。「売れない」「書店に並べられない」などといった問題が生じるのはこのような販売方法にあります。多くの本を売りたいのであれば、一般の商業出版のように、新刊を発行した時点で取り次ぎを通した委託販売方式をとる必要があるでしょう。
出版社が本当に出版費用の一部を負担しているのなら、流通・販売に耐えうるレベルの本に仕上げる必要があります。一定のレベル以上の作品を選んで丁寧な編集作業をおこない、販売できるレベルまで質を向上させるでしょう。しかし、はじめから売る気がなければ、編集に時間をかけて良質の本をつくる必要もありません。
すべての批判の原因は「著者の負担する費用が適正か」「出版社が本当に一部の費用を負担しているのか」という問題に帰結します。
※2 協力・共同出版に見る契約関係のネジレ
文芸社・新風舎の盛衰と自費出版(8)崩壊する出版業界と協力・共同出版(抜粋)
http://www.news.janjan.jp/media/0612/0612010717/1.php
協力・共同出版の契約は,著者(創作者)が出版社(商品生産者)に出版権(複製と頒布の権利)を設定する際の条件についての契約です。著者の負担金も制作代金ではなく出版社への協力金・協賛金という性格のものです。著者は本を買う消費者でもあるのですが、出版契約においてはあくまでも作品の生産者であり、純粋な消費者といえるかどうか疑問があります。
制作請負契約を交わす自費出版の場合は、本を制作する事業者と制作サービスを受ける消費者との契約ですから消費者契約法が適用されますが、協力・共同型出版では消費者契約法が適用されない可能性もあります。協力・共同出版は自費出版とは基本的に異なると認識すべきなのです。
※3 自費出版ビジネスモデル理解のために..その特殊なビジネス構造とコスト構造
書店流通型自費出版 初級講座
その費用負担は適切か? 計算式でチェックしてみよう!(抜粋)
http://www.kobeport.net/news/kyodo.html考察1:もしかすると、あなたに提示された見積額は、出版されたあなたの書籍を、あなた自身が書店で全冊定価購入した時よりも高い金額にはなっていませんか? それって不思議ではありませんか?
自費出版の場合は、あなたの原稿をそのまま印刷・製本するものから、読者を意識して高度で丁寧な編集を行うものまでサービス内容に著しい幅があるので、その費用が高いとか安いという判断は簡単にはできません。
しかし、共同出版の場合は、そうではありません。
なぜなら、共同出版の場合は、「書店に流通させるための書店価格が設定されている」からです。書店価格が設定されていて、初版部数がある以上、共同出版費用には「適正価格」(適正負担額)というものが存在するはずです。(編集や装丁も書店流通を前提としているので、それに堪え得る編集作業や装丁作業は原価の内に含まれて当然のはずです。)
※4 執筆者と出版社がWin-Winになれない=コスト構造が増刷前提に構築されていない
私が共同出版を断った理由(抜粋)
http://www.kobeport.net/rental/nakano/1.html
疑念@:初版部数500部
共同出版=自費出版と考えた場合、全ページカラー印刷の実質写真集なので総費用が260万円というのは決して高すぎる金額ではない。しかし、初版部数が500部だと、すべての自著を書店で定価購入しても3,500円×500部=175万円にしかならない。支払う260万円との差額は何なのだろうか? もし、この作品が話題を呼び、すべてを書店ルートに出荷した場合は約123万円(書店価格の約70%)で、出版社は利益を上げなければいけない。
ここで2つの考えができる。支払う260万円と書店にすべて流通させた場合の123万円との差額137万円は、
@出版社がぼろ儲けしている。
A売れるはずのない本をつくるための演出。
「出版社がぼろ儲けしている」のなら、実は、まだ許せるのだ。
問題なのは「売れるはずのない本をつくるための演出」だった場合だ。
○○社の示す3,500円という書店価格は印刷・製本工程に疎い一般の人にとっては一見非常に高そうに見えるかもしれなしが、初版500部という場合、(『会社を休んで59日で世界一周』を全ページカラー印刷で書籍化した場合)実は不自然に安すぎるのだ。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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どうも!情報起業系も一概に否定できないですよね。新しいビジネスは少なからずそういう怪しさを最初は持っているものですし。
リバタリアンの教科書的な本を読むと15年位前までは広告代理業も、相当社会アンチな受け止められ方をしていた痕跡が伺えます(米国の本ですけど)。
また、いろいろコメントいただけると嬉しいです。