さて、後編です・・(前編はこちら)。
■スティーブ・ジョブズかく語りき..DRMは百害あって一利なし
そして、その後もアップルは(特に欧州各国の消費者団体から)DRM囲い込みに関してひっきりなしに批判を受け続けていました。
また、その一方で、オープンなDRMの開発というオルタネーティブな方法も検討されていました(望まれるDRMの形とは?--iTunes DRM公開法でフランスが残した教訓 CNET Japan )。
ところが、2007年2月、DRMによって最大の恩恵を受けていると思われていたアップルCEOスティーブ・ジョブズは思いもかけない公開書簡を発表します。
Jobs氏は、「すべてのオンラインストアが、オープンでライセンス可能なフォーマットにエンコードされたDRMフリーの楽曲を販売する世界を想像して欲しい。
このような世界では、すべてのプレーヤーがすべての店舗で購入した曲を再生でき、すべての店舗がすべてのプレーヤーで再生可能な曲を販売できる。これが消費者にとって最良の選択肢であることは明らかであり、Appleもこの選択肢を支持する」と書いている。
この書簡は当時非常に注目されましたし、レコードレーベルに対しての挑発的な言辞は話題になりました。
■改めてDRM不要説を振り返る。
実際、同記事では「DRMシステムを使って業界最大の利益を上げてきた企業が業界に『この仕組みには問題がある。直さねばならない』と言っているのだから、とても興味深い」との識者コメントが添えられています。
また、当時この書簡は多くのブログ等で“スタンドプレー”的な扱いを受けていました。つまり、どの程度本気なのかに疑いの目が向けられていたのです。
ですが、その真意は、やがて大手レーベルによるDRM撤廃およびiTunes Plusの開始という形でリアライズされ、私達の前に姿を現します(DRMフリーで音楽配信が変わる? iTunes Plusを試す−ウォークマンでも再生可)。
DRMについて考える上で非常に参考になるコメントなので、改めて彼の主張を振り返ってみたいと思います(参照したのは「著作権管理にはメリットなし!? 欧米で広がるDRMフリーの音楽配信」 ITPro です)。
1) AppleがFairPlayを公開することでセキュリティが漏れ、その情報は瞬時にネット上に流出してしまう。
定期的に強固なFairPlayにアップデートして、それをサーバー・ソフト、クライアント・ソフト、そして世界中の端末にまで行き渡らせるのは至難の業であって、それをサードパーティとの協業まで広げて実施するのは不可能に近い。つまり、FairPlayを公開した上でレコードレーベルが求める著作権保護の要求レベルに応じるのは困難。2) DRMを撤廃してDRMフリー楽曲の配信に踏み切れば、このようなコストを掛けずに済む上に円滑な楽曲の配信と多様なデバイスでの楽曲利用が可能になる。
3) そもそも音楽産業の売り上げの90%はDRMの無いCDによってもたらされており、それらをRIPすれば簡単にネット上で音楽が交換される筈であり、そもそもDRMの強化という方針は既存の音楽マーケットの成り立ちとも矛盾している。
4) むしろ,DRMはレコード会社の意図とは逆の方向に作用している。音楽のネット配信業者はDRMシステムを開発し、それを運営し、日々アップデートしていかなければならない。
これには多額の費用がかかる。これが新規参入を阻んでいる。もしもDRMが撤廃されれば革新的なオンラインストアや音楽プレーヤ開発企業が参入しやすくなって、音楽業界は活気づくことになる。
■大きかった2007年の音楽産業の変化
音楽産業がアナログ→デジタル→ネットへと技術的なパラダイム変化を乗り越えていく過程で、その反動として浮上してきたDRMによる楽曲管理は、結果として新しいビジネスの台頭=産業そのものの新陳代謝を阻害しているというのが、この公開書簡の眼目だと言えるのでしょう。
ジョブズの立場としてはアップルの利害を最優先すべきなのですが、その前提として産業全体の活性化を期待しているという点は注目してよいと思います。
実のところ、iTunes Plusの成果は余り芳しいとは言えません。それは、DRMフリーのメリットの分かりづらさと価格設定。そして対応楽曲の少なさなど、ビジネスとしての洗練度の低さに起因するもののように見えます。
ですが、アマゾンがDRMフリー楽曲の配信事業に乗り出した他(DRMフリーの音楽ダウンロード「Amazon MP3」、公開ベータ開始)、冒頭記事にもあるように四大レーベルはDRMフリー楽曲の提供を開始しました(参考記事:「EMIは打つ手がなかった」――DRMフリー化と「CCCD」という無駄 そして日本は)。
ジョブズの書簡が去年の2月ですから、まだ1年も経っていないのにも関わらず、その影響と変化は非常に大きかったと言えるでしょう。
■DRMが普及したら補償金制度廃止..は良策なのか!?
そこで、先に取り上げた文化庁のDRM救世主説なのですが(「DRMが普及したら補償金廃止」――文化審、大詰めの打開策)、上に辿ったような06年以降のDRM議論はほとんど反映されていないように感じます。
少なくとも業界(電機メーカー)と権利者団体の利害調整案としては歓迎されているのですが、(1)今日的なビジネス動向および(2)DRMの抱える本質的な限界(技術は常に進展するためDRMを破る技術とのいたちごっこが終わらない)は余り意識されていない。あるいは意識的に避けているように感じます。
そもそも文化庁はその省庁ミッションとして「文化保護」イシューの観点から今回の私的録音録画問題を捉えているでしょうから、産業振興あるいは「ビジネス及び技術のイノベーション」という観点からのアジェンダ設定は考慮していないと思います。
ところが、私的録音録画を巡る議論は今後のネットワークにおける著作権問題に関しては相当影響度の大きい案件です。ですから、このまま、「補償金制度には問題あり」→「DRMによる管理を強化して私的利用を制限しよう」という安易な方向に議論が流れてしまうことには強い懸念を覚えます。
■日本のインターネット産業に於ける負の非関税障壁
もしも今後世界的なDRM撤廃が進んでいくなかでも、この「20XX年の私的録音録画制度」を方針として遵守していくようなことになれば、ダウンロード違法化も併せて「マイナスの非関税障壁」とも言うべき、国内インターネット環境のバックラッシュが起こるのではないでしょうか?
実際、DRMが前提のシステムとして著作権法制度を構築するとなれば、その構築コストだけでなく、その制度が維持されることによるビジネス及びテクノロジーの抑制が、新興企業と新興市場にとってのマイナス成長力となるでしょう。
(なぜマイナス成長力なのかといえば、海外で利用可能なサービスがあれば国内ユーザーはそっちを利用するだろうからです。 参考資料:「著作権物の「公正使用」,2006年に4.5兆ドル以上の経済価値を創出」)
さらには、世界中どこでも使われない「日の丸DRM」を官民一体で開発しよう!なんていう事態が想像できるうえに、本当にそういうことをやってしまいそうで(こちらは検索エンジンの分野ですが07年には、「国産でGoogle越えを狙う情報大航海プロジェクトコンソーシアム発足」なんていうニュースもありました)薄ら寒いものがあります。
そして、そのような公共事業が業界の一部に利益をもたらしたとしてもコンテンツ産業全体の地盤沈下は止まらないでしょう。
■フェアユースがもたらすイノベーション機会
年末年始はiPodにニコニコ動画内の初音ミク楽曲を満載して帰省したのですが結構快適でした。そしてその快適さは別に無料で音楽を楽しめるという理由からではなく、好きな楽曲を好きな場所で好きなように聴けるからなのです。
もしも使い勝手のよい課金ルートがあれば私は間違いなく対価を支払うでしょう。そして、著作権管理によってガチガチの環境では、恐らくこのような楽曲は生まれなかったでしょうし入手することも無かったでしょう。
参考資料:著作権物の「公正使用」,2006年に4.5兆ドル以上の経済価値を創出
日米欧の大手コンピュータ企業/通信会社で組織する業界団体、米国のComputer&Communications Industry
Association(CCIA)は米国時間9月12日、著作権物の「フェア・ユース(公正使用)」に関する調査結果を発表した。それによると、2006年に米国では、フェア・ユースの適用が4兆5000億ドルを上回る収益を生み出したという。これは同年の米GDP全体の6分の1に相当する。フェア・ユースとは、一定の条件下において、著作権保有者の許可を得なくても、米著作権法で保護されたものを使用できるとする規定。2006年にフェア・ユースがもたらした経済価値は,2002年と比べ31%増加した。
フェア・ユースは,米国の経済成長の18%を担い、1100万人近い雇用を創出したという。実際,米国では労働者の8人に1人が、このフェア・ユースから恩恵を受けている業界に職を得ている。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Research/20070914/281944/?ST=ittrend
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