■『著作権法改正巡る2つの対立・「思いやり」欠如が招く相互不信』って本当に「相互不信」なのだろうか?
岸博幸さんの『著作権法改正巡る2つの対立・「思いやり」欠如が招く相互不信(岸博幸の「メディア業界」改造計画)』を読んでとても奇妙な印象を抱いたので、それについて書きたいと思います。まず、岸氏は「コピーワンス問題を巡るJEITAの対応(詳しくはこちらの記事を参照のこと)」について下記のように述べられています(今回のエントリー内の引用で断り書きの無いものは上記の岸氏コラムよりの引用です)。
この問題は、権利者のハードメーカーに対する不信感を決定的なものとする危険性があるのみならず、コピー・テンスという合意をも反故(ほご)にしかねない。
JEITAは、「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見」を通じて、その意見の趣旨および根拠を明快に述べており(デジタル放送の録画について「どのようにコンテンツが利用されるか、想定が可能であるので回数にかかわらず補償は不要である」とする公式見解を発表。上記の参照記事より)、不信感をいたずらに煽るような(つまり議論としての妥当性を欠いた)内容のコメントを述べているとは思えません。それどころか下記の主張は十分に納得に足る内容であると考えます。
一定の管理可能な私的録音録画については著作権法30 条の適用除外とすべきであり、また、契約が存在する場合には私的自治の原則を尊重したオーバーライドの理論により、契約が優先適用されるべきである。この点については中間整理でも同様の整理がなされているが、どのような態様の録音録画行為が除外されるべきかについての現状の整理は不適当である。
そもそも著作権法第30 条が、家庭等の閉鎖的範囲で行われる私的録音録画について著作権者等の権利行使が事実上できないことに鑑みて制定されているとの立法趣旨に照らせば、技術やビジネスモデルの活用によって、著作権者等の権利行使が可能となる場合には、私法の原則どおり私的自治が優先されるべきである。「私的録音録画小委員会中間整理に関する意見」より抜粋
そして、ダウンロード違法化に対するMIAUのアクションについて、岸氏はまず下記のようなコメントによって「ダウンロード違法化支持」の立場を示します。
これまではアップロードのみが違法行為とされていた。しかしそれだけではネット上での違法コンテンツの流通の抑制は困難であり、放送番組を含むあらゆるコンテンツが被害を受けているという判断を踏まえたものであり、罰則規定こそないものの、ネット上のコンテンツ流通に新たな規範が追加されることになる。
MIAUは、「私的録音録画小委員会中間整理」に関するパブコメ提出を通じてダウンロード違法化に異議申し立てをするべき根拠と方法について、自身のHP上で詳細な問題提起と説明を試みています(著作権法に求められているのは、一部の権利者が権利侵害を便利に主張できることよりも、一般ネットユーザーが著作物を変なかたちで妨げられることなく便利に利用できることであると、私たちは考えます MIAUサイトより)。
デジタル技術及びインターネット環境に対する盲目的な恐怖感を抱き続けるより、その適正な利用・応用を通じて新しいコンテンツ流通を促進すること。新しい規範とはそういった積極的なアプローチを通じて発見・獲得されていくものではないかと考えます。
■その対立図式そのものが時代のリアリティから大きくズレているのではないだろうか?
デジタル技術及びインターネット環境側をコンテンツ権利者の敵対者あるいは対抗勢力として対置するような思考法はもはや現実的にメリットが無いだけでなく、リアリティのある議論を闘わせる(本質的な)対立構造をさえ見失わせてしまう可能性があると思います。ただ、岸氏のスタンスは、あくまでデジタル及びネット対コンテンツ権利者という図式から離れません。
デジタルやネットの関係者には当たり前のことを今一度認識してほしい。デジタルは手段でしかないし、ネットは流通経路でしかない。それらを通じてユーザーの元に届く魅力あるコンテンツの量が増えてこそ、そういった手段も栄えるのである。
ここでは、プロのコンテンツ制作サイド=非デジタル・非ネットという前提条件の設定がなされているようですが、それは「虚構」なのではないでしょうか?
デジタルおよびネット側=プロのコンテンツ制作サイドでは無い人たち(あるいは、アマチュア・レベル)という設定に果たして「なるほどそうだ」と頷けるでしょうか?そして、「不毛な批判を続ける余裕はない」という締めくくりに、下のようなコメントが述べられます。
自分の立場だけを考えた不毛な反対や批判を続けて相互不信を増大させるような時間的余裕はない。
「相互不信の種とはそもそもコピーワンス問題の不透明感、私的録音録画補償制度の旧態依然、ダウンロード違法化の無理」などではなかったのか?と思いつつ、「デジタルやネットの関係者」とひと括りにした上で「コンテンツ権利者」との対立構造として問題を捉える思考法そのものに無理を感じてしまいます。
もちろん、ここで述べられている「著作権利者団体」と「JIETA」及び「MIAU」は、少なくとも、「私的録音録画小委員会中間整理」については利益相反の土俵上にいます。
ですが、消費者=エンドユーザーにとっての利便性・経済性を将来的な見通しも含めてキャッチアップし続けることを今回の議論のテーブルに持ち寄れるのであれば、ダウンロード違法化やコピーワンス問題、そして私的録音録画補償問題についての判断基準としては、「技術動向および消費者行動の変化」の正確な理解および適正なルール形成についての検討こそが優先されるべきでしょう。
「ネットおよびデジタル技術が権利者の所得機会を奪っている」という被害者意識(※「PtoP技術」の効用については池田信夫氏のブログで言及されています)に基づく敵対行動ではない筈です。
■「相互不信」とは、そもそも権利者団体の蒔いたタネだったのではないだろうか?
私的録音録画補償問題については、その具体的な被害状況の把握や数値の見積・算定などの無いまま「複製行為があると自動的に不利益が存在する」という抽象的な議論しか見られません。
また、補償制度が現実にどの程度クリエーターの経済行動に対して寄与していくのかの見通しや見積も提出されていません。
このような状況下で具体的根拠の薄い、罰則的な内容を含む著作権法改正を行うにあたっての本質的な議論がなされているのか?正直、疑問を禁じえません。そういった疑問に対して、曖昧で空虚な「思いやりの欠如」を主張する本コラムの意図がどこにあるのかもよく分かりません。
議論の駆け引きとして「核心をずらして土俵を切り替える」という方法論があることは心得ていますが、それもこれも「勝ちどころ」が見えているからこそ使える方法です。「思いやりの欠如」というナニワブシで著作権法改正の舵取りを引き寄せるというのは少し無理がありはしないでしょうか?
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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