最終更新時刻:2009年11月11日(水) 12時51分
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モグラの日々。SIer時代の暗黒記憶。

公開日時:
2007/11/11 20:37
著者:
尊仁

■国内IT産業絶望論を読んで...

国内IT産業絶望論を読んでとても懐かしくなったので自分自身が国内SIerの末端にいた当時を思い返しつつ、その情景を書き残しておこうと思います。

国内金融企業が第三次オンライン開発に血眼になっていた時代ですから今から20年前。信託銀行四行がセンターを創設して共同開発を行っていました。新人として投入された現場では IBM Virtual Machine OS + PL/I による勘定系システムの書き換えという大掛かりなプロジェクトが地響きを上げながら多砲塔戦車の如く前進していました。

参加四行の開発環境が従来UNISYS他様々であっただけでなく、それぞれの開発思想や設計理念のみならず業務内容なども当然異なっているわけですから、文化のすり合わせという点だけを取り出しても膨大な時間が費やされているようでした。

「バベルの塔」とはよく言ったもので、同一の大テーブルにまったく異なるアーキテクチャーの出身者が顔を揃えていると言う状況でしたから、開発よりも会議の時間のほうが長かったのかも知れません。

しかも日本語で記述された仕様書からPL/Iに自動翻訳して「仕様書=ソースコード」理念を墨守しようという先端的な(=ハイリスクな)開発思想を採用していたため、不具合の連続だったように記憶しています(結局ソースを直接手直しするという悪習?は根絶できなかった)。

で、話はその業務に突入する半年前に遡るのですが、幹部候補生数十名がまとめて半年間放り込まれたSE研修という特別講座がありました。その際はSystem/370+COBOLという開発環境でした。その時点でMacintosh Plusを手に入れていた自分にとっては、死にたくなるような旧石器時代の遺物のようなシステムだったのです。

■ 今から考えると、時代の大きな変化に立ち会っていたハズ

その当時ではまだ一般的ではなかったGUIだけでなく、オブジェクト指向開発言語やネットワーク機能などがすぐ使えたうえに(現在ではこれらは当たり前なので驚くにあたらないですね)コンピュータ単体として比較しても、31ビットの汎用レジスタ×16、制御レジスタ×16の370に比べて、32ビットのデータレジスタを8個、また、32ビットのアドレスレジスタを8個有しているMC68000(Macintosh Plusに搭載されたMPU)は、あまり遜色がありませんでした(その頃、メインフレームとパーソナルシステムが潜在的には同じ土俵に登りつつありました。その後マルチタスキング、仮想記憶、仮想マシンなどパーソナルコンピューティング環境は飛躍的な進化を遂げます)。

しかも、System/370を使う際には数十人がTSO(Time Sharing Option)を通じてアクセスしてバッチ処理を流し、夜間バッチでいったんコケルと大量のダンプファイルがLBPから吐き出される(=プリントされてセンターに届けられる)という想像を絶するターンアラウンドでしたから、日ごろスクリプト言語でさくさく書いていた自分にとっては信じられないような環境でした(ほとんどの同僚たちにとってはこの講習がプログラミング初体験だったので不満は無かった訳です)。

370のメインメモリが32MB。HDDもLBPもセンターの奥に鎮座していて、個人利用はきつく制限されています。それが、ひとたび社員寮に帰ればMacintosh 2MB + LaserWriterが使い放題。Nifty-Serveにログインすれば(Internetはまだ無かったのですね)開発情報は自在に交換可能。それこそ、ソースコードを教えあうことでお互いのノウハウはどんどん高まっていきます。それに比べると業務環境では同僚内でも相談しあうなんてことは行動規範的になかった記憶があります。

■パーソナルコンピューティングが“革命”だった時代

現時点では、個人のコンピューティングやネットワーキングは非常に高度化しており、物理的なコンピューティング・パワーそのものが個人による社会変革のツールになるというような理想論は余り意味を持ち得ません。

それに、企業に於けるコンピューティング・パワーは言っても、それは単にメインフレームをどれだけ所有しているのか?とか、その利用技術をどれだけ蓄積しているのか?といった素朴な時代ではないだろうと思います。

ですが、当時の自分の感覚としては、IBM メインフレームの巨大なピラミッド構造の最底辺にいて、サブルーチンのサブルーチンを書いているときの利用環境と、社員寮に戻ればすべてのリソースが使い放題。その気になれば世界中にアクセス可能(Nifty-ServeはCompuServeとゲートウェイしていました)。 ツールも言語も、最先端のものを自腹でどんどん仕入れられる環境とを比べたときに、その余りの落差に愕然としていたわけです。イノベーションは目の前で起こっている。でも、本来、常に書き換わるべきビジネス・コンピューティングの世界は保守性こそが美徳という印象でしかありませんでした(少なくとも現場の若造にはそうとしか感じられなかった)。

それこそ入力文字を判別するルーチンだけでコーディングとテスティングにまるまる一ヶ月を掛ける。今から考えれば、生産性の考え方そのものが違う尺度だったのだろうと思うのですが、内心「これは10分仕事だなあ・・・」とか思いながら机に向かっていたのでした。

■ピラミッドの建築現場で巨石を運び続けることには耐えられなかった。

その頃、本当にうんざりだったのは、実はマシン環境のことでも(会社のほうがプアな環境だったとしても、仕事と割り切れば苦にはならない)、 開発環境のことでも(COBOLやPL/Iがいかにお粗末な言語だったとしても、使っている内に愛着が沸いたかも知れません)、あるいは厳しかった人月管理のことでも(人月で生産性管理される立場は余り嬉しくありませんでしたが、非常に優秀で頭角を現している先輩はいましたから成長への憧れは無くはなかったのです)なく、その恐るべき「ピラミッド構造」=個人の創造性抑圧装置だったと思います。

考えてみれば、なぜパーソナルコンピューティングに目覚めたのかといえば、自分自身の創造性を最大限に発揮させるというのが明確な動機付けです。ところが、当時のピラミッド構造内から這い上がっていく過程にはまるで創造性を感じなかったのです。

実際、特別講座の講師は、個人の創造性なんてものがシステム構築の足しになるとは一切考えていませんでしたし、そもそもパーソナル・コンピューティング自体を認めていませんでした。

■没収されたマッキントッシュ

ですから、社員寮で毎晩フリー・ソフトウェアの開発に使っていたマイ・スィートMacintoshは没収され、パーソナル・コンピューティングは永久停止の憂き目に遭うのですが、それは本来ピラミッド型開発思想からはすれば排除されるべきものだったと思いますし、思想的に相容れない以上は排除される他無かっただろうと感じます。

コンピューティング環境もシステム構築概念も大きく変わってしまった現在からは余りに遠い過去の話ですし、話の当初の国内IT産業絶望論とは直接関係する部分は無さそうです。

ところが、面白いと思ったのは、その我が愛するMacintoshを没収した元在籍企業は、やがてウェブ・エコノミーの一角で影響力のあるキープレイヤーを多数買収し、VC業だけでなくシステムと人的サービスを融合した新業態を着々と生み出しつつあることです。

そういう意味では米国主流のメインフレームに寄生していた、当時の開発者派遣業務からは大いなる変化を遂げたのではないかと推察しますし、そういった切り替えの速さには率直に感心してしまいます。

■モグラの日々

・・・ヤマもオチも啓蒙も警告も何もないエントリーで申し訳ない!のですが若かった頃の自分がSIerの現場(の末端ですが)で日々感じていたことの一端でした。

なにしろ、毎日の業務を(ダンプファイルとの睨み合い)済ませた後に寝るまでMacで何か開発していたわけですから全然気楽ではなかったですし、会社組織との軋轢(ピラミッド構造とのバトル)もあったのできつかったのですが、そんな「モグラ的生活」も今から考えるとすごくいい思い出だといえます。もちろん、若造時代の自分はもっとダメージを受けて大いに凹んでいました。でも、だからこそ自己燃焼的に奮起できた気もします。

実際、ここから自由になったらどういう開発をやってやるか物凄く考えましたし、考えるだけでなくアイデアを部分的にせよ形にすることもできたので、案外充実した日々だったような気もします(ネットで公開した自前のソフトに反響があったりすると単純に燃えますからね)。「絶望」はそのまま「希望」への原動力なのかもしれません。

それに、パーソナル・コンピューティングの分野は今や単なるハードウェアのスペック向上にはとどまることなく、ネットワーキングやクラウド・ソーシング的な集合知まで含めて考えれば相当ハイレベルになっています。開発環境や言語処理系などもかなり高度なものが無償で利用できます。そう考えれば「モグラの日々」は個人の創造性の発露という点ではもはや王道なのです。

※あとで調べたらSIerの業態って90年代以降なのですね。そうすると、上記のエントリーは情報処理産業の末端SE生活(しかも新人)という括りにした方が適切なのかも知れません。

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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