さて、初級編(前編)です。
ケータイ小説マーケティングは書籍出版社とネットコミュニティ提供者の双方に跨った方法論。そこで、それぞれの立場にとって好ましい相乗効果を再度整理してみたい。
■コンテンツの求心力によって単なるメディアをターゲティングメディアへと変質させられることが書籍化プロジェクトの効用なのでは?
まず、ネットコミュニティ運営側から考えてみた場合の書籍出版プロジェクトのもたらす効用。実は、そのメリットは相当大きい。なぜかというとネットコミュニティにとって最も忌諱すべきは「退屈」と「倦怠」なのだから。
全てのネットコミュニティをそう規定することは難しいとしても、書籍出版という「祭り」を仕掛けていくことはコミュニティ内の様々なコミュニケーションを最も活性化するだろう。
実は、そもそも本が生まれてくる現場には、要するに何らかの母集団とトピックス(関心事項)が存在しているのだから、ネットコミュニティに限らなくても“出版とはすなわちコミュニティ出版”のことなのだと強弁することもできる。
たとえそれが小説であろうと随筆であろうと、あるいはルポルタージュであろうともそのテキストを支持する母集団がどこかで控えているからこそ(不可視な存在かも知れないけれども)本を刊行できる訳で、出版可能だということは即ち一定規模のコミュニティが形成されていることを意味する。
そして、その確度が高ければ高いほど出版リスクは軽減することができる。
そう考えると、コミュニティ出版をコミュニティの場(=母集団)に対して投げかけると言うことは、そのコミュニティの持っている特性を浮き立たせて、固有のユーザーセグメントを明示的に取り出す作業に他ならない。
それは通常広告営業によってドライブされているケータイ・コミュニティにとっては福音となりうる。
なぜかというと、付加価値の高い広告媒体とは、『そこに集っているユーザーの特性・特質が明確であること=セグメンテーションされていること』だと言えるからだ。
これは、たとえば雑誌広告の販売単価(付加価値)とその雑誌媒体のターゲティング(クラスファイと言ったりもしますね)とを比較・参照すると判りやすいのではないかと思う。
結果、コンテンツを軸足にエンド・ユーザーのターゲティングができる(ユーザー間のコミュニケーション=参加性を燃料にして)上に、その広告の訴求効果を拡張できる「祭り」スパイラルを持ち込める訳だから、やり方次第では「広告メニューの充実 and / or 付加価値の向上」が実現出来る+「出版コンテンツの獲得」という一挙両得を目論むことができるのだ。
■商品開発にコミットしてもらうことによるプロモーション効果の浸透・強化が、継続的なファン・マーケティングへと繋がるのではないかと言う仮説
さて、翻って出版社サイドにとってのアドバンテージとは何か?
まずは出版前に書籍化商品のプレマーケティングが出来るという点はそのまま商品パッケージの最適化という狙いに直結する。
たとえばネットを通じたグループインタビューを実施することで好ましいデザイン、ネーミング、価格帯などについてのかなり有意なデータがサンプリングできる。あるいは事前にアンケートの設問を設けて商品化の告知などを兼ねて投下しても良い。
また、さらにポテンシャルを期待できるのは、作品を選択して磨いていく過程でコミュニティ・ユーザーによるレビューやランキング、投票などを活用できるという編集プロセスのもたらす効果だ。
コミュニティ出版の醍醐味はここにある。要は商品開発に自発性や参加性を持ち込むことは多くの場合コミュニティそのものを活性化するし、さらにはコミュニティの新陳代謝を促す。
で、そのようにコミュニティ・ユーザーが編集参画することによって、それぞれの作品は固有の応援団を自然に組織する。
それこそ辣腕営業マンのセールス活動でも賄いきれないであろう圧倒的な数のボランティア営業マンをそれこそ全国に獲得できる。
しかもその営業マンは「商品理解に優れており、熱い口調で推薦する際には嘘いつわりのない賛辞を惜しみなく贈ってくれる」のだ。
■広告ROIを自然に高められる構造的な良さをコミュニティ出版の仕組みは持ち合わせている筈だ。
そして、さらに価値があると思われるのは、こういったコミュニティでの取り組みを通じてプロファイリングされたユーザーデータを元に「どういった売り場で」「いつ、どのように購買されているのか」を事前に分析可能であるという点だ。
出版社にとっての機会損失とは、「売れる筈のところに適切に配本がなされていない」ことだから、これを分析して必要な場所に必要な部数をデリバリーできるという強味は強調してもいいと思う。
それこそ商品開発にコミットしてくれたコミュニティユーザー達は、その書籍をできるだけ迅速・確実に入手したいわけだから「どこに置いてくれたら買う」という情報も積極的に提供してくれる筈だ。
逆に、そのような戦略的配本施策を実行することのできない出版社にはこの方法論は無縁だし、コミュニティ提供者としても組むべき価値があまり無いと言える(※そこで肝心のマネタイズに失敗してしまっては元も子もない)。
また、ユーザー・プロファイリングをした上で商品投下するということは、それを告知する広告媒体を選択する上でも相当効果的だ。
限られた広告予算をどこに配分して、どういったタイミングに、どういった見せ方で商品を訴求するのか?明確な顧客像を元にプランニングできるのだから、コスト対効果は当然高めやすい。
しかも、その広告は商品性の訴求に留まらず、配本施策とも連動可能なので、さらに効果を上げやすい筈。
つまり、広告ROIを自然に高められる仕掛けもコミュニティ出版は本来有している(さらにコミュニティ自体が広告媒体として売り上げを立てられるという効果も考えられる=コンテンツ獲得+広告売上獲得という収益性をアドオンできる..)。
では、このようにかなり効果的だと思われるコミュニティ出版の手法がなかなか積極採用されない理由を後編では考えてみたい。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
takahito on 2007/07/20
私もまったく同じです。
読みながら、アイデアが生まれてきたり、ふくらんだりするのがわかります。こうして整理していただけたおかげです。
本当に刺激的なエントリーをありがとうございます。
それから勝手を言って恐縮ですが、いつか気が向いたらでかまいませんので、電子ペーパーや読書端末に関する意見を聞かせてください。とても興味があります。
ハフハール on 2007/07/20
ハフアールさん、恐縮です。部内研修、どうぞご活用ください。経過報告の断片とは言え「分かる人には分かる」内容では?と思いながら書いているのでお役に立てる部分もあるんじゃないかなと期待しつつ載せているんです。
出版とネット(ケータイ含む)という異なる業界=文化がどのように新しい付加価値を創造していけるのか?を大勢のプレイヤーが探っていくことできっと面白い仕事が産み出されていくと思います。自分でも書きながら、「あれ?ここのパートって新業態として取り出せるなあ..」とか気づいているという(笑)。
takahito on 2007/07/20
このエントリー、携帯に転送して何度も読み直してます。現在起こっていることを、こんなに深く、細部まで、しかもわかりやすく整理してくれるなんて!頭の中の霧がスーッと晴れていくようです。
この一連の記事、出力して部内研修用に配ってもいいですか?
嗚呼、後編が気になります。コミュニティ出版が採用されない理由…。知りたい!
明日から、子供たちを連れてちょっと早い夏休み旅行に出かけるのですが、ケータイからアクセスして絶対に読みますからね。楽しみにしてます。
ハフハール on 2007/07/19
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読書環境が電子化することによる変化についてはぜひ掘り下げてみたいと思っています。個人的にはiPhoneに期待するところ大なのですが、案外Wii+DSがうまく機能したりしても面白いのかな?とか・・。詳しくは改めて(笑)。