■唐突ですが、本と本以外を区切る特徴って何なのでしょうか?
ケータイ小説マーケティングをぐっと突き詰めると、結局「本とはいったい何物なのか?」という問いかけを避けられないように思う。つまり、本であることの本質とは何なのか?
少なくともデータ化された書籍と、ただのデータとの間には物理的な違いは無い。で、そこを突き詰めれば、本という商品が一般的な日用品とは相当異なる流通システム上を循環しているのだということに気づく。
詳細な内容は失念したが、データベース検索式の図書館と開架式の図書館とでは、同じ本でもその利用率が10倍以上も違うという研究結果もあるという。この場合、開架式だからこそ可能な「立ち読み」が出版物の評価を高め、高利用率を実現していると考える。そして、前述の委託販売制こそが、この立ち読み機会を拡大する上で極めて重要な役割を果たしている。
委託販売制の下では、店頭在庫リスクも出版社が負い、「買い取り」しない書店にはそのリスクは一切ない。そのために書店は売れそうだと思う本を、在庫リスクの心配なしでいくらでも店頭に積むことができるのである。その意味で委託販売制こそが、出版物の露出機会すなわち立ち読み機会の極大化を通じて、出版市場の極大化をもたらしているのである。
論理的には、再販制(=目的)を実現するための手段として採用されている委託販売制ではあるが、現実的には優れた出版流通システムを維持するための方便として再販制が唱えられている、という逆転の構図がそこに見えている。
出版ビジネスの可能性 ビジネスモデル発想で考える出版流通の苦境と展望
電通総研 四元正弘氏
http://adv.asahi.com/geppo/0311/feature.html
つまり、再販制と委託販売制による書籍商品の流通&販促のメカニズムは従来、意外によく機能しており、商品を手にとって吟味することのできる露出機会を相当効率よく提供できていたのだと言える。
だからこそ業界は(資金回収のインフラ=自社存続の生命線という意識もあり、また書店流通ネットワークとの共存共栄を出版経済圏の前提として捉えていたということもあって)この制度を大切に温存してきた。
要するに、「本」とは、この書籍流通のネットワークを循環する情報商品だと言い換えることが出来るし、出版社とはこの流通ネットワークに「本」を解放することのできるゲートウェイの役割=取次口座を有していることがとても重要な存在価値なのだと言える。
出版社=出版ネットワーク認証機能という言い方に言い換えることも可能だろう。
■ケータイのインターネットがいかに従来の書籍流通を揺さぶるのか?のかなり大雑把な仮説
ところがインターネットというコストフリーとも言える情報流通の環境が現前したとき、上のメカニズムの見直しはどうも避けられそうもない。
たとえばケータイ小説のような、
「原稿の獲得」
だけでなく、さらには
「書籍の販売プロモーション」
どころか、
「ダイレクトな書籍販売業」
にも適したメディアとの遭遇を通じて見えてくる近未来には、当然デジタル書籍流通のネットワークがある。これはもはや自明の理だろう。
そして、既に数社が名乗りを上げているケータイ電子書籍の取次業には、既存の書籍取次との資本関係がなく成立している企業があり、今まではほとんど見直されてこなかった書籍価格のプライシングという領域に対して、何ら抵抗感無く取り組めるのではないかと感じる(ダウンロード・データは再販制の対象に含まれない※1)。
■本の価格は、実はネットワーク・コンテンツになった瞬間に弾力性を持ちうる。
すると、価格弾力性という一般的な市場では当たり前な特性(ゲーム・パッケージの販売価格をコントロールしているとして、ソニーコンピュータエンターテインメントが当時の公正取引委員会から勧告を受けたことは当時とても話題になった※2)が、当たり前に機能するのも遠くないように思う。
ただ、それは必ずしも現状の再販制+委託販売の既存システムを全面的に否定するものではないだろう。
なにしろネットの場合は、「在庫リスク」「返品リスク」「流通コスト」などがほぼコストフリーなのだから、そもそも独禁法で禁じられている再販制を積極的に採用すべき根拠がない。
ただ、その一方で(売上比率としては相変わらず大きなシェアにある)リアル書店での流通に於いては、再販制を採用する意味は十分にある。
それは書店そのものが露出極大化の拠点として有効だからであって、そういう意味ではネット上の電子書籍流通は全国リアル書店の売り場へと作品を“繋ぎ込んで”いくための「キャズム越えツール」と言えるのかも知れない。
だとすれば、ケータイ小説に見られるようなネットマーケティングの機能は、従来の書籍流通の否定形どころか、その生態系をより効率化し活性化しうるツールだと捉えるべきだと考えられる。
そういった視点で出版社とケータイネット・コミュニティとの協業を考えると、実は非常にポテンシャルがあるのだ。興味のある方はいつでもご連絡ください(と、さりげなく営業)。
※1&2 再販売価格維持契約を参照のこと(Wikipedia)
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