■グーグルブック検索はとても素晴らしいのだけど・・
このところグーグルブック検索についてインタビューすることが多いのだが、出版社の期待感や期待充足感についてはかなり弱いなと感じるコトが多い。
その認識のギャップ、つまりネットメディアの価値概念と出版社側の価値概念とのズレは果たしてどこから来るのだろうかと考えた場合、非常に単純化してしまえば、要は「希少の経済」vs「過剰の経済」とのズレなのではないかと思い至る。
ウェブを覆いつつある「過剰の経済」とは、
「情報のサプライ・コストは無限小」
「情報の選択はマーケット次第=ユーザー・ドリブンが主体」
「知られないと始まらない=与えよ、さらば(機会は)開かれん」
「互酬性(※1)から商取引を考えたほうがネットの場合は自然」
といった考え方で、こういった考え方を積極的に採用するには、やはりそれを実証し得る成功事例が不可欠なのだろう(なにしろ永らく「希少の経済」でやってきているので)。
だから、単純に、
「検索可能性が高まる」
「それによって読者のリーチが増す」
「よってロングテールな購買行動が促進される」
といった(ウェブでは受け入れられやすい)ロジックで動ける出版社は限られており、その結果あれだけのユーティリティ性とコスト・パフォーマンスが期待されるグーグルブック検索でさえ、諸手を上げて賛同とは行きかねる訳だ(蛇足ながら補足すると、そのサービスが無料だから採用するということはあり得なく、それをやる意味が明示的に存在している必要がある)。
■ケータイ小説のブレークスルーが示唆するのは書籍流通のパラダイムシフトではないかという非常に飛躍した解釈
以前、ケータイ小説の成功が書籍流通のインフラに対しても将来的に大きなインパクトを与えうるでは?という言及(→本文はこちら)をしたのには、実は上のような含みがあった。なぜかというと、ヒットしているケータイ小説の前提条件には、
1)作家と読者が直接ネットを通じて接点を持っており
2)しかも、そのページ・ビューが非常に大きなボリュームを形成しており
3)そのページ・ビューをネット販促に向けて積極的に活かしている
という共通項が挙げられる。つまり、それら数十万部?百万部超に至るヒット作の多くは全てをケータイ経由で読めるものであり(書籍化時点の+アルファはあるが、本文はそのまま読めるケースが大半)、しかも、その読者数は刊行前の時点で相当数(数十万ユーザー超)に達しているのだ。
ということは、この現象を見る限り「知られているからこそ売れる」「希少性ではなく過剰性に於いてこそ販売実績が上がっている」という状況を読み取ることができる。
だからこそ、ケータイ小説作品の継続的なヒットは(いささかロジックは飛躍するのだが)従来形の「希少の経済」に於いてではなく、「過剰の経済」の到来をこそ予感させるエポック・メイキングな事件なのだとも言える。
だが、もちろんそこまでの深読みをして戦略を策定できる出版社は相当に限られるし、いわんやその戦略をウェブ上で有効にドライブするよう実装できる出版社はさらに限られる(ケータイ小説は文学ではないといった議論は、そういった観点から考えるとかなり不毛だと思う)。
そのように考えると「過剰の経済」対応の出版事業に向かって船を漕ぎ出すのは必ずしも既存の出版社である必要は無く、むしろ取次や書店とのしがらみを余り意識する必要のないウェブ系の企業の方が新しい出版環境に適応しやすいとも言える。
■なぜケータイ小説のマーケティングがとても困難だと思われるのか?
もしかすると、駅馬車会社が鉄道会社にはなれないというアナロジーがそのまま通用するのかも知れない。
あるいは、物質としての書籍が目前にあるが故に、かえってそういったパラダイムの変化が見えにくくなっているのではないだろうか?
だが、考え方次第で、そこ(ケータイコミュニティ)には非常に豊かな沃地が広がっていることが分かる。
書き手の数にしろ読み手の数にしろ従来の文芸誌程度のスケールからは考えられないほどのボリュームがあって(文芸誌の発行部数はせいぜい数万部)、しかもその時代性は考えられる限り鋭敏。それに読者ニーズへの感応性に著しく優れている訳だから、掘り出し方次第ではまだまだヒット作を輩出できる場所がネット上には偏在している。
ところが、一部の出版社を除いて及び腰+取り組んだとしても付け焼刃でうまくいかないことにはそれ相応の理由があるだろう。
その事情をひもといてしっかり分析するには正直役不足ながら、敢えて強引に説明を試みるならば、出版社サイドではインターネット=ソーシャルメディア(生きたコンテンツ生成の現場)といった捉え方を可能にするようなマーケティング感覚は育ち難い。
しかも、よくよく考えてみれば「ユーザーが創造するコンテンツをユーザーが選択する」ことの付加価値性をよく理解しているプレイヤーはネット系企業に於いてさえレアなのだ。
しかし、ページ・ビューとユニーク・ユーザーがかなりの精度で売れる書籍作品のヒット指標になっているのだという現状を捉えるならば、定量的根拠を欠いた不確実な商品化に賭けがちな過去の方法論よりはよほど手堅いように思う。
それに、たとえその方法論に問題があったとしても数多くのケース・スタディを通じてノウハウを蓄積・更新できることの強みはあると思うのだ。
※1 互酬性
交換体系のなかで与えるものと受けとるものとが長期間のうちには均衡がとれると考える相互交換の原理。厳密な計算にもとづく交換ではない。知らず知らずの内に社会生活を円滑にし、または社会統制の役割をも果たす。
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PV換算で初版部数を一定精度で予測可能というのは実際に成功を収めている出版社さんのノウハウとして、ある程度蓄積できています。
それは、ヒットしている書籍の帯などにあるデータと専門誌等で流布している部数データを照らし合わせると、それなりに推測可能な数字でもあります。
現実にはそういう風にして解読可能なのですが、そういったプロセスを採用するための人材とか部隊がいるのか?という「業態」の部分が案外大きなハードルなのかも知れませんね。
すると、組織図や社員教育をどう考えるか?というレベルに踏み込むべき課題かもしれず、ですので大手だからこそかえって難しいという面もあるように感じます。
さらに広げると、将来に向けてどういった人材投資を進めるのか?という議論になるのかも知れません。