ブックフェアでは当然のようにグールグブック検索が話題を呼んでいたのですが、すでにあちこちで話題になっている(ここのまとめが秀逸)ので、ここでは同じくブックフェア内で目立っていたケータイ小説周りの現況と近い将来の展望について軽く触れたいと思う。
■ケータイ小説は出版マーケティングのプロセスそのものを体現しているように感じる。
ケータイ小説の特性を一言で言うと、携帯電話というライフメディア(そのなかでも特にコミュニティ)でのマーケティングに基づいた文学だと言える。なにしろストックされた作品数は数百万タイトルというスケールであってジャンル(属性)やスタイル(表現形式)ともに非常にバラエティに富んでいる。
そのなかでごく一部の作品が世の中に出て書籍商品として流通するのは、その作品がネットコミュニティで評価をされたというゲートウェイを通過しているからであって、作品に対する純粋な文芸的評価が最初にあった訳ではない。
膨大な作品群からネットユーザーが選択をしていった結果としてサバイバルを果たした作品が、その厳しいフィルタリングを通じて書籍化される。そしてその淘汰の結果をマネタイズするプロセスをうまく編集→販売の出版システムに組み込めた出版社は優れた出版社といえる。
だから、そういったプロセスを習熟している出版社にとっては文体の巧拙とか表現力の洗練とかは第一義的な問題にはならない。
でも、じゃあ内容に無頓着なのかというとそういうことは全くなく、最終的に読者に届けるためのパッケージング=商品設計は巧緻・周到に進められる。
つまり、このように見ていくとケータイネットワークのメディア、なかでもコミュニティは、
1)作品の掘り起こし(原稿獲得)
2)作品の書籍商品化(編集過程)
3)作品のデリバリー(販売促進)
という主要プロセスのそれぞれで非常に重要な役割を果たしていると言える。つまり、
1)どのような作品が人気があるのか?
2)どういった層に向けてどのような商品設計を行うべきなのか?
3)どういったチャネルでどういったプレゼンテーションによって作品を届けるべきなのか?
という流動的なプロセスを対顧客のインタラクションを通じて探索していくことがケータイ小説の本質的なビジネス手法となる。
ドライブ力はユーザーにこそあるし、それを踏まえたプロセスへの取り組みが欠かせないということだ。
■いろいろあって出版社のビジネスモデルが相当変わりつつあるように思う。
だから、その取り組みがより効果的なものになるためには、作家→コミュニティ・プロバイダー→出版社の連係プレイが緊密であることのほうがより望ましい。
ソーシャルなメディアとしてのケータイコミュニティ構築が、コンテンツビジネスのひとつの方法論としてケータイ小説商品化を狙うのは、ひとつには作者・読者共にこういったインタラクティブなマーケティングプロセスに免疫性があって、そのプロセスに対して(それが無意識的にしろ)積極的にコミットしていくことが「楽しい」という環境与件があると思う。
なにしろケータイ世代にとってはロールプレイング・ゲームに於ける選択制シナリオは自然な文学体験だし、週刊少年ジャンプを震源地としたコミック産業のクロスメディア的展開はもはや当然のメディア体験になっているわけだから、それが意識的かどうかはともかくファン・マーケティングの過程に身を投じていくことへの抵抗感は無い。
でも、そういったなかでも、商売を全面に押し出したアプローチが歓迎されることはなく、書籍商品化の過程でビジネス臭をまき散らすことが得策でないことは言うまでもない。
ケータイ小説を従来の文壇的枠組みに当てはめて表現レベルや内容の偏向に対してあげつらうのは余り意味がないと思う。
最初から受容する気のない層に対しては意味の無いコンテンツである訳だし、マーケティング対象が別にいるとすれば、そういった需要層が台頭してきていることを冷静に受け止めた方が生産的だと思う。
また、より本質的にはネットコミュニティを通じたインタラクティブな交流・交感を通じて上のような出版システムが構築可能であるという成果から次の仕掛けをどのようにデザインしていくのか?に注力するほうが面白いと思う。
■作品が誕生する場所と、それが売られていく場所が非常に近いことが今後どのように作用していくのか楽しみだ。
ケータイ小説の発生と普及のプロセスはネットコンテンツを経済化するための仕掛けの端緒に過ぎないと言う点こそが重要なポイントであって、その状況を整理すると、
1)読者と作者がフラット化している
2)編集プロセスが限りなくマーケティング化している
3)出版社の業態が変化している。新しい編集・販売の仕組みが求められつつある。
上のようなことが言えると思う。つまり、
1)書き手と読み手の共感がヒット作品誕生のキーになっている
2)ネット全体が作品発掘と人気獲得のフィールドとして捉えられる
3)作家・読者へのダイレクトな働きかけが可能なので、作品獲得と商品販売のチャネルを再構築できる
このような状況があって、それをベースに将来の出版流通をプロットすると果たしてどのような未来図が描けるのか?これからより浸透していくであろうWeb2.0のソーシャルなメディアをベースにした新しい経済循環を考えるとき、長らく眠り続けていた出版界が大きく「構造的に」変わっていく可能性を見いだせるのではないかと考える。
テキストの生まれる場所、それが読まれる場所、そしてそれをドライブする仕組みが大きく変化を遂げていることの非常にわかりやすい“現象”を読み解くという視点でケータイ文学を読み込んでみることをお薦めしたいと思います。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
takahito on 2007/07/17
ちょっと調べてみましたが、中国ではWAP対応の小説が多いようです。私のNokiaの携帯は古くて白黒ディスプレイなので読む事ができない事が発覚。。
調べた限り中国でも、携帯→出版というパターンがすでに出来てるようです。
Kenta on 2007/07/12
ハフハール on 2007/07/12
ハフハールさん、どうも!的確なコメントをありがとうございます。
「Sook」はとっても気になっていました(と、いいつつ未体験ですが、笑)。出版社がああいう取り組みに乗り出すあたり相当様子が変わった感じがしますね。。
ブックフェアでも電子書籍、特に携帯系は活発でしたね。個人的にはGoogle、YouTube的なイノベーション(=収益モデルの変革)がどこからどういう風に出てくるのか?が興味シンシンです。今後とも情報交換をよろしくお願いします!
takahito on 2007/07/12
Kentaさん、どうも!上海の現代アートは非常に面白い状況なのでしょうね。。
書き込みを拝見して(携帯小説は国内にいる限り日本独特のカルチャーのように考えてしまうのですが)ワールドワイドに捉えるともっと面白い捉え方が出来そうな気がしました。
ボトムアップも現代アートの場合は構成要員がごく少数なのかな?と思ったのですが、そのあたりが醍醐味なのではと勝手に推測する次第です(笑)。
takahito on 2007/07/12
はじめまして。とても腑に落ちる内容で、わが意を得たりという気分です。
ケータイ小説→リアル出版というモデルと同様、PC小説(?)→リアル出版というモデルを構築することが「出版2.0」実現のカギだと私は考えます。
その際に、読ませるためのインターフェースとして有効なのが、ページめくり効果を持つ「電子書籍(eBook)」ではないでしょうか。
ブログ等と同様に、自分の原稿を手軽に投稿にできる。その原稿は、書籍と同様のページめくり効果を持った「電子書籍」に加工される。そして、その「本」をコミュニティでみんなと共有できる。さらに、そこから有望な作家・作品を発掘し、リアル出版へとつなげる。これが出版業界のビジネスモデルになっていくのでしょう。
ちなみに、小学館の「SooK」がこれに近いことを始めようとしています。ページめくり効果のある、自分だけのオリジナル雑誌を作って、発表できるサービスです。要注目ですね。
ハフハール on 2007/07/12
はじめまして、上海在住でアート関連の仕事をしているものです。
中国でも携帯小説は、人気のある携帯コンテンツのようです。このエントリを見て、携帯小説を購読する気になりました。
>その作品がネットコミュニティで評価をされたというゲートウェイを通過しているからであって、作品に対する純粋な文芸的評価が最初にあった訳ではない。
芸術作品の価値も、そういうボトムアップの評価で決まる要素があると面白くなりそうですね。
Kenta on 2007/07/12
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ハフハールさん、
実はブログは毎日拝見してますので、僕のほうこそかなり勉強になっています。
Kentaさん、
なるほど!流石に中国は速いなあ!
なんだかうまく提携して、版権の市場化とかで日中連携できそうですねえ。