■夢窓国師という偉大なファシリテーター
初秋の鎌倉に出かけてきた。目当ては円覚寺舎利殿(国宝建造物)の一般公開。残念ながら一般公開は11月?ということで参観できなかったのだけど、しっかり堂内を味わってきた。
円覚寺は、稀代の「禅師」インキュベーター夢窓国師と縁が深い。
夢窓国師(あるいは夢窓疎石)は北条時頼の帰依を受け、後醍醐天皇から国師の号を賜り、足利尊氏に建策し(後醍醐天皇供養の為、天竜寺の開山を建策した際にファイナンスのために天竜寺船を計画する)、和歌の名人であり、作庭の達人でもあった。当時を代表する「禅」の辣腕オーガナイザーだった。
時代は鎌倉政権の終焉から建武の新政、そして南北朝の対立という激動期であり、同時に宋から到来した「禅ムーブメント」による思想・文化・経済のイノベーション期だった。
そのなか、天台、真言の二宗を経て禅宗に改宗し、北条、後醍醐、足利と三代に渡って最高権力の信任を得、後拾遺など数々の和歌集に名を連ね、円覚寺・南禅寺・西芳寺・天竜寺・恵林寺など数々の名寺、名園をプロデュースした彼の事跡を見ると、禅の境地が融通無碍・自由闊達なファシリテーター・マインドにも繋がり得ることを感じさせる。
■禅とハッセルブラッド
目前の枯れた古寺の佇まいを越えて、当時の「禅」モード流行時のリアリティに到達できるのか?こういうときこそ、フルマニュアルのフィルム・カメラは有利だ。
なにしろ、光量を読み、丁寧に合準し、短焦点レンズで構図を探索するその撮影プロセスそのものが、時代の蓄積のその向こうにある本質に到達しようとする意識の働きかけとなる。
改めて感じることだけど、仏寺・堂塔というものは建築物や宝物といったハードウェアだけでは持たない。
物理的に保持するための維持コストだけでなく、その場の維持継続には、仏教的感性・概念の日常的継承は不可欠なのだと考える。
個々の堂や庵がしっかり掃き清められており、植生や調度などを含めたアレンジメントも禅の方法論をしっかり反映している必要があるだろう(これらは長い間に改良され、取り込まれて、我々の生活のベーシックとして無意識のうちに馴染んでしまっている)。
だから、そこにある基本ソフトウェアの存在を意識しながら観る(撮る)..というモードで入っていく方が、ただ著名な景観を記号的に収める(スナップする)という感覚で挑むより、もっともっと収穫があるように感じるのだ。
苔むす小庵の庭園をレンズを通して凝視していると、そこに込められて作庭意図が透けて見えてこないだろうか?ひとまず注意が働く。
風のそよぐ枯れた気配の小庭園は、一見取るに足らない造作のように見えるのだが、実はそれこそが人間的な意図を隠し、非凡なものを平凡に見せかける目くらましのようにも感じる。
■禅がなぜオートバイ修理技術でもあるのか?
「禅とオートバイ修理技術」という当時のヒッピームーブメントと呼応した往時の名著があるのだけど、「禅とハッセルブラッド」というのは、意外といい取り合わせなのではないかと思う。
56mm×56mmのブローニーフィルムに焼き付けるために正方形のピントグラスを覗き込む。
マシカクに切られた明るいガラスは、対象物と無心になって向き合うための、格好の制約条件なのだ。
カメラのレンズが作り出すイメージサークル(=レンズが投影する画像イメージの範囲)は美しく円環をなしている。
だから、それを切り取るのは当然正方形。スクエア・フォーマット(56mm×56mmのスクリーンとフィルムサイズが当寸で合致している)こそが最も自然なのだと言える。
“「方丈」の中に全宇宙がある”という仏教的な喝破をここで持ち出すのは野暮というものだろうか?
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