■日本の建築家の観察記
「伊東豊雄・観察記」を読んで面白いと思うのは、彼の唱える「チューブ論=体内と体外は繋がっている。内も外もない論」が、彼自身の行動スタイルとパラレルである点だ。
「現象→概念組み替え→現象」が建築設計行為のプロセスだとすると、要は概念化の行為にどれだけ集中し時間を掛けられるか?深耕ができるのか?が、ビジネスの質を決める要になる。
そしてそれを担保するための仕組み作り=組織論が直感的に効率よく組み立てられているところに伊東事務所のビジネス(生産性確保の構造とも言い換えられるかな?)のカギが潜んでいるように思う。
それは、伊東本人をハブにした、コミュニケーションとコラボレーションの束ね方そのもののユニークさと言ってもいいんじゃないかと思う。
■建築家という特殊な職業
とにかく建築家は「決める」仕事だ。ひたすらあらゆる諸元と実装を決めなければならない。で、その決めていくプロセスのオープンさ、自由さが独特だと思った。そして、その極めて柔軟で、あらゆる要素を柔軟に取り込んでいくスタイルには、日本的な美質が含まれているのではないかと思った。場づくりの才能とでも言うのか?
建築そのものに耽溺しない、世間との相互作用。世の中の価値観の推移に対して開かれている点もユニーク(いや、これはビジネスである以上当たり前か?)。
建築の発想が建築論の中に閉じこめられない。論客や論壇や建築誌や建築家の言説に閉じこもらない。もっと社会がどういう風に変化していっているのかを読み、さらにその先に来る生活様式を積極的に仮説化し提案していく意欲を感じる。
それは仙台メディアテークに入ったときにそう感じたことだけども、社会的なコミュニケーションのあり様(その変化のベクトル)への独特の先取り感がある。
■日本の建築家に学ぶ組織論
建築はそもそも過剰なまでの制約とのバトルだから、ネジひとつ、コンクリひとかけらから役所の認可や行政との交渉など、常にあらゆる行為が制度や既成概念との闘いと言える。
でも、その軋轢そのものは実は利用者とは全く関係ない次元のことだし、さらに建築家の言説やその背景にある建築論の体系なんてどうだっていい話だ。
だからこそ、世間への目線というのは物凄く重要なコネクターなんだけど現実的にはなかなか接続し続けるのは難しいことのようだ。
しかも技術や素材、行政や美学など様々な領域をネットワークするトータルアートだけに言説の重みや拡がりも相当で、そのしがらみから逃れるのも相当大変だと思う。
■やわらかい組織論とは?
そこにも「内=外」という自由な捉え方、考え方、臨機応変がうまく作用して彼の建築行為を身軽なものにしているように思う。 言説・概念が現実へのアプローチ、ビジネスの有り様を力強く支え組み替えている気がする。
で、この「建築家の記録」を読んで考えたことを幾つか..。
1)仕事が継続的にうまく運ぶ仕掛け=仕事を「深耕できる」仕組みの整備をしっかり考えなければならない。
2)仕事の分野・領域・環境・媒体などを何かの言い訳にしてはいけない。不足や欠如、制約や限界は、視点の切り替えひとつで強味や可能性にも組み替えられる。
3)対話や協働の重要性。異なる分野で一流の仕事をしている人とのオープンな協働関係によるレベルアップを心がける。これに勝る学びの機会は他に無い。
自分が手掛けているコンサルティング案件では、様々なワークショップを仕掛けてみて、結果「学ぶ組織」をどのように作るのか?それが将来的な企業価値を担保する最も効率的な攻め手だという結論に至った。
■“学ぶ組織体”と言うのは簡単だけど・・
で、それは単に抽象的な意味でロジックを磨くという方向性ではなくて、まさにそれを実践するための格好のプロジェクトを現実に提案するというアプローチでなければ余り実効性がないということも分かった。
そういったアプローチが実現できれば事業そのものが新たにひとつ立ち上がるし、組織のありようやオペレーションも格段にレベルアップすると思う。つまり「実業=学び」「学び=実業」という考え方。
伊東事務所のプロジェクト運営は「学ぶ組織体」の実例のように感じる。
あと、若干余談ながら、考えてみれば写真も「現象→概念組み替え→現象」の行為だ。建築と同じく。
そこで改めて、やっぱり写真は面白い!と、建築家の仕事記録を読んで思った。世界を切り取って、それを組み替え、さらに新しい価値観として提案する..。
こんなに面白い作業はなかなか無いと思う。これもつまりは学び=現実の対象化・思考の組み替え・価値観の再構築だ。
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