■現代美術とは全く無関係なアートブックガイド
ファッション誌やサブカル誌などでアートブックガイドを見る機会が増えました。
特に素材と構成にこだわったアートブックは特別な気分にさせてくれますし、明確な機能が無い代わりに、案外思ってもいなかったようなことを思いつくいいキッカケを与えてくれることが多いようです。
ページという限界があること、印刷という制約があること、紙質や製本(綴じ方)といった、プリミティブな感触、手触りがあること、本はいまだにそれ自体が魅力的なメディアとしての存在感を持っていると思うのですが、アートブックはその独自の存在感をより一層強く放っているからこそ注目されるのでしょう。
さて、そこで「現代美術とは全く無関係なアートガイドブックガイド」なのですが、出版というシステムはやはりよく出来ていて、そのクリエーティブや編集の巧緻、そして使われている用紙や印刷の質などを総合してみても実に手頃だなあという価格でとてもいい本が出回っています。
また、ジャンルやタイトルが特に直接アートを指し示していなくても、非常にアイデアに満ちた、あるいは美的に洗練された本が、非常に多く流通しているように思います。
■ソーイング本という未知の領域 主婦向けを侮ってはいけない
今日ご紹介したいのは、伊藤まさこさんの「少女の服」と「こはるの ふく」です。伊藤さんはライフスタイル誌で活躍されているスタイリストさんなのですが、特に「こはるの ふく」に見られるような主婦あるいは母親としての感性と愛着が磨かれた美意識とミックスされて、とてもいいお仕事をされているように感じます。それは、この二冊の丁寧なつくりからもじゅうぶんに伝わってきます。
まず、私はこの本を読んで洋服を作りたくなりました。なかでも子供服を、ですね。
だいたい日常的に(こんなに忙しい毎日なのに!)わざわざ手間を掛けて洋服を、それも子供服を手作りしよう!なんて思わないですよね。でも、私はこの本を読んで発見しました。それは「人に着せる服を考えるということは、いかにクリエーティブなのか?」ってことです。
■洋服をわざわざ手作りすること 第二の身体を作ること
だいたい、性淘汰の考え方に拠れば洋服は種にとっては性的アピールのための大切なディスプレイです。ですから、それを考えることは本来非常に深い洞察を求めるものだと言えます。
もちろん子供服にそういった機能が必要なわけはないのですが、ただどういったフォルムを美しいと思い、どういった色彩が好ましいと思うのか?を、例えば、建物や家具、食器などのモノについて考えることと、洋服について考えるということの間には大きな隔たりがあります。
なぜなら、言うまでもなく洋服はそれを着る特定の誰かを包み装飾する第二の身体、第二の皮膚だからです。恋人の脱ぎ捨てた洋服にドキドキしたことってありませんか?
もちろん、これだけ高機能で安価な衣料品が大量に流通している時代に、わざわざ手作りで洋服を作らないといけない意味や根拠は現実的にはほとんどありません。でも、この二冊を見てその先入観はかなり切り替わりました(これらの本はソーイングを特に推奨している本ではありませんが)。
「あるときの、あるものを」特定することが、現代美術の基本スタイルだということは、たまたまふらっと通りかかって「現代芸術って面白い!」と思った自分にとってもいまだに違和感のあることです。
■ユビキタスの反対方向に走ること
なぜなら時代の潮流はより一層「いつでも、どこでも、だれでも」のユビキタス志向に流れていると強く感じるからです。あるいは、アノニマス志向と言ってもいいかも知れません。ただ、その一方でアートの文脈はいまだに「特定の誰か、特定の何か、特定のいつか」にかたくなに固執し続けているように見えます。
それは恐らくファッションの世界でも同様でマテリアルとアイデアがかなり早くからグローバル化していたアパレル業界では「誰かのためだけの、固有のファッション」にフォーカスする必要性は時代が進むと共にどんどん希薄になってきました(家庭にミシンがあることや、母親が手作りの洋服を着ることは、以前はかなり当たり前のことでした)。
でも、恐らく、どんなものでも「あるものから選ぶ」「目前の提案を吟味して選択する」という購買行為から抜け落ちていくものがたくさんあるように思います。
特に今回取り上げた二冊に限った話ではなく、ソーイング本というのは面白い本で、だいたいが写真による洋服着用時のビジュアルと、実物大のパターン(型紙)でできています。ですから、要は、鑑賞できるだけでなく(当たり前ですが)自らもそれを使って創作できるのです。
音楽をただ聴いているだけじゃなく、自分でもやってみようと思った瞬間から確実に音楽の聴こえ方は変わります。洋服もきっとそういうことで、作ってみようと思ったらそれ以前と以降では明らかに接し方や受け止め方が変わります。
■フルカスタマイズ子供服 ピクチャーであり、スカルプチャーであり
そして、さらに子供服の場合は、「生地が少なくて済む」「社会コードを意識する必要が余りないのでデザインの自由度が高い」「遊び心を活かす余地が、非常に大きい(ボタン、リボン、コサージュなどアレンジはし放題)」などの特性があります。ですから、普通の成人用の洋服よりもチャレンジしやすいだけでなく、知的醍醐味もあります。
また、型紙ベースで創作できるということはカッティングのアレンジや布地のチョイス、小物の組み合わせなどを総合すると無限大のバリエーションがあるということです。
ですから、アイデアひとつで「今、この人に向けた、それ以外にない」作品をつくることができます。しかも、それは絵画のような二次元表現(ピクチャー)として楽しめるだけでなく、彫刻的な三次元的表現(スカルプチャー)としても試せる面白みがあるので、それも刺激的に感じます。
正直、主婦向けと思われる、しかも実用性重視のソーイング本にこんなに発見があるとは思っていなかったのですが、実際写真のクオリティも高く、またテキストも必要最低限。また、収録されているパターンも非常にミニマル。だからこそ逆にいろいろなバリエーションを考える余地が非常に多いのだと思います。だいたいがタイヤキの表と裏をパカッと貼り付けるようなパターンばかりなので、その気になればすぐ仕上がってしまいそうな感じがいいと思います。
■アートの契機 視点を切り替えるキッカケはどこにでもある
毎日、「誰に、どういうデザインの服を、どのように作ってみるか」考えていると想像力は尽きません。「洋服は作るもの」という眼でもう一度周りを見回してみると、かなり色々な発見があるんじゃないかと思っています。それはカラーやフォルムといったデザイン的な側面だけでなく、素材や着こなしなども含めてです。例えば農業などでも、普段買って当たり前のものを実際に自分で作ってみようと思うことで視点や価値観は大きくシフトするように思います。
そういう意味では、アートの契機は何気ない普通の事物のなかに幾らでも眠っているんだと思います。視覚表現のためにデジカメを買うのは普通ですが、ミシンを買ってみるのも悪く無さそうだと考えているところです。
参考リンク:
「少女の服 伊藤まさこ」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4418064109/250-2727336-3153007
「こはるの ふく 伊藤まさこ」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4579109708/250-2727336-3153007
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どうも!「逆」アマゾン・・そうですね。書いている本人は気が付いていなかったのですが、まさにその趣向です。次回をご期待ください(笑)。