さて、引き続き「芸術起業論」論です。
恐らく大方のアンチ村上隆派の人たちにとって「芸術起業論」で彼が提起しようとしている訴求テーマは、かなり意外なモノだったのではないでしょうか(あるいは、そこまで読み進める前に投げ捨ててしまいそうですが)?その問題の核心を作品あとがきから拾ってみると、
「だから日本のアートシーンはヘボいんだよ!」・・・・と、思ったのもつかのま、もっともっと大きな問題を発見するに至りました。
それは「業界」といった括りでの問題提起ではなく、芸術的なる問題、すなわち「オリジナルはもうこの世に存在しない!」とかいった、芸術家の雄叫び・・・・ではなく、「コミュニケーション」の本質に迫っていくに至る厳然とした「壁」を発見したのです。
人種、環境に由来する同じに見える「人」という種族の、どうしようもない理解できうる限界点。それをあたかも突破可能に見える「マネー」という共通言語的なるコミュニケーションツール。
つまり「マネー」の理解でき得ぬ「壁」は、芸術内のドメスティックな問題よりも遥かに本質的で、解決不可能状態なる「人」の業であり、その部分との接触点の検索なしでは現代の芸術たり得ないという道筋を発見してしまったのです。
ダ・ヴィンチもピカソもゴッホもウォーホールも狩野永徳も利休も藤田嗣治も北大路魯山人も黒澤明も宮崎駿も皆、結局は世間との接点である「マネー」をどう自分にひきよせたり引っぱがしたりしていくかが、芸術家人生内の大問題であったのです。
「芸術起業論」 あとがきより 村上隆
つまり問題は“アートをうまく世界マーケットに乗せていくこと”だけで解消できるというほど単純ではなく、マネーのやりとりに於いてさえどうにも解消しきれないコミュニケーションの「壁」が存在するという限界性。でも、それは究極的には言葉(記号)、思考(記号操作)、貨幣(価値交換性)といった、ツールそのものが本来抱えている限界性なのかも知れません。
また、そこまで話を拡げなくても芸術作品が果たしてどのようにその有価値性(売買価格の成立)を獲得し得るのか?そのメカニズムは貨幣経済の鬼っ子と言っていいような特殊な成り立ちによって成り立っているように思います。
表層的には、有価証券と同じように市場取引し得る芸術作品ではありますが、企業活動の将来利益(投資リターン)と交換可能なクーポンとしての有価証券に比べると、主観的な価値判断に多くを依存している芸術作品の価値判定はそもそも非常に困難なものです。
仲正昌樹氏の「お金に正しさはあるのか(ちくま新書)」という著作の中で、芸術作品が(その存在の本質として)いかに貨幣経済のフレームワークから逸脱していくものなのか?を明確に記述していますので、それをここに引用します。
「学問」と同様に、文学・美術・音楽などの芸術の諸分野も、「貨幣」による取引の直接的な対象とならなかった「残滓」の部分を基礎に形成されたと言うことができる。市民社会の経済的な余剰に支えられて、教会神学から独立に活動する職業学者が誕生したように、教会組織に属さない独立自営業としての「超越的な原理=神」との象徴的なつながりから?少なくとも表面的には?解放されたことで、「芸術のための芸術」と呼ばれる領域の成立が可能になったわけである。
「学問」の場合と異なるのは、「学問する精神」が、ある意味で「貨幣」と同様に、抽象的・形式的・普遍的な「合理性」を徹底的に追求しようとするのに対し、「創作する精神」は、形式化された「合理性」を基礎にしながらも、形式からはみだす非合理性を「創造」の源泉にしようとするところだろう。
また、経済的基礎の面では、学問が、市場での評価を直接的に受ける機会が少ないのに対し、芸術作品の多くは市場に出され、貨幣による交換を前提として「価格」がつけられるせいで、貨幣経済との緊張関係が表面化しやすい。
まとめて言うと、対象相互の細かい差異を捨象して画一的な基準で商品化しようとする貨幣経済の圧力を巧みに回避しながら、お決まりの「型」に収まらない創作をしなければならないのである。
「お金に正しさはあるのか」 仲正昌樹 芸術が欲望を喚起し、貨幣がそれを利用する
村上隆が「芸術起業論」を通じて語り起こそうとしている問題提起は、そもそも現時点での「付加価値形成を巡る闘争状態」が、現実的にどのような問いを表現者に突きつけるのか?の最も先端的な現場報告のように読めます。
「貨幣化された欲望(お金に正しさはあるのか より)」は、恐らく善悪、正邪の判断のような単純な二項対立だけでは決して割り切れないように思うのですが、一方で、アンチ村上隆的言説は、どうしてもアンチマーケティング(株式投機的な芸術への反発)という単純な図式に流れているように感じます。
「お金」と「芸術」を巡る、よりラディカルな問い掛けが、「芸術起業論」で解き明かしているような戦略論を一度しっかり受け止めた上で、さらにバージョンアップした取り組みを仕掛けていくプロセスを通じて生まれてくることこそ将来的に期待したいですし、自らもそのようにありたいと強く願っています。
参考リンク:
反『芸術起業論』 村上隆のビジネスコンセプトを反転してみる
http://rblog-biz.japan.cnet.com/takahito/2006/07/__e5a8.html
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