やなぎみわの「MyGrandmothers:001(アートビートパブリッシャーズ刊行)」をリニューアルされたばかりの青山ブックセンター六本木店で買い求めてきた。
実はニューズウィーク日本版の「世界が認めた日本人女性100」に選出されたことを受けて先週取り上げようと思っていたのだが、忙しさにかまけて記事をアップできなかった(残念!)。
さて、「MyGrandmothers」はなかなか入手困難な作品集で・・と、書こうと思ったのだが、実際のところどうなのでしょうか?
私は写真集コーナーのやなぎみわ作品はできるだけ注意して見ていたつもりなのですが、青山ブックセンターで見つけるまでその存在自体知りませんでした。
■仕掛け絵本としての「MyGrandmothers」
さて、価格2800円のこの作品集は彼女の代表作「My Grandmothers」を楽しむ際に欠かせないガイドブックであって、しかも「本」という物理的存在を作品集のプレイバック装置として活かしたユニークな本なのです。
まず、「MyGrandmothers:001」は、全ページが「観音開き」になっている。そして、その扉は、中央部分から左右に向かって紅色が濃くなるグラデーションになっている。読者は、この扉をひとつひとつ開いていくことで、それぞれの「MyGrandmothers」のストーリーに入っていける仕掛けになっている。
ちょうど、扉の一つ一つが一人一人のお婆ちゃんに対応していて、それぞれが個別の背景、出自、物語、未来を有している。しかも(ちょっと子供向け知育絵本のようなのですが)観音開きの良さで、片側だけ見るという遊び方ができる。「左側のテキストだけ読んでビジュアルをイメージする」とか「右側のビジュアルをまず見てからテキストを想像する」なんていう楽しみ方ができるのです。
■少女の完成形としての老女
でも、何と言っても、そういった物語再生装置としてのユニークさ以前に、気軽に「パラパラッ」とめくれないストレスがあることでそれぞれのストーリー=人生に手順を踏みながら「よっこいしょ」と入っていくプロセスが楽しい。
少女趣味の奔放極まりない成熟形態としてのグランドマザーズ(円熟した幼稚さ)を楽しむプロセスが、そのまま仕掛け式絵本の愉しみとしてビルトインされていることは「内容と手順とが整合している」という点で、素朴に納得できる。
そして、大人が絵本を楽しむという習慣は比較的市民権を得たといえるが、改めて考えてみれば、これほどディープでリアリティのある大人向け絵本はなかなか無いのでは?と、感じる。
なにしろ、総人口に占める65歳以上の老年人口の割合は2010 年には23%、2030年には30%、2050年には36%になると予測されているので、ここに描かれている光景の多くは早晩ファンタジーではなくなるのだ。
MIKA
私の生徒だったあなた達と、この島に流れ着いて十数年、
ここはもはや地球で唯一の場所なのか、
他に生き残った人間はいないのか、
知るすべもないままに、私たちは生き延びました。
私より長い未来を生きるあなたたちは、
将来、この島を出ることがあるのでしょうか。
異性や他の人間と出会うことがあるのでしょうか。
たとえ最後の一人になっても生きていけるように
私はあなた達を育ててはきたけれど。
私の願いはただ一つ、
どうかこの島に住むすべての命が
次の世代を生むように。
地表の萌芽となりますように。
やなぎみわ MyGrandmothers:001 より
■そこにいるのはホンモノのお婆ちゃん(そして恐らく関西在住)
やなぎみわの描くイミテーションのおばあちゃん達は、究極のコスプレであり、その精緻さはハリウッド映画の特殊効果にも引けをとらない。ただ、そこにいるのはホンモノのお婆ちゃんだと思う。しかも、おっとりした品格もありながら、同時にしたたかなケレン味も兼ね備えた、筋金入りのお婆ちゃんではないかと思う。だから、「MyGrandmothers」には死と滅びの影が色濃い割りには、とても闊達で楽観的な空気が流れている。
創り込まれたイミテーションの空間は、得てして自閉的で内側にどんどん籠っていく傾向が強くなりやすいように思うのだが、やなぎみわの作品は、そのこだわりぬかれたディティールにも関わらず、奔放で自由だ。空間が常に現実の世界との接点を失わず、未来だろうが海外だろうが現実空間と連続している。
だからこそ、開始から6年経った今になってもこの作品のイメージは色褪せない。そして、その一方で、この書籍「MyGrandmothers:001」に見られる「少し閉じた感じ」は、かえってそのイメージの自由と奔放を強調しているようにも感じる。
注釈:My Grandmothersについて(やなぎみわ公式サイトより)
「My Grandmothers」は、女性達に彼女達自身の半世紀後の姿をイメージしてもらい、それをビジュアル化するプロジェクトです。モデルのアイディアを借りた私自身の架空の祖母の創作であり、理想の老女達の共同制作でもあります。
参考サイト:
やなぎみわ公式サイト
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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