少し前、出張で四国の丸亀市を訪れた際に、備前平野を縦断するJRの車中からグラフィティがぽつぽつと確認できるのを見て「あぁ、面白い!」と思った。
なぜかと言うと、東京ではあまりに見慣れたグラフィティと、その場のグラフィティとでは明らかなテイストの違いがあったからだ。ちょっと垢抜けないドメスティックな印象のあるグラフィティは、でもかえって土着的で、その場ならではの「味」をかもし出しているように感じたのだ。
コンテンポラリーアートの文脈では「サイトスペシフィック」というコンセプトがある。これは本当によく出てくる切り口なのだが、要は「その場限り」というコトだ。
そもそもあらゆる現象がどんどん、それこそ森羅万象デジタルコードに変換されるなかで敢えて現物の固有性に(良くも悪くも)コダワッテイル現代美術にとっては「サイトスペシフィック」という切り口は、ある意味当然持ち出すべき「強味」なのだし、本来「売り」になるべきポイントだといえる。
そう考えると、優れたグラフィティというのはそのまま優れたコンテンポラリーアートだ。
MUSTONEにめぐり合ったのは、またもやPingMagの特集記事(「一枚の絵画に隠された意図」)でだった。このインタビューを読むと分かるのだが、彼(MUSTONE)は「サイトスペシフィック」を「その場限りの固有性」という概念からさらに飛躍させて「日本の風土・風俗とリンクした土着性」というレベルにまで昇華して、それを感覚的にも手法的にも積極的に活用している。
いきなり話は変わるが、民俗学者の柳田國男は「妖怪談義」で「ユーレイとオバケ」との違いについて触れている。それは、「幽霊=場所を選ばず出現するユビイクタスな存在」に対して「お化け=出現する場所がほぼ決まっているサイトスペシフィックな存在」という対比によって表すことができるらしい。
MUSTONEが現在渋谷で展開しているグラフィティは、日本のトラディッショナルアート「百鬼夜行絵巻」を現在の東京に新しい解釈で繰り出そうとする意欲的な作品だ。
ストリートに「百鬼夜行絵巻」を作りたいですね。妖怪のパレードが街に現れるっていうのを全国各地でやりたいと思ってます。もともと巻物もグラフィティの壁面も横長のフォーマットだし、ストリートで表現した方が「百鬼夜行絵巻」の物語的にもリアルじゃないですか。今、渋谷でその第一弾をやっているんですけど、描いている壁に面する商店街ともリンクしたものになっているので、壁画としてはもちろんですが、空間としても体感してほしいですね。
(「一枚の絵画に隠された意図 PingMag」より)
この「商店街のシャッターに描かれた妖怪絵巻=現代のグラフィティアートによって蘇る魑魅魍魎のビジュアルイメージ」には、かなりガツンとやられた。確かに百鬼夜行絵巻は横長フォーマットだし、その妖怪図像がエンコードしているイメージは今見直してもなお鮮烈な存在感を蓄えている。
しかも化け物とは、つまり「サイトスペシフィック(ある場所に固有)」な存在だから、このグラフィティワークは存在論的にも筋が通っているし、まず何と言ってもその場でしかありえないような存在感を激しく放っているように見える。
グーグルがローカルサーチ(「ローカルサーチ」が生み出すマイクロビジネスの可能性――地域情報化のあらたなるアプローチ」を参照のこと)を通じて新しいウェブのあり様を模索している。あらゆる情報がコード化されてウェブ化されるということは、地域とか場所といった、我々にとってとても見慣れたありふれた存在を突然違う視点によって捉え直すチャンスでもある。
例えばGoogleMapは、そのAPIが活用されることによって実に多様な新地図が産まれ育っている。そして、そのことは固有の価値軸、固有の(場所の解釈のための)枠組みを通じて様々な地理感覚を形成する機会作りになっている。
MUSTONEはこれから渋谷に限らず、東京のあちこちに「百鬼夜行絵巻」を描いていくだろう。そうしたとき、GoogleMapにポイントされた妖怪地理情報は、きっとふだん見慣れている東京の新しい見え方、今まで見えてこなかった「その場所にしか存在しないバケモノたちの仮想地図」を可視化して見せてくれるんじゃないかと思う。
関連記事:渋谷駅東口エリアで複合アートイベント?巨大映像投影も
http://www.shibukei.com/headline/3280/index.html
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