「熊から王へ」
中沢新一が9.11直後にはじめた授業をまとめたもの。
古代、熊と人間は相互に殺しあう対称性をもった存在だった。熊はひとたび毛皮を脱げば人間になるという、相互に行き来可能な存在だった。その熊とのコミュニケーションをこれでもかというくらい豊富な神話の事例で紹介する。人間が熊の洞窟に連れられていって、そこで熊と交配する。このようにして、人間が熊となり、熊が人間となるという相互往来の認識によって、自然世界への無制限の技術の蹂躙を防いでいたという。
人間を特殊な存在とせず、熊をはじめとする自然を、対称性の関係として考えていたという。
国家権力の派生は、こうした熊(自然)と人間(文化)が離されるのではなく、ひとつの存在として融合することによっておきるという。人間世界において、ふゆの生活を司る秘密結社のリーダー、戦士、シャーマンの3者と、人間の通常の生活のリーダーである首長がそれぞれ対置される。3者は熊であり、後者が人間であるが、その両者が合体する、すなわち、平時においても熊が現れることによって、権力は発生するという。
そのようにして発生した王においては、非対称の関係となり、自然は人間によって一方的に制御される存在として認識されるようになる。テロリズムはその抵抗手段として発生する。
冒頭で紹介される宮沢賢治の「氷河鼠の毛皮」の物語は、確かに9.11との親和性を認めざるを得ない。
1.この本の議論の土台になっている人間性は、スティーブン・ミズンの「心の先史時代」であり、「心の先史時代」はカミロフ・スミスの発達の理論を系統発生に適用したものである。脳のモジュール性についてのカミロフ・スミスの議論にはまだ決着がついていないものと思われる。
2.仏教はこのような対称性の思想を文明的に洗練させたものであり、インドにおける国家の成立の反動として起きたと説明されている。それ自体はとても面白いが、空の概念と熊の概念の同相性あたりから、なにやらわからんという感じ。
3.この本においては、国家を王という核(kernel)の問題として描き、膜の問題としては描いていない。
私的所有の生物学的起源も参照。
4.天命反転住宅に住む住人は、毎月なんらかの動物にならなくてはならない。そういうこと。
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