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    いまIT業界に求められていること

    2011-03-26 00:00:00

     震災後、被災者を支援するためのウェブサイトがものすごい勢いで立ち上がっています。これらの取り組みは、本当に素晴らしい。その立ち上がりのスピードといい、完成度といい、日本のウェブ業界の技量の高さには頭が下がるばかりです。






    roomdonor.jp(被災者と住む家を提供するルームドナーのマッチングサイト)

     これらは今思い出したサイトを並べてみただけです。他にもたくさん立ち上がっています。

    現地の情報はアナログである

     しかしここで私は、課題をひとつ提起したいと思います。これらのウェブメディアを同時並行的に立ち上げていくこと以上に、いま本当に求められていることがあります。それは、ネットのインフラが使えなくて情報が途絶している被災地の人たちからアナログの情報を収集し、そして食糧配給や安全な避難所や燃料などの情報を再びアナログに戻して送り届けること。

     私はこの一週間、孤立した被災地への支援を行っている日本ユニバをはじめとして政府関係、防災関係、またIT業界などの人たちと会って意見交換してきました。現地の様子はいまだに全容はさっぱりわかりません。被災地の全体像をつかんでいる人は、おそらく政府にも自衛隊にも自治体にもほとんどいません。みな「自分の目の前にあること」を一生懸命手を尽くしている状況です。しかし全体像が見えていないから、どうしても欠落部分は生じてしまいます。しかし情報インフラについては次のような断片的な情報が入ってきています。

     たとえば仙台市内。津波によって停電し、さらに携帯電話網も途絶した地域があります。この結果、電池で動く携帯ラジオと、携帯電話内蔵のワンセグテレビだけが情報入手手段となりました。もちろんこれらは「情報入手」だけで、「情報発信」はできません。この間、電話会社から「伝言ダイヤル171を利用しましょう」とテレビやラジオで呼びかけがありましたが、まったく利用できなかったそうです。電話が不安定ながらようやくつながるようになったのは、早いところでも震災後4~5日後だったそうです。

     また「情報ボランティア」として現地に入り、独力で食糧配給場所などの情報を収集し、その情報を自家用車を使ってさまざまな被災地に口頭で伝える活動をしている人もいます。

     また孤立被災地を支援している日本ユニバは、救援物資を運ぶかたわら現地で情報を収集し、その情報を救援活動にフィードバックさせています。

     いずれのケースも、現地の情報はほとんどがアナログで、口頭によって収集されています。現地からインターネットを使って収集されている情報はおそらく全体の中のごく一部にすぎないのではないかと思われます。

    自治体経由の情報流通システムが壊滅した

     では口頭で情報をやりとりするネットワークは存在しないのでしょうか?

     被災地では安否確認以外にも、「どこにいけば食料の配給があるのか」「どこでガソリンを購入できるのか」「仮設住宅などはどこに申し込めばいいのか」といった情報が求められています。これら生活情報の重要性は、15年前の阪神大震災でも大問題になりました。そして阪神の教訓から、救援物資については赤十字に一元化し、自治体から地域の自治会へと経由して現地に送り込むというスキームができあがっています。また非被災地からのボランティアについては、自治体の社会福祉協議会を経由して一元化されることになっています。

     ところが今回の震災では、まったく予想も付かないことが起きました。受け皿となる自治体や自治会、社会福祉協議会がほとんど消滅してしまったのです。この結果、自衛隊や米軍のような自力で現地に物資を届けてくれる組織は別にして、救援物資やボランティアを現地にうまく送り込むことができなくなってしまったのです。

     もう少し専門的な用語で言えば、援助のロジスティクス(補給線)が崩壊してしまったのです。どこにどんなニーズがあり、どう物資を送り込めばいいのか、どういう情報が必要とされているのかという、その肝心の情報伝達網が破壊されているのです。

     自治体経由での救援を前提に作られている政府の体制がこれでは円滑に回るはずがありません。「菅首相はいったい何をやってるのか!」と傍観者的に批判するのは勝手ですが、内閣が必死で動いたからといってこのロジスティクスの問題がすぐに解決するわけがありません。

    いまの問題点を洗い出してみる
     
     ではできることは何もないのか?

     そんなことはありません。そして実はこのときにこそ、われらが誇るITの業界の出番ではないかと私は考えています。

     問題点をまず洗い出しましょう。

    (1)同時に複数できあがってきている被災地支援ウェブサイトの間で、情報が分散されてしまっている。

     別々に情報収集しているため、データベースが一元化されていません。被災地から見れば、複数立ち上がっているサイトをすべて横断していかなければ情報のすべてを捉えることができない。これは被災地にいる人にはたいへん困難で、情報を効率的に収集することを妨げています。

    (2)被災地のアナログ情報がうまく取り込めていない。

     インターネットの利用という観点で被災地にいる人たちを分けると、次のような3つの層になります。

    (A)今もインターネットが使えない地域。テレビやラジオ、それに人力で運び込まれる新聞ぐらいしか情報手段はない。
    (B)通信インフラが回復しているが、インターネットを使いこなせていない高齢者。あるいはデバイスが壊れてネットに接続する方法を持たない人たち。
    (C)通信インフラが回復し、とりあえずインターネットを使えてTwitterなどで情報収集できている人たち。

     この中で被災地支援ウェブサイトに情報を送り届けてくれているのは、(C)の人たちだけだと思われます。(A)や(B)の人たちからの情報をうまく収集するスキームができていません。

    (3)せっかく収集・整理した情報が被災地に送り届けられていない。

     これも(2)と同様ですが、こちらはアウトプットの問題です。ネットが使えない、あるいは使いこなせない高齢者層がたくさんいる避難所に対しては、たとえばプリンタで情報を出力して送り届けるようなことが必要でしょう。しかし現地ではPCやプリンタが圧倒的に不足しているという情報も上がってきています。

    これからやるべきことは次の4つだ

     このように問題点を洗い出してみると、やるべきことは明らかです。

     まず第一に、今後は支援サイトを次々に立ち上げるのではなく、情報のデータベースを一元化すること。理想的にはAmazonやGoogleの強靱でスケーラブルなクラウドを活用し(この際、外資系だから云々はなしにしましょう)、APIを公開するか、あるいはXMLなどのデータフォーマットを外部から参照できるようにすること。

     もちろん同じデータが複数かぶって存在してしまうマルチプル問題や、異なるフォーマットをどう統合するかという課題もあるでしょう。これまでに作成されたデータは手作業でこのデータベースに統合することも検討しなければならないかもしれません。

     そしてここに集約されたデータは、さまざまなプログラマが競ってアプリ化すればいいのではないでしょうか。たとえば東電は当初、電力使用状況をコピペできない(!)pdfで配布していましたが、経産省の呼びかけもあってCSV形式でダウンロードできるようにしました。この結果、わずか数日のあいだに無数のアプリが登場してきています。APIを作って公開する人も早くも現れました。

    「どれを使えばいいのか」という選択肢に悩む、という問題はあるかもしれませんが、少なくともソースとなるデータベースは一元化されているので、混乱が生じる心配はありません。

     そして第二に、現地からのアナログ情報を集約するシステムを構築すること。すでにボランティア団体は数多く現地入りしていますし、現地でネットを駆使する若い人たちもたくさんいます。こういうところからできるだけ多くの情報を届けてもらうようにすること。首都ではようやく燃料事情が回復してきています。食料と燃料を持参して現地に情報収集に入るボランティアが必要かもしれません。

     そして第三に、現地のアナログ情報をデジタルに変換するボランティア活動を展開すること。これはグーグルがパーソンファインダーですでに実践しています。非被災地にはこの仕事を手伝える人は無数にいるでしょう。集合知を活用すれば、これはあっという間に可能なのではないかと思います。

     そして第四に、現地に情報をアナログで送り届けるシステムを構築すること。現地にPCとプリンタを送り込み、わかりやすいデザインで情報をまとめた印刷物を大量に印刷し、配布したり避難所に貼ってまわるボランティアも必要になってくるでしょう。

    チャネルではなく、レイヤーモデルで考えよう

     これまでの2週間、ウェブサイトというチャネルを立ち上げることにITの世界のエネルギーは費やされてきました。これからは次の段階へ、つまりチャネルを増やすのではなく、データベース/収集/配信のレイヤーモデルへと移行して大きなシステムを皆で作り上げる時期に来ています。

     そしてそのシステムでは、情報はアナログからデジタルへ、そして処理されたうえでデジタルからアナログへ。

     このようにして情報が集約されるスキームができれば、それは実のところ後々までも大きな遺産となるでしょう。ティム・オライリーは「Gov2.0」という概念を提唱し、政府の持っている公的なデータベースをAPI公開して民間で活用するという将来の政府のIT活用のあり方を語っています。このGov2.0が日本でも実現する可能性は最近まで「ほとんど無理」と考えられていました。省庁ごとの区割りやさまざまな規制、硬直化された慣習などがそうしたドラスティックな変化は望まないだろうと思われたからです。

     しかしはからずも震災後のこの状況の中で、なし崩し的にいろんな制限や慣例や硬直した枠組みが解き放たれて来ています。どんどん物事は進みつつあって、一気に世の中をいま変えつつあるようにも思えます。だったらその流れをさらに突き進んで、変えてしまいましょう。

    ネットワークに参加してほしい

     この被災地の情報のデータベース共有化については、私も参加している「情報支援プロボノ・プラットフォーム」(iSPP、仮称)というIT業界の連携ネットワークも立ち上がりつつあり、意見交換がいままさに始まってるところです。このエントリーでこのiSPPの趣意書を紹介しますので、賛同される方は参加いただければと思います。

     なお私は技術者ではないので、自分でこのようなデータベースやAPIやアプリなどを開発することはできません。「好き勝手に人ごとのように書きやがって」と怒られる方もいるかもしれません。お詫びします。ただ私の持っているITについての知見として、このような方向性が重要だということを多くの人に伝えたく、今回のエントリーを書いたということを理解していただければと思います。

    ※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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