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週刊誌記者の取材を受けた
大手週刊誌の電話取材を受けて、心が汚れたような気持ちになった。
元ライブドア社長の堀江貴文さんについての取材だった。私は5年ぶりぐらいに堀江さんに2時間ばかりのインタビューをして、その長大な一問一答が今月発売中の雑誌「サイゾー」に掲載されている。その記事を読んだ週刊誌の記者が私に電話をかけてきたのだった。
記者「サイゾーに書いてた以外で、もっとプライベートな話は聞いてないんですか。たとえばどんな遊びをしてるかとか、どんな食事をしているかとか。サイゾーのインタビューのトップページは堀江さんが大口を開けてハンバーガーを食べてる写真でしたね。やっぱりファストフードが好きなんですかね」
私「いや、ハンバーガーの写真はフォトグラファーの仕込みで、別に堀江さんがハンバーガーを好きということではないと思いますよ。あとプライベートなことは今回の取材の趣旨ではないので、とくだん聞いてません」
この程度のやりとりであれば、普通の雑誌の取材であって、なんら問題はない。でもだんだんとこの記者は、電話口で誘導尋問を仕掛けてきた。
記者「これから堀江さんはどういうことをしようと考えてるんですかね」
私「ITにはもうあまり興味はなくなっていて、これからやっていきたいのは宇宙ビジネスだって言ってましたよ。あと私が心に残ったのは、彼が『これまではきちんと自分の考えていることを公に説明してこなかった。わかる人だけわかればいいと思ってたんだけど、でも逮捕されてそういうスタンスでは世の中に自分のやっていることが伝わらないんだということがよくわかった。だからこれからは自分の考えていることをわかりやすく説明していく』と言っていたこと。書籍とかインタビューとか、あるいはブログとかYouTubeのような自分が作れるメディアで自分の考えを表明していきたい、というニュアンスのことを話してましたよ」
記者「なるほど。要するにテレビには出してもらえないので、自分のメディアで意見を言っていくということなんですね」
私「いや、ちょっと待ってください……テレビに出してもらえないなんていう話はひとことも彼から聞いてないんですけど」
あるいは次のようなやりとりも。
記者「株主から提訴されて70億円以上の賠償金を支払えという民事の判決が出たことについてはどうなんですか」
私「それは本人に私は聞いてないんでよくわかりませんが、でも彼はライブドア時代に自社株を140億円ぐらいはキャッシュアウトしているので、おそらく支払えるんじゃないでしょうか」
記者「裁判は今後も戦っていくんですかね」
私「民事の話は聞いていないのでよくわかりません。でも刑事裁判については、有罪判決はとうてい承伏できないので、今後も戦っていくという話はしてました」
記者「刑事も民事も徹底的に戦っていくということなんですね」
私「……ちょっと待ってください。民事で戦っていくかどうかは聞いてません。刑事について戦っていくという話を私は聞いただけですよ?」
予定調和の世界
この記者がどういう本心で取材してきたのかは、私は彼ではないので本当のところはわからない。しかしマスメディア出身で、いまも取材活動を仕事の中心に据えている私としては、この記者が何を考えていたのかはある程度は推測できる。それはつまり、こういう記事を書きたいということなのだ。
「テレビなどのマスメディアからは相手にされなくなったホリエモンは、ブログやYouTubeのような自分のメディアを作ってそこで閉じこもって細々と情報発信」「60億円の民事訴訟に敗訴したホリエモン、必死で裁判で戦っていくとやせ我慢」
予定調和の世界である。
そういうようなシナリオを描くのは勝手だが、しかしそのシナリオは事実とは著しく乖離している。しかし著しくリアリティがないとしても、その記者が自分の意見として「ホリエモンは貧すりゃ鈍す」と主張したいのならまだ理解できるが、彼らの発想はそうではない。堀江さんに取材した私を引っかけ質問で誘導して、「最近ホリエモンに取材したジャーナリストの佐々木氏によれば、ホリエモンはすっかり貧すりゃ鈍すになっているようだ」と他者に責任をおっかぶせてリアリティのかけらもないでっち上げ記事を書きたいだけなのだ。
私個人の気持ちをいえば、取材の電話をかけてきてくれたのはありがたいことだけれども、なぜそこまで人を誘導尋問で引っかけて、私が考えてもいないことをコメントとして掲載しようと思うのかが、もうわからない。取材者と取材対象の信頼関係なんかどうでも良くて、自分が作ったシナリオ通りに相手をしゃべらせればそれでオッケーという神経が、どうにも理解できない。ひとりの取材者として取材対象に対して少なくとも自分のできうる限り真摯に対応しようと努力してきた(時にはその努力が水の泡に終わって、それはとても悲しく申し訳ない気持ちでいっぱいなのだが)私にとっては、このような「信頼関係なんかどうでも良い。自分のシナリオ通りのコメントがとれればあとはどうでも良い」というマインドを持つ記者が存在しているということ自体が、悲しくてたまらない。
だから心が汚れた気がしたのだった。
でも私個人に関していえば、1990年代末まで新聞記者をしていて、正直に告白すれば、この週刊誌記者のようなひどい取材をした経験がないとはいえない。
でも2000年以降、インターネットというフラットな空間の洗礼を受けて、そのようなリアリティのない取材は今後はもう成り立たないということが生理的に認識できるようになった。つまりリアルな生々しい現実を、どうすれば自分の書く原稿に移し替えられるかどうかが、私にとっては最大のテーマとなったということだ。
予定調和なシナリオを描いて、それを読者に強制しようとしても、そんな誤った予定調和はインターネットというフラットな空間であっという間に否定されてしまう。否定されないためには自分の書くことがどれだけリアリティがあるかということを、徹底的に構造化し、分析し、ロジックを高めて書いていくしかない。
ジャーナリストとしての私がインターネットというこの荒々しい空間で学んだのは、つまるところはそういうことだ。
でもその気づきは、いまだマスメディアの記者たちには届いていない。この荒々しい空間で本当のリアルとは何か、そこに近づくためにはどうやってもがけばいいのかを学びつつある私(もちろんまだ目標にはとうてい届いていない。努力の途上でしかないのだが)にとっては、そうではない予定調和でステレオタイプでなんら信頼関係の存在しない取材をしているマスメディアの記者たちと接触することは、必死で磨いてきた自分の魂が汚れてしまうような不潔な体験でしかない。
テレビはただの現在にすぎなかった
草創期のテレビマンたちが書いた
お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か (朝日文庫)という書籍がある。1969年刊。最近復刻版が出た。TBSを辞めて後に制作会社のテレビマンユニオンを設立する3人が書いた本だ。
この本が生まれた背景には、TBS成田事件がある。詳細はウィキペディアの「TBS成田事件」の項目を読んでいただければわかるけれども、簡単にいえば成田闘争を取材していたTBSのニュースクルーが、ロケバスにこっそりデモ参加者たちを載せて機動隊の検問をくぐり抜けてしまったという事件である。政府からの激しい非難もあって、TBSはこの事件を重く見て関係者を左遷させたのだが、この処分に対してTBS労組は「権力からの介入だ」と反発し、争議となったのだった。最終的には事件に関わった現場のディレクターたちがTBSを退社し、テレビマンユニオンを設立したのである。
「お前はただの現在に過ぎない」は、この草創期のテレビマンたちのリアリティへのこだわりが青臭いまでに素晴らしく、かつてはテレビってこんな世界だったのかと目を見張らされる。最終章にこんなくだりがある。
「テレビ――お前はただの現在にすぎない」とは、すなわち、テレビの同時性(即時性)に対する「権力」及び「芸術」からの否定的非難の言葉として、ぼくらに発せられているということなのだ。
「時間」をすべて自ら政治的に再編したあとで、それを「歴史」として呈示する権利を有するのが「権力」とすれば、そのものの「現在」が、as it is(あるがまま)に呈示しようとするテレビの存在は、権力にとって許しがたいだろう。「テレビ、お前はただの<現在>にすぎない。お前は安定性を欠き、公平を欠き、真実を欠く」――それが体制の警告だ。テレビが堕落するのは、安定、公平などを自ら求めるときだ。
でもいまや、テレビは権力となった。この書籍の中に、東大の安田講堂落城を描いた場面がある。故小田実のコメントが紹介されている。
東大のテレビ中継が、佐世保と決定的に違って、カメラは常に機動隊の背後にあり、決して学生たちの側になかったと指摘する。佐世保でのカメラ・ポジションは、報道者も、視聴者もともに、学生側に「参加」した。ところが東大の中継では、テレビを見る人びとすべてを学生側に「参加」させることができなかったばかりか、ひょっとすると機動隊の側に「参加」させてしまったのではないかという。
でも安田講堂落城の現場では、テレビマンの中でひとりだけリアリティにこだわり、機動隊の背後からではない場所から中継しようと考えた記者がいた。テレビ朝日の記者である。彼は書籍の中で証言している。
カメラ・ポジションをどうするかということも考えました。基本的には、学生たちの内面に迫ろうということですから、どうしてもカメラを講堂に入れることはできないとすれば、せめて逮捕されて連行される学生たちのクローズアップを、できるだけ正面から撮ることが、この場合の唯一の方法だという意見も賛成されました。他の局は、カメラを高いところに上げて、全体を見渡せる画面を作ろうとしていましたし、そういう配置もしたのですが、一台だけは低い位置から撮ろう――ローアングルでいこうと決心しました。全体を見せるというより、機動隊の威圧感や学生そのものに迫るためには低いカメラがどうしても必要だと思いました。
そしてテレ朝の記者はその低いアングルから安田講堂の中へと入り込み、そして学生運動の闘士たちが書いた壁の落書きをメモし、それらを読み上げながら、自分の見た東大闘争を語っていった。「人間を最も欲している者が、何故最も非人間的に見られるのだろう」「連帯を求めて孤立を恐れず、力及ばずして倒れることを辞さないが、力尽くさずして挫けることを拒否する」。それらの落書きを読み上げていく記者の言葉は、「机や椅子が壊れています」「(放水の)水が滝のように流れています」という通り一辺倒な現場レポートを行う他社の記者たちとは一線を画す報道となったのだった。書籍の著者たちは彼の報道をこう評した。「視聴者は学生たちの内面を記者の言葉によってうかがい見た思いがしたのである」「人々は学生たちのバリケード内での生活と、彼らの素顔を垣間見ることができた」
テレビ――たしかに、この時代においてはおまえはただの現在に過ぎなかった。しかし1969年のこの時代以降、テレビは「現在」からどんどん遠ざかっていく。
テレ朝記者の末路
東大を生々しく中継したテレビ朝日の記者は、その後テレビ朝日の幹部に昇進した。名前を椿貞良という。彼は1990年代、テレビ朝日の報道局長に就任した。そして民放連の会合で、こんな発言をする。
「小沢一郎氏のけじめをことさらに追及する必要はない。今は自民党政権の存続を絶対に阻止して、なんでもよいから反自民の連立政権を成立させる手助けになるような報道をしようではないか」「共産党に意見表明の機会を与えることは、かえってフェアネスではない」
この発言はテレビの公共性を著しく害する行為であると判断され、椿は衆議院に証人喚問される事態にまで発展した。いわゆる「椿事件」である。1969年にあくまでリアリティにこだわった椿記者は、四半世紀を経た後にリアリティではなく、予定調和的なシナリオを描く側に回ってしまったのだった。この長い年月の間にテレビがリアリティから乖離していった時代状況が、椿事件には象徴的に表れている。
そして「お前はただの現在にすぎない」というすぐれた書籍を著した青くさいテレビマンたちはテレビマンユニオンという制作会社を立ち上げ、そしてその会社はテレビ業界の中に取り込まれていき、そしていまや若者たちを徹底的に搾取する側に回っている。
そうやってテレビがリアリティを失い、権力化していく中で、インターネットがやってきた。バカと暇人のもの? たしかにそうだ。ノイズだらけ? たしかにその通りである。でもネットがそういう構造を持っているというのは、すなわちわれわれの生きている社会がバカと暇人とノイズにあふれているということに他ならない。要するに「インターネット――お前はただの現在にすぎない」ということなのだ。
インターネット――お前はただの現在にすぎない
ウェブは権力でもなければ、清い空間でもない。バカや暇人や悪人やいろんな人間がそこに生息し、毒づいたり感動したり笑ったり誹謗中傷したり、いろんなことをしている。つまりはそれこそがリアリティと言うことだ。
テレビや新聞がリアリティをなくしていったあとに、本当のリアルを体現するネットがやってきた。この荒々しい場所はひどい場所だけれども、しかし権力化してステレオタイプな予定調和にまみれてしまったテレビや新聞にはもう期待できないリアルに溢れている。
だから私は、この荒々しい世界がどんなにひどい世界であっても、心が汚れる予定調和の世界ではない住み心地の良さを感じている。
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