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ウェブ3.0とは何か
この春ごろから、ウェブ3.0という言葉が急に大まじめに語られるようになってきている。少し前までは「3.0」というのは冗談のタネでしかなかったが、そうではなくなってきたようだ。
たとえばイギリスの新聞ガーディアンは2月に、「ウェブ3.0はパーソナライゼーションとレコメンデーションだ」と評するJemima Kissのコラムを掲載している。またアメリカのブロググループはReadWriteWebは昨年初めに「ウェブ3.0って何だろう定義コンテスト」を開き、その話を題材にして「Web3.0はパーソナライゼーションなのか?」という記事を書いている。日本語訳はこちら。
また日本でも、技術評論社のWeb Site Expert誌が5月24日発売の最新号で、「Web2.0の次の波」という大がかりな特集を組んでいる。
ではウェブ3.0とはひとことで言えば何なのか。
先ほどのReadWriteWebのコンテストで優勝したのは、ニュージーランドのプログラマー、ロバート・オブライエン氏だった。記事によれば彼の定義はこうだ。「ウェブ1.0は集中化した彼ら、ウェブ2.0は分散化したわれわれ。そしてウェブ3.0は非集中化したわたし」
なかなか難しい。だがより明確に、わかりやすくひとことで言いきってしまえば、こういうことだ−−「自分自身による、情報の再集約」。
それはウェブ2.0への反省から始まった
振り返ってみれば、ウェブ2.0を象徴する言葉は「フラット」だった。マスメディアから発進した情報も、個人が発進するブログやYoutubeなどの情報も、ネットの世界では等価に扱われる。
しかしフラット化が進み、情報がインタラクティブに扱われるのが当たり前になると、そこにはひとつの問題が生じてくる。さまざまな個人、さまざまな組織、さまざまな共同体が発信する情報が膨大な量になり、情報爆発が起きてしまったのだ。
この情報爆発によって、ユーザーが自分にとって有用な情報を的確に入手するのは、難しくなった。たとえば検索エンジンを考えてみればよい。検索エンジンを使って自分に必要な情報を的確に拾い上げるためには、かなりの熟練したスキルを必要とする。おそらく私の70歳近くになる母親に、「検索エンジンを使ってデジカメを通販で購入してみたら」と勧めても、期待通りの結果を得ることは不可能だろう。そもそも書店に「グーグル活用本」が大量に並んでいるという事実は(という私も2冊ほどそういう本を書いているので、批判できるような立場ではないが)、検索エンジンのハードルが高いことを証明している。
インターネットの普及率がクリティカルマスを突破し、携帯電話にも検索エンジンが搭載されるようになり、子供からお年寄りまで誰もがネットで情報を収集するようになったこの時代において、このような高度なスキルを必要とするツールが依然として情報アクセスの主要な手段であるというのは、どこか間違っていると言わざるを得ない。
それは、マスメディアのような受動的なメディアが復権してくる可能性を意味しているのだろうか?
自分自身による再集約
違う。マスメディアのようにすべてのユーザーに対して一律に同じ情報を提供するのではなく、情報爆発を起こしている膨大なインターネットの海の中から、そのユーザーに適した情報を拾い上げ、そのユーザーに特化したかたちで情報を提供するような仕組みが必要になってくるのだ。つまりマスメディアのような一律的なプッシュではなく、パーソナライズされたプッシュがいまや求められている。そしていま求められているこの新たな仕組みこそが、Web3.0と呼ばれるようになってきている概念の本質に他ならない。
ユーザーのもとに情報を再集約する仕組みは、検索エンジンやRSSリーダー、ソーシャルブックマークなどの試みの延長線上にある。たとえばフェースブックのようにその再集約を、自分の友人知人からのライフストリーム(行動情報)によって高めようというトライアルもあれば、あるいはアマゾンのような協調フィルタリングを使ったパーソナライゼーションもひとつの手法となる。
こうしたさまざまな試みの進化の先には、ライフログの概念も交錯してくる。非常に巨大なブルーオーシャンが待ち受けているように見えるが、しかし情報アクセスを高度化させるため、どの部分まで個人の行動や内面を取得して良いのかという存在論的な問題も浮上してくることになる。こうした進化はおそらく、激しい議論を引き起こすことになるだろう。
そのようなライフログ−レコメンデーション的な進化ではなく、ユーザーの側が自助努力によって、情報アクセスの能力をさらに高度化させていくという可能性も残っている。そのような進化の果てのウェブ3.0はパーソナライゼーションやレコメンデーションではなく、「Art of Search(検索芸術)」化していくかもしれない。
黒川紀章の「ホモ・モーベンス」
つい先ごろ亡くなった建築家の黒川紀章氏は、1969年に「ホモ・モーベンス 都市と人類の未来」という書籍を書いている。晩年は突如として都知事選に出てみたり、髪を振り乱した風貌が奇人変人の雰囲気を醸し出して、奇行の目立つオジイサンというイメージしか残っていなかったが、しかし若いころの黒川紀章氏は本当にカッコ良かった。
この中公新書で出た「ホモ・モーベンス」も、1969年という時代に書かれたとは思えないほど示唆に満ちた本で、現代都市で人が定着する生き方から、いかにしてホモ・モーベンス(動く民)へと変化していくのかということが、明晰な論理と自由闊達な筆で描き出されている。もちろん当時はまだインターネットどころかコンピュータもろくに人間生活の中に入り込んでいない時代で、「動く民」のあり方がいまのように情報のパケットを軸にしているのではなく、道路交通や住居を軸にしている。そのあたりは黒川氏の建築家らしさでもあり、あるいは透明のチューブが都市の空間を縦横に走ると思われていた当時の未来社会像を思い起こさせるようで微笑ましい。何しろ当時の黒川氏は、近い将来人間はひとりひとりカプセルの中で生活するようになると考えていたのだ。その哲学の表出が、かの有名な銀座八丁目の中銀カプセルタワーである。
さてこの本の終盤で、黒川氏は当時はまだ影も形も存在していなかった情報社会の未来について、次のような仮説を立てている。これが驚天動地だ。実のところ彼は、無料経済とそれによる情報のフラット化、そしてウェブ2.0とその次にやってくるウェブ3.0の世界を予測していたのだ。これらが書かれたのは繰り返し言うが、1969年である。大阪万博の前年、まだ団塊の世代のオジサンたちが20歳ぐらいで、石を投げて革命を叫んでいたころである。以下、引用しておこう。
真の意味での情報社会が成立するためには、個人個人がユニークな情報を求めて活動できるようなシステムをつくらなければならない。そのためには、フィードバックの機構はぜひとも完備しなければならない。このことに関連して、私は次のような仮説をもっている。
情報社会には第一次情報社会の段階と第二次情報社会の段階がある。第一次情報社会とは、どんどん大量に流れてくる情報を、金を出せば出すほど大量に仕入れることができる。大量に仕入れた中で、たらふく食べてみて、それで消化できたものが、その人の栄養になる。つまり情報の価値が貨幣に換算できる時代。
その次の時代になると、大量に買える情報というのはどこへ行ってもただでもらえる。そのころには消費水準が上がって、一人一人の生活は、まったく均一化している。自分が生きがいを求めて人間らしく生きるためには、独自のユニークな情報を求めなければならない。つまり、クリエーティブな情報の時代になる。そう言う第二次情報社会になると、いったいクリエーティブな情報というものは買えるかどうか。むしろ自分のもつ個性的な情報の代価として物々交換で手に入れるより他にないだろうと思う。そのとき、いつでもどこでも、自分の望むときに発信し、受信し、フィードバックする能力を持ったカプセルは、大きな有効性を発揮するであろう。
黒川氏は、「カプセルは情報社会におけるフィードバック装置である」と書いている。情報過多と情報の一方通行から個人の生活を守るため、カプセルはフィードバックのメカニズムと情報を拒否するメカニズムを持つことが必要だというのだ。そしてこの黒川氏の問題意識は、いまわれわれがとば口に立たされつつあるウェブ3.0の時代のメインテーマーーレコメンデーションシステムの構築と、それがライフログ化していく際にどうユーザーのイニシャティブを確立するのかというテーマにダイレクトにつながっている。黒川紀章という傑出したアーキテクトの未来予見性には、舌を巻くしかない。
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