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新しい起業家たちが生まれてきた
ケータイ小説のことを書こうと思っていたのだけれど、まだ考えがまとまっていない部分があるので次回に回そうと思う。
今日書こうと考えたのは、新しい本の話。11月末に小学館から『起業家2.0』という単行本を出した(小学館がわざわざ特設サイトまで作ってくれた。書籍の中身の一部を読むことができるが、しかし短すぎるのでは。一章まるまる転載すればいいと思うのだけど>小林編集長)。水着の女性が刺激的な表紙の『サブラ』という若者雑誌で1年半続けた『Generation Z』という連載からピックアップした内容で、はてなの近藤さんやミクシィの笠原さん、ゼロスタートのザキさんこと山崎さん・羽田さん、チームラボの猪子さんなど9人のベンチャー起業家のこれまでの半生を、ノンフィクション小説風に描いた。
どうしてこのようなお話を書こうと思ったのかと言えば、この5年ほどの間にベンチャー経営者の生き方が劇的に変わってきたからだ。私は1999年に毎日新聞をやめてアスキーに移り、この時期からインターネット業界の取材を始めた。インターネットバブルの最後の時期を見守り、2000年のバブル崩壊後もずっとこの業界をウォッチしてきた。そうやって時系列で眺めてみると、90年代の起業家と2000年代の起業家では、ライフスタイルや仕事についての考え方、世界観などについてずいぶんと異なる考え方を持っているということを感じるようになった。
わかりやすく言えば、ライブドアの堀江さんのような生き方と、はてなの近藤さんの生き方の違いといってもいいかもしれない。ひたすら営業し、企業としての拡大をめざし、買収を繰り返す企業と、規模の成長には興味を持たず、ひたすら目をみずからの内側に向け、新たな価値を生み出すことを目指すような企業形態の違いである。
Web2.0とひとことでくくるのではなく
それは別の言い方をすれば、Web1.0的な生き方とWeb2.0的な生き方の違いというように分類できるのかもしれない。しかしそれにしてもWeb2.0という言葉が2005年ごろから流行り出す以前から、どうして近藤さんやチームラボの猪子さん、ミクシィの笠原さんなどはそういう生き方を志向するようになっていたのか。猪子さんに至っては「Web2.0って要するにヒッピーだよね!」とこの本の取材の時に絶叫していて、「いったいどのような経験と発想からこの人はこういうことを考えるようになったのだろう」と私は深く感じ入り、この人の根源を知りたいとつくづく思ったのだった。
だから私は「Web2.0的な生き方」とひとくくりにするのではなく、彼らがどのような経験を積んできて、どんな苦労をして、どんなふうにアイデアを思いついてインターネットビジネスの世界に入ってきたのかを、ひとりひとり個別の事情に寄り添うようにして描いてみたいと思った。たとえば笠原さんの人生には、「カッサン」と呼ばれていた水泳少年時代がどう影響しているのか。ライブドア社内で「山崎天皇」と呼ばれたザキさんの人生観はどのようなものなのか。エニグモのふたりやアブラハムの高岡さんは、なぜ博報堂社員や商社マンのステータスをなげうったのか。そういうことを徹底的に実証的に書いてみたいと思ったのである。
それがこの雑誌連載、そしてこの本を書くに至った動機となった。
以下、『起業家2.0』のプロローグをこのブログに掲載してみたいと思う(小学館の小林編集長の許可は得ていないけれども……いいですよね?小林さん)。
『起業家2.0』プロローグ
優秀な若者たちの多くは、いまや起業に向かっている。
いま私は、「優秀」という言葉を使った。それは決して、学校の成績がよいとかスポーツができるとか、あるいは大人の世界に迎合するのがうまいとか、そういうことを指しているのではない。勉強がからきしダメでオール1でも、スポーツ音痴でも、それとも大人たちの間に入り込めず、大人の世界から排斥されてしまっているような若者であっても、それでもやっぱり優秀と呼べる若者たちがいまやものすごい勢いで増えているのだ。
それは古い時代にいたような学業優秀、品行方正な「優秀」ではなく、もっと広い意味で一芸に秀で、何らかのかたちで自分の才能を世間に問うことのできる若者たちのことだ。
彼らが社会に出現できるようになった背景には、この十年の時代の流れがある。
まず第一に、九〇年代末の金融危機と非正規雇用の激増によって、終身雇用制崩壊の号砲が鳴らされた。これによってすぐに大企業への就職が少なくなったというわけではないが、心理的影響は大きかった。若者たちは「もう大企業に就職したからといって、一生安泰という時代ではなくなったのだ」と思い知り、その結果、優秀な人材がベンチャー業界に流れ込むようになったのだ。
第二に、二〇〇一年ごろからブロードバンドが普及するようになり、インターネットを日用品のように使いこなす消費者が激増し、先進的なサービスを受け入れてもらう土壌もできあがった。
第三に、ベンチャーキャピタルやファンドの数が以前とは比較にならないほど増え、資金調達も簡単になった。九〇年代末に孫らが設立した新興株式市場がようやく成熟し始め、有能なベンチャーキャピタリストも育って、ごくまっとうな投資がベンチャーに対して行われるようになった。資金が若いベンチャーに流れ込むようになったのだ。カネがあるところには、人生の目標も持てる。意義は大きい。
そうして機は熟したのである。
彼らは古い世界の常識から見れば、とんでもない跳ねっ返りだったり、あるいは落ちこぼれだったり、引きこもりだったりする。しかし彼らはさまざまな能力を持ち、自分の才能で社会に打って出ようとしている。
この新しい世代の若者たちは、一九九〇年代なかばに起業した最初の世代のインターネットベンチャー起業家たち――楽天の三木谷浩史やライブドアの堀江貴文、サイバーエージェントの藤田晋といった「ヒルズ族」の人たちともかなり異なったキャラクターを持っている。堀江や三木谷が歯をむき出して他者に襲いかかる肉食獣だとすれば、第三世代ははおだやかな草食獣のような雰囲気を持っている人が多いのである。
彼らの仕事観、ビジネス観はかなり明確で、基本的には第二世代のようにガンガン営業をして、企業規模を拡大していこうというような野心はあまりない。どちらかといえば、自分や仲間が楽しんで仕事ができればいい――そんなふうに考える起業家が増えているのだ。
そのように軽やかにベンチャーを経営する若者たちがいまやたいへんな勢いで増え、新たなベンチャー文化を生み出しつつある。それがいまのインターネット業界の実像なのだ。裾野の広がりかたや社会への浸透度を考えればまだシリコンバレーにはほど遠いけれども、しかし着実に日本にもベンチャースピリットは若者の間に根付きつつある。
この本は、そうしたベンチャースピリットを持った新しい若者たち九組の生きざまを描いた。これらの物語を通して、彼らの思いが読者の皆さんのところに届くことができればと思う。
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