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出版社は、どのようにしてインターネットビジネスに取り組もうと考えているのだろうか。
その格好の題材が、つい先日リリースされた。電通と、同社の元CMプランナーが設立したベンチャー企業「タグボート」がスタートさせた雑誌の立ち読みサイト「magabon(マガボン)」である。マガボンには講談社や光文社など、大手出版社を中心に30社以上が参加しており、男性誌から女性誌、趣味の雑誌まで幅広い分野の雑誌の最新号を発行日前日から閲覧できるというものだ。
実際に使ってみると、サイトには雑誌表紙のサムネールが表示され、「ちょい読み」をクリックすれば、Adobe Flashによるビューアーが立ち上がる。このビューアーは画面のサイズが変更できず、画像のダウンロードにもかなり時間がかかるなど使い勝手はあまり良くないが、しかしまあ気軽に雑誌の目次からトップ記事あたりのイメージが閲覧できるのは事実だ。
しかしこのマガボンというサービスを使っていると、別の新たな感想も生まれてくる。つまり――出版社はインターネットをしょせん「販促」にしか考えていないのだな、ということだ。このマガボンを見て、それでちょっと買う気になったら、ぜひ紙の雑誌を書店で手にとってください、という考え方だ。いや、実際には各雑誌のページに「FUJISANで購入する」というリンクも用意されているから決してリアルにのみ誘導しているわけではないのだが、しかし販促という意味ではリアル書店への誘導も、FUJISANへの誘導もあまり変わりはない。
要するになにが言いたいかといえば、結局のところ出版社は雑誌の記事のマイクロコンテンツ化はまったく考えていないのだろうということである。いまやネットではブログに代表されるようにさまざまなコンテンツはXMLによって構造化され、マイクロコンテンツとなっている。各コンテンツにはURIがあり、そのコンテンツのひとつひとつに対してRSSフィード化したり、ソーシャルブックマークやトラックバックなどが可能になっている。Web2.0的世界の中でそのコンテンツの影響を波紋のように広げ、マスメディア化していこうとすれば、マイクロコンテンツ化していくしかない。
だがマガボンでは、雑誌ごとのURIはあるが、ページごと、あるいは記事ごとのURIはまったく用意されていない。つまりはマイクロコンテンツ化されていないわけで、たとえば誰かがこのマガボン上でちょい読みして面白い記事を見つけたとしても、その感想をはてなでブックマークすることはできないというわけだ。
産経新聞の試みも根っこは同じ
このような「誌面イメージをそのまま画像化する」というのは、どうもオールドメディアの人には非常に訴求力のある事業らしい。たとえば産経新聞も、東京朝刊最終版をほぼそのまま画像化し、パソコンの画面で見られるようにした産経NetViewというサービスを、2005年10月からスタートさせている。3D技術をヤッパが請け負っていることなどから発表当時はかなり話題になったし、ビューアーの使い勝手も決して悪くはなかった。
この時、産経新聞は「紙の産経新聞を購読すれば、月額2950円。それとほぼ同じ紙面を月額315円で提供するのだから、その安さに釣られて相当な数の読者が紙からネットに流れ込んでくるのではないか」と、ひょっとしたら紙の売上げが奪われるのではないかという不安なかばでサービスをスタートさせたらしい。ところがふたを開けてみれば、実際には惨敗らしい。産経新聞社員によれば「会員数は最低でも数万人は期待していたのですが、実際には数千人程度しか来なかった」という。
冷静に考えれば、産経NetViewの失敗理由は明らかだ。新聞という紙のメディアが好きな中高年は、わざわざ紙のメディアをパソコン画面で見たいとは思わないし、30代前半以下のネットの世代にとっては、新聞の記事なんていうのは新聞社のサイトでマイクロコンテンツ化されたものを読めばいいわけであって、わざわざ紙のイメージのものを読むメリットはまったく感じていない。つまりはNetViewは明らかにマーケティングに失敗しているというか、いったいどのような読者を想定したのかさっぱりわからないサービスだったのだ。
おじさんはポータルがお好き
出版社や新聞社のの幹部クラスがそうだが、今の日本の中高年というのは「ポータル」が大好きである。ここで言うポータルというのはYahoo!や楽天のことではなく、要するに世の中を何かひとつの玄関口(ポータル)を通して見ていくという、そういう世界認識の方法が好きなのだ。「朝日新聞を読めば、今日起きたことがすべてわかる」「月刊文藝春秋を読めば、いまの日本の論壇で主流になっている論調が読める」というようなパッケージされたポータル的メディアが好きで、そういう包括的メディアを読んでいれば安心できるというような考え方を持っている。
私は新聞社や出版社、テレビ局などの40代、50代の社員を数多く知っているが、私のところにこんな風なことを聞いてくる人が少なくない。「佐々木君、これを読めばブログの世界のことがすべてわかるというブログはないのだろうか?」
ブログの世界はすべてがマイクロコンテンツとなっていて、何もかもが断片化されている。その断片の中から、われわれははてなブックマークやRSSリーダー、検索エンジンなどを使って情報を拾い集め、それらを再構成して世界認識を深めている。しかし日本のレガシー世界に生きる中高年にはそうしたやり方がよく理解できない人が多く、文藝春秋や朝日新聞のような包括的ブログがどこかにないものかと、探し求めてしまうのである。
まあもちろん、そういう考え方と同時に、今の中高年には1970年ごろに日本を脳天気に覆っていた――大阪万博のような――明るい未来が忘れられず、「未来の雑誌」「未来の書籍」というと、どうしてもすぐに電子ペーパーのような紙がそのまま進化したガジェットを思い浮かべてしまうというような、ある種の刷り込みもあるのかもしれないが。
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