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    伝統工芸と技術経営

    2005-12-22 15:46:31

     今回は日本各地にある伝統工芸についてです。「伝」の文字と赤丸を組合せた伝統工芸のマークを皆さんも学生時代の授業で見たことがあるのではないでしょうか。
     伝統工芸品というと旅行に行ったときに、現地のお土産屋で見るぐらいかと思いますが、これらは長年伝承された高レベルな技術の塊です。
     その中で今回は、伝統工芸を大きなビジネスにした例として、広島県の熊野筆を作っている企業の紹介をします。

    広島県熊野町

     本題に入る前に、筆の町熊野町の紹介をします。
     熊野筆を作っている広島県熊野町は人口が約26,000人、その内1,500人が筆司という筆作りの技術者という町で、伝統工芸士と呼ばれる経済産業大臣が認めた筆作りの名人が15人います。しかし、この町には筆の原料となるものはありません。ではなぜ筆作りが発展したのでしょうか。江戸時代末期この土地では農閑期にならから筆や墨を売っていました。その後、広島藩の工芸推奨により筆の販売が広がったこともあり、筆作り職人の養成などを行い、販売だけではなく筆作りを始めました。明治時代に入り学校制度ができると、教育で筆が使われることになり、生産量が大きく増えました。戦後は毛筆の生産量が減りましたが画筆や化粧筆の生産を始め、現在では全国で使われている書道用毛筆の80%、画筆の85%、化粧筆の90%を熊野筆が占めています。

    白鳳堂の化粧筆

     熊野町内には約80社の筆工房があり、その中のひとつが今回紹介する「白鳳堂」です。
     「白鳳堂」は1974年に創業した化粧筆専門の工房で、創業者である高本和男氏が社長を務めています。高本氏の筆に対する思い入れは非常に強く、「いい道具を使えば女性はもっときれいになれる」という信念を持った、職人気質の方のようです。同社は1980年代半ばには米国の大手化粧品メーカーのOEM(相手先ブランドによる生産)の販路を作り、1990年代には中国に工場を立ち上げました。

     その後同社は、創業者の息子を迎えさらなる発展を遂げました。しかしその道のりは楽なものではなかったようです。ある記事によると、現専務取締役の高本壮氏は「家業を普通の企業へ変える」ことを目的に、職人のいる現場や経理面の大改革を実行しました。さらに自社ブランドへの立ち上げ等により高付加価値ビジネスへのシフトを果し、2004年7月期には9億6000万円の売上高、1億円以上の経常利益を見込めるほどまで成長したのです。

    白鳳堂にみる技術経営

     白鳳堂の技術経営の成功について、以前本ブログで説明しました技術経営の分類に沿って分析をしてみたいと思います。技術経営は大きく下記の3つに分類できます。

    1、オペレーションマネジメント
    2、テクノロジー(プロダクト)マネジメント
    3、インフォメーションマネジメント

     今回の白鳳堂の技術経営の成功ポイントは「家業を普通の企業へ」という経営目的のもと、「オペレーションマネジメント」「テクノロジー(プロダクト)マネジメント」に関する改革を行ったことがポイントと考えられます。

     オペレーションマネジメントに関して、以下が成功要因と考えられます。

    1、仕掛品とトータルコスト
     同社は以前技術に関連するコスト管理が徹底されていなかったようで、社内には質の良い材料が仕掛品として置かれていました。会計に詳しい方はこの「仕掛品」という言葉を聞いてお分かりになるかと思いますが、会計上、製造原価に含まれます。
     筆のような製品の場合、良い物を作るために良い材料を使うことは重要です。しかし、将来売れる見込みが不明確にも関わらず原料を購入しすぎると、財務諸表に影響が出てきます。このことは単に会計上の問題というだけではなく、良いものを求める職人と経済性を求める経営者とのギャップを表わしています。しかし、同社はこの問題を整理整頓による仕掛品の圧縮により会計上のトータルコスト削減等により乗り越えたのです。

    2、生産方法の効率化
     同社は生産方法に関する改善も行いました。少量生産の高級品の製造ではセル生産方式という、1人〜数人の作業員が部品の取り付けから組み立て、加工、検査までの全工程(1人が多工程)を担当する方式を導入し、量産品ではライン生産方式を導入しました。このことにより不良品率が大幅に改善をされ、生産の効率化が図られたのです。

     企業を高収益に変化させるには、「オペレーションマネジメント」による経営資源の効率利用だけでは限界があります。同社は製品の高付加価値化を推進することを目的としてテクノロジー(プロダクト)マネジメントにより、高収益を実現させました。その成功要因として、自社ブランドの立ち上げがあげられます。

     同社は以前に値段の安い製品を多く生産・販売をする体制を持っていました。しかし、生産する筆のブランドに目をつけ、安価な製品の大量販売から高付加価値品の販売へとシフトしました。それにより、安い人件費を得るという目的で作った中国工場を閉鎖しました。値段が安いということは悪いことではないのですが、ブランド価値という観点から見ると、必ずしも良いとはいえません。IT業界でも似たようなことがありますが、あまり安い製品はユーザーからみて信頼性は低いと思われがちです。自社ブランド品の売上が売上高の30%を占めることにより、高利益率体質になり、2004年7月期には9億6000万円の売上高と1億円以上の利益を得れるまでになったのです。

     白鳳堂の事例は、職人を中心とした伝統工芸の技術力と大手企業でのマネジメントノウハウが融合することにより、技術と経営の橋渡しができたと考えられます。白鳳堂に限らず技術(職人)志向が強く、事業としてサイクルが回っていない伝統工芸ビジネスは多いのではないでしょうか。技術経営は大企業ためのみのものではありません。伝統工芸品を作っている中小企業にとって、技術経営は今後も重要な成功要因になると考えます。昨今日本の伝統工芸で跡取り問題が深刻になってきているようです。日本独自の技術を残すために、ビジネスとして継続させるための支援を活性化させる必要があるのではないでしょうか。

    ※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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