2008年の1月。ドコモの中村社長にとって、AppleのiPhoneは咽から手が出るほど欲しいお宝った。なにしろ日本では携帯電話の契約数が総人口に追いつき、市場に飽和感が漂う中でシェアを落としていたからだ。起死回生にと放ったDoCoMo 2.0の反撃キャンペーンも不発に終わった今、この流れを変える何かが欲しい。
正直なところiPhoneがどれほどのものかは解らなかった。所詮はテクノロジーフリークのための高価なおもちゃのような気もする。日本では必須のワンセグも付いてなければ、お財布機能もない。その上、肝心のメールはいかにも打ちにくそうではないか。ネット接続にしても、我々とて強化中のポイントだ。抜かりはない。ただし、iPodであのSONYを追い落としたAppleのブランド力には強く魅かれる。そしてそれを敵側に握らせるわけにはいかない。
敵とは言うまでもなくソフトバンクだ。通信規格が異なるauは今回の争奪戦に加わることができていない。しかもソフトバンクはホワイトプランを始めとする価格破壊路線が受けに受け、ずいぶんと勢いづいてきた目障りな存在でもある。もちろん数の上ではまだまだ勝負にならない。契約数でその差三千万件余り。仮にソフトバンクが毎月10万人ずつユーザを増やし、ドコモが10万人ずつ減らし続けたとしても、並ぶのは150ヶ月も先のことだ。いくら何でもそれほど成長が続くとは考えにくい。とは言え、新鋭のソフトバンクにAppleの先進的なイメージが加われば勢いが増さないとも限らないのだから、ここはiPhoneの販売権を何としても獲得しなければ。逆にAppleを味方に付けられれば絶好の迎撃策となろう。
目下の懸案はAppleが各国の提携キャリアに求めているレベニューシェア、いわゆる上納金だった。だがiPhoneには販売奨励金が要らないのだから何とかなる。怖いのはAppleを真似て通信料の分け前を要求する強気なメーカーが出ることだが、そうはならないだろう。ならばもう躊躇う理由はない。中村はAppleとの交渉にあたって一つの決意を固める。上納金に関して高飛車なドコモは折れないと世間では思われているかもしれないが、決してそんなことはない。ソフトバンクにはとことん張り合ってみせ、最後に笑うのは自分たちなのだと。勝算は大いにある。
同じ頃、iPhoneを熱望していたのはソフトバンクの孫社長も同じだった。なにしろ一年前のサンフランシスコにも、わざわざ駆けつけたくらいなのだ。願わくばあの場で独占販売契約を取り付けたかったくらいだ。それにスティーブ・ジョブズとは旧知の間柄でもある。ただし、スティーブはこの件で私情を優先させたりはしないだろうから、あてにはできない。ソフトバンクモバイルのいっそうの飛躍のためには何としてもiPhoneの販売権を勝ち得なければ。
とは言え、ドコモ相手ではどう考えても分が悪い。Appleは各国で最大手のキャリアと組むことを信条としているようだからだ。まあ無理もない。iPhoneの卸値を5万円と仮定する。例の上納金としてドコモが月額1,000円、ソフトバンクが2,000円を提示したとしよう。12ヶ月なら62,000円に対して74,000円と一人当たりの額ではこちらが上回る。だが、2倍以上のユーザ数を誇るドコモが1.2倍のiPhoneを売ろうものなら上納する総額であっさり並ばれてしまうのだ。しかも昨今の事情からしてドコモが条件面で張り合ってこないとも限らない。いや、それどころか、なりふり構わず獲りに来る可能性は高い。そして条件が並べば母数の多さが絶対的にモノを言うのだ。
ドコモがその気ならチキンゲームを挑んでも勝てる見込みはまったくない。そう考えた孫正義は策を練る。そして一つの答えを導き出した。密かに有志を集めて至上命令を言い渡す。「独創的なiPhoneアプリや斬新な新サービスの開発、あるいはソフトバンク、ソフトバンクショップ、Yahoo!、プロ野球球団、アリババ・グループ、Vodafone。どれでもいいからAppleと我々との提携プランを思いつく限り挙げなさい」と。幸いにも今のソフトバンクは意欲的で有能なプランナーやエンジニアを数多く抱えている。中にはドコモのiモード黎明期を支えるも、成長しきった業態に見切りをつけ、再び挑戦的な活躍の場を求めて移ってきた者も少なくない。そして彼らは短い時間で実に多くの魅力的な案を報告してくれた。ちなみにその内の一つが先行して実を結ぶことになるディズニー携帯だった。もちろんスティーブ・ジョブズがディズニーの個人筆頭株主であることを受けての提携事業である。
Appleも当初はソフトバンクをドコモから上納金の譲歩を引き出すための当て馬と考えていた。そのことを重々承知していた孫は、ある日プライベートジェットを飛ばしてジョブズとのトップ会談を持ち、そこで一説を打つ。「あなた方にとって円建ての売り上げこそが重要だろうか?そうならばドコモさんと組まれる方が得策だろう。彼らの方が多くのiPhoneを売ってくれるはずだ。だが我々は彼らにはできない数多くの提携プランと最高水準のアプリ開発案を用意した。そして、ご存知の通り日本は3Gで他国に先行している。日本では多くのiPhoneを売るよりも、日本発の秀逸なコンテンツやサービスをワールドワイドに展開する方がベネフィットが大きいとは思わないか?」
その後はドコモもソフトバンクも神に祈るような日々を送る。そして5月の某日、朗報がもたらされたのは孫社長の方だった。「我々はあなた方と組むことに決めた。ついてはWWDCの前の週になったら事実のみ発表しても構わない」と。
以後、Appleとソフトバンクからいくつもの共同プロジェクトならびにプロダクトが発表されてゆくことになるのだった。
// 以上、もちろん全てフィクションです。取材による裏付けなどは一切ありません。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
メンバー限定サービスをご利用いただく場合、このページの上部からログイン、またはCNET_ID登録(無料)をしてください。