エルゴソフト社の決断は、日本のMacユーザーに少なからずショックを与えるものでした。とは言え、当事者だった方のコメントを読むと、厳しい状況下での必然的な選択だったということが解ります。
ワープロが《買いそろえるべきソフト》の筆頭だった頃とは随分事情が変わってきましたし、そもそも日本語のワープロが日本以外の市場で売れようはずもなく、その上、小さなパイをMicrosoftやAppleと奪い合うとなると...。仮に今年は良くても来年、再来年はどうだろうと考えれば、この結論に至ったのは無理もないところです。
「日本のMac市場がもっと盛り上がっていたなら...」とも思いますが、それは叶わぬ願いでした。シェア論争における「PCとは違うのだから数は問題じゃない。MacはMacらしくあればいいんだ」という意見には、うなずける部分もあるのですが、こうして何かを失ってみると、やはり市場シェア(というより販売数か)も重要だと痛感します。
もちろんWindowsからユーザをごっそり分捕るのは非現実的だとしても、シェア5%よりも10%の方がビジネスとして活気づくことは間違いないのですから、アップルジャパンには、もう少し日本市場への取り組みに対するテコ入れを期待します。
そして、気になるのはMac系のソフトウエア市場の行方。この件が一つの象徴的な出来事となって、ただでさえ少ないMac系開発者がやりづらくなったり、Mac系の開発者を目指す志のある学生さん達が意気消沈するようなことがなければいいのですが。
確かにMac向けソフトウェアの現状が厳しいのは事実でしょう。老舗で名前が通っていて技術力もあったエルゴソフトが、こうして撤退するわけですから。でも、エルゴソフトは一時代を担ったその役目を終えたのであって、Macを媒介としたソフトウエアビジネスに未来が無いわけではないと私は信じています。それは、Windowsが絶対的で、かつWeb全盛の今日にあっても、です。
例えば、私が生業としている商用ドキュメンテーションの業界では、クリエイティブな作業が多いこと、縁戚関係にある印刷業界がMacを基準に発展してきたことなどから、Macの導入にさほど抵抗感がありません。一般的な業務にはPCを使うにしても、制作作業は断然Macだったりします。
そして、こちらの世界ではAdobe社が絶大な支持を獲得しています。でも、裏を返せば、選択肢に乏しく、常にAdobeの製品に頼らざるを得ない状況だとも言えます。実際、既存のAdobe製品では達成しづらい課題に対しても、替わる手段がないために、不効率さやクオリティの不足分をマンパワーと長時間労働で補っている現状があったりするわけです。つまり、「こんなツールがあれば...」「このツールがもっとこうだったら...」といった潜在的なニーズは、たっぷり埋もれていると感じています。
ならば、汎用ワープロソフトの様な、不特定多数にアピールして何千分の一といった確率で新規ユーザを獲得するようなビジネス形態は難しくとも、ある限られた業界、業種に的を絞って、「この用途に使うなら、既存のメジャー製品よりも便利」という性格付けの製品で小さなカテゴリの必須ツールの座を目指すのは有効だろうと思います。Macであっても、いやMacだからこそ、という狙い目もあるのですから。広告費も圧倒的に少なくて済みますし。
少なくとも日本では、「Macは、その話題性ほどは売れていない」とも言える状況なのですし、上述の「テコ入れ策」とも繋がりますが、アップルジャパンは、ファッショナブルに自社製品を売る一方で、政治家が支持者を訪ねて回るドブ板選挙のように、Macが伝統的に強かった分野の現況を今一度検証してみて、埋もれていた声を拾い上げ、半ば身内である開発者共々、Mac関連のビジネス市場をもり立てる方策を実施すべき時なのだろうと思います。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
Grunherz on 2008/01/31
Grunherzさん、コメントありがとうございます。
>記事のタイトルですが「個性派パッケージソフトの危機」とでもした方が内容に則しているのではないでしょうか?
勉強になります。感謝します。
>マイクロソフト、アドビ以外のパッケージソフトが壊滅しそうなのはMacの世界の話だけではないですよね。業界全体の将来が思い遣られます。
確かにそうなんですよね。マイクロソフト、アドビによるグローバライゼーション(?)は、共通語、統一通貨的な利便性をもたらした反面、地方都市の過疎化のような負の効果を伴っている気がします。
でも、嘆いてても始まらないので、渦に飲み込まれずに生き延びるためには、何とか独自の地域色を打ち出せるよう頑張るしかないのでしょう。もちろん口で言うように簡単なことではないですが...。
PowerYOGA on 2008/01/31
記事のタイトルですが「個性派パッケージソフトの危機」とでもした方が内容に則しているのではないでしょうか?
マイクロソフト、アドビ以外のパッケージソフトが壊滅しそうなのはMacの世界の話だけではないですよね。業界全体の将来が思い遣られます。
Grunherz on 2008/01/31
hagoさん、コメントありがとうございます。
なるほど、私がAppleのフットワークの鈍さに注文を付けていると受け取られたのでしょうか。言葉足らずだったら恐縮ですが、このエントリの真意は「開発者がまともに食って行かれずに、まずい方向に向かうのは回避したいよね」「打開策を考えようじゃないか」です。サードパーティの製品を含めて、Mac市場が形成されているのですから。協力会社が疲弊すればMacそのものの魅力もそがれ兼ねません。
>まっ、やろうと思えば出来るけど、儲かりそうもないから止めるという感じではないでしょうか?
その点は同意しますが、これって日本の産業界を象徴しているような気がします。新しい挑戦を避けて、従来通りの枯れた横並びのビジネスで頑張ろうとするも、競争も激しくて頭打ち。そうこうしている内に、リスクあるチャレンジを厭わなかった(疎外しなかった)諸外国では元気な新興企業も生まれているのだけど、この国ではいつまでたっても老舗企業頼みという...。
国内Macソフトウエア業が育っていないのは、Apple(アップル)の力の入れようの表れとも言えますが、実際のところ、注力の価値を認めさせるだけのプレイヤーが登場しづらい土壌、風土にこそ問題があるのだと感じています。そして、これはなにもMacに閉じた話ではないのでは、とも。
日本では「商売するならWindowsだ」「これからはWebだ」といった機運が出てくると、みんながそっちに走っちゃいますし。
PowerYOGA on 2008/01/31
んー総合して自分なりに解釈すると、まっ、やろうと思えば出来るけど、儲かりそうもないから止めるという感じではないでしょうか?
得てして、Macに愛情に近い感覚で接している方は、裏切られた時、(自分がイメージしているMacではなくなった時)反作用が大きい、極端にぶれてアンチMacになった方をよくみます。かくゆう自分もその瞬間がありました。過大な期待は持たれない方がよい気がします。
hago on 2008/01/31
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さっそくのお返事頂きありがとうございます。
「Mac専用国産ワープロ」というニッチな製品が終焉したのですが、ニッチだけに(親会社も大きかったし、Macユーザーには「こだわりさん」が多いし)大丈夫だと思っていたのにショックです。「こだわりさん」でも、IM付きワープロが2万円というのは高く感じるという現実。Windowsの世界ではもっと大変でしょう。そういう意味でもジャストシステムにはお布施を続けているのですが、正直言って心配です。
これが「終わりの始まり」でなければ良いのですが...。
MS Office以外は、低価格と軽さを謳った互換ソフト、Googleの「Docs & SpreadSheets」等しかなくなり、道具の選択肢は無くなってしまうのか。かつてAppleが主唱し終焉させた「OpenDoc」のコンセプトが懐かしく思い出される昨今です。