Bill GatesがMSから完全に引退したという事で、CNETのパネルやブログ等にもこの話題が取り上げられている。ざっと目を通したが、GatesやMSに対する印象は結構世代によって異なるものである事を実感した。
筆者がMSと付き合っていたのは1980年代初頭から中頃のことで、当時のMSの従業員数は千人に満たない規模であったと記憶している。DOSの某アプリケーション・プログラムでは発表直前になってもバグが収束せず、Fix版のオリジナル・ディスケットをシアトル空港の成田直行便に持ち込んでもらい、その便を成田で待ち構えて、緊急通関をお願いしたような記憶もあり、当時は普通のソフト・ハウスという印象であった。ほとんどがSeattleとの付き合いで、国内でのことはあまり詳しくないが、日本支社も、確か、MS Far East Divisionとか言っていたはずで、正確な記憶ではないが、(株)ASCIIと同居しており、人も同じで、時と場合によって名刺を使い分けていたような印象が残っている。
Gatesに対しては、多くの人々が様々な論評を行っているが、筆者の印象は技術面、ビジネス面ともに「あまり高く評価しない」といった感じである。
技術面での印象は、GatesはInnovativeではなかったという印象で、逆に上手であったのはInnovativeな先人の成果を「取り込む事」であったと思っている。
ビジネス面では、この純技術面での底の浅さが幸いし、技術の袋小路に陥ることなく、マーケティング視点での表面的技術をビジネスに結び付ける事が出来、かつ、法的/ポリティカルにかなり“したたか”であったことである。ただこの、したたかさによるビジネスでの成功は、必ずしも一般消費者を対象としたビジネスとしては、良い印象は残さなかったわけで、この辺りが功罪半ばする部分であろうかと思う。
本稿では、思い出すまま、筆者の印象を大雑把に述べてみる。
先刻、筆者は「GatesはInnovativeではない」と述べたが、その理由は以下のMS製品とその元になった他社製品の対照表から明らかであろう。
Altair/MS BASIC Dartmouth BASIC
MS-DOS 86-DOS by Seattle Computer Products
(MSが買収)
Windows PARC Alto, Apple Mac OS
Windows NT/2000/XP OS/2
Excel/Multiplan Visicalc, Lotus123
MS-Word Wordperfect,Wordstar,
(元祖:Wang, Displaywriter)
Internet Explorer Netscape
PowerPoint Presenter for Mac
by Forethought Inc.(MSが買収)
Access Oracle DB/2、OS2 DB/2 (元祖:IBM DB/2)
要するにGatesは“マネシタさん”が大変上手であったということである。
これはMSのルーツであるMS-DOSの由来を見れば明らかであろう。MS-DOSはGates等が独自技術で開発したものではなく、Seattle Computer Products社(SCP)が開発した86-DOSを買収したものであったからである。
そしてWindowsも、そもそもはXerox社のPARC Altoに始まるGUI(Graphic User Interface)で、Windows1.0の直近ではApple社のLisaやMacintoshのGUIであったわけで、そのGUIをマネシタだけで、何のInnovationも無いものであったのである。
アプリケーションに関しても表計算の元祖はVisicalcで、その後はLotus123で様々な機能が開発されたわけであり、文書のWYSIWYGも古くはAltoや、Wang、Displaywriterといった専用機に由来するもので、PC上のテキスト表示ベースではあったがWordperfectやWordstar、Displaywriteなどで様々な機能が開発されたものである。
その他、PowerPointもパワポ(Presenter)を最初に開発したForethought社を買収したものであり、Accessも、そもそもはE.Coddが考案したMainframe用のRDBをワークステーション用に直したIBMやOracleのDB/2を“マネシタ”ものと考えてよい。
一方、逆の面白い例は、ADOBE社のDTP関連アプリケーションで、残念ながら“マネスル”天才Bill Gatesをしても“マネ”できなかったわけで、ADOBEレベルに専門化した技術に対しては対応できないという事を示しており、同じような例が検索のGOOGLEやYahooで起きているのである。
筆者がGatesの技術力を皮相だと感じたのはWindowsの開発過程からの印象が強く、Windowsの紆余曲折を見れば明らかであろう。
Windows開発開始当時、DOSの次のOSに対する考え方には2つの流れがあり、一つは、AppleのMacに対抗するためDOSのプレゼンテーション・サービスをGUI(Windows)にするだけでよいという考え方であり、もう一方は、PCでの増大するデータ処理、通信処理、などの要求を考慮し、本格的な”Multi-Task OS”へ移行すべきとの考え方であった。
GatesはGUIだけを優先したWindowsを主張し、MSはその方向に進んだのであるが、結局、OS/2をベースにした本格的Multi-TaskのNTを、旧DECのエンジニアをリクルーティングして、開発せざるを得なくなり(1993年出荷)、さらにはそのNTで旧Windowsを総入れ替えせざるを得なくなってしまったのである(Windows2000、XP)。
このあたりの選択は、明らかに、技術力不足と目に見える表面的なインターフェースだけの重視で、真に必要とされていた本格的仕組みの重要さをどの程度理解していたのか疑問なのである。
たとえばDOSでのバックグラウンド・プリントは、おぼろげな記憶ではあるが、プリントのプログラムにタイマーを入れ、プリントのプログラムがフォアグラウン・プログラムにタイムスパンを与えるといった珍奇な方式でのバックグラウンド・プリントであったと記憶しているが、この程度のパッチワークを、バックグラウンド・プリントと呼んでいたのである。
こうしたIO処理関係の問題は、プリンタだけでなく、ファイル、KBD、通信、等々いたるところで発生するわけで、そうした根本問題をいい加減にして、GUIしか眼中に無いような選択は、筆者はまともには評価できないということである。
こうしたことから、筆者は、Bill Gatesがテクノロジー全般に対し、長期的視野に立ったVisionをもっていたというようには思えないし、技術的には、その場その場の行き当たりばったりの対応をしていたようにしか思えないのである。
Windows1.01が発表されたのは1985年のことで、記憶が定かでなくなっているが、Steve Ballmerが来日して大々的に発表会がなされ、ロビーのようなところでBallmerと雑談した記憶がある。しかし、会場も雑談の内容も全く思い出せない。というのは当時、筆者は既に「Windowsはここ4-5年は使い物にならない」との判断を下しており、ほとんど興味が無かったからなのである。
Windowsをアダプテーションしてみると、当時の高速CPU80286を使っても、その遅さは目を覆うばかりで、とても日本では使い物にならないと判断したからである。とりわけ漢字表示のため米国に比べ解像度の高くなっている日本のディスプレイでは、画素数が多い事に加え、フォント処理やかな漢字変換のオーバーヘッドが加わり、しかも、バグが多く不安定で、とても実用に耐え得るものとは思えなかったからである。
結局、Windowsが使われるようになったのは、米国では92年の3.1くらいからで、一般的にはインターネットと重なって、1995年のWindows 95くらいからではなかったかと思う。CPUも最低でも486ないしはPentium程度は必要ではなかったと記憶している。
そして、近い将来NT系で入れ替えねばならない事がわかっていながら、Windows98、MEとDOS系のWindowsを発売し、そしてそれらのハシゴを外すような形でNT系のWindows2000をぶつけてくる商売は、ある意味、一般消費者をバカにした商行為といわざるを得ないものであったと思う。不必要なバージョンアップや移行にかかった労力や諸経費は、結局、一般消費者が負担したのであり、とてもGatesを評価する気にはなれないからである。
こうした経緯は、明らかにWindowsの出発点がおかしかったという事であり、そもそもがパフォーマンス的にテクノロジ・ミスマッチであったわけで、加えて、アプリケーション・プログラムもGUIで無ければならないようなものは無かったわけで、ユーザの要求というより、Bill Gatesが一人相撲を取っていた印象が強く、最初の7-8年(1.0発表前の開発期間を含む)は空騒ぎをしていただけといえるのである。
普通の会社であれば、5年も持たず倒産である。Gatesが持ちこたえられたのはMS-DOSの印税であり、PCメーカの販売力にのって営業費も、開発費も不要で、PCが1台売れるたびに自動的に入ってくる数ドルの印税であった。
従って、純ビジネス判断としては、DOSの収入で持ちこたえていたかも知れないが、あの時期に、あのテクノロジ環境で、Windows開発を始めた事が正しかったのかどうかは、はなはだ疑問であり(というより直裁に言えばwindows1.0から3.0まではテクノロジ・ミスマッチで無駄であったと判断している)、筆者はGatesのビジネス判断を疑わざるを得ないのである。
しかし、敢えてBill Gatesのために弁解するなら、多分、Gatesを支えていたのは、ビジネス判断というより、自分の言い出した事に対する執念のようなものとしか思えず、もしGatesを評価するとするなら、その「執念」を堅持したことに対してであり、「意地っ張り」の度合いに対しての評価であろう。
その執念とは、個々の技術云々ということではなく、彼自身が一人のPCユーザーとして、WindowsというGUIに、個々のアプリケーションを組み込んで使うという事は、統一感のある使いやすい事であり、それはユーザー一般にとっても同じであろう、というVisionであったような気がするのである。
かくして、筆者の観察によれば、Gatesは技術的にも、ビジネス的にもそれ程傑出した人物とは思えないが、法律やポリティカル・ゲームに強く、「意地っ張り」の「PC大好き人間」で、たまたまIBM-PC用に86-DOSを買い揃えた幸運から、DOSの印税に支えられて、「執念」を実現した、強運な人物、といったイメージになるのである。
まあ、人それぞれ、様々な印象、イメージをお持ちであろうと思うが、とりあえず、筆者は、この程度のイメージを持っているということを事をお伝えしたい。
【追加】
蛇足ではあるが、Dartmouth CollegeのBASICはMainframeのTimesharing技術のさきがけとしてなされたもので、歴史的意味は、このTimesharing技術に存するわけで、 単純なBASIC言語だけの意味ではない。
元のCharacter BaseのBASICのInterpreter自体はそれ程難しいものではなく、Syntaxを理解していればAssemblerででも容易に作成可能なレベルのものである。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
hokky (cafe noir) on 2008/07/08
To コメント#3
・ “アドビのアプリはフラッシュ?なんだろうか・・・”
筆者が頭に描いていたAdobe社のアプリケーションとは、Photoshop、Illustrator、In-Design、Acrobat(PDF Maker) 等々のDTP関連アプリケーションのことです。このPrint for Money の高品質分野は、世界中のインフラがAdobeで出来ているようですので、他のメーカーの参入は極めて難しいような気がしています。
確かに、GoogleやYahooと並べてしまうと、AdobeのInternet関連製品へ連想が向いてしまって、誤解を招きやすいものと思いますので、“Adobe社のDTP関連アプリケーション”と“DTP関連”を付け加える事にし、本文に追加させていただきます。
能澤 徹 on 2008/07/07
楽しく拝見させて頂きました。
>一方、逆の面白い例は、ADOBE社のアプリケーションで、残念ながら“マネスル”天才Bill Gatesをしても“マネ”できなかったわけで、ADOBEレベルに専門化した技術に対しては対応できないという事を示しており、同じような例が検索のGOOGLEやYahooで起きているのである。
アドビのアプリはフラッシュ?なんだろうか・・・
技術は分からないので、専門化した技術に対しては対応できないのはそうなんだろうな、とも思うのですが、Netscape叩きには充分な時間があったように思うのですが・・・
FlashやらGoogleはインターネット上で急に広まったので、叩きたいけどあきらめた。(いや、まだ諦めてないかもしれない・・・執念だぁ)
ぎょ on 2008/07/07
To コメント#1
(A)“お金と執念と運だけですか?”
hokkyさんが,何を目的に、どの様にまとめたいのか知りませんが、本文中には以下のように書いてありますので、「お金と執念と運だけですか?」かどうかはご自分で判断ください。
"Gatesは技術的にも、ビジネス的にもそれ程傑出した人物とは思えないが、法律やポリティカル・ゲームに強く、「意地っ張り」の「PC大好き人間」で、たまたまIBM-PC用に86-DOSを買い揃えた幸運から、DOSの印税に支えられて、「執念」を実現した、強運な人物、といったイメージになるのである。"
(B)“世の中の多くの大企業がこの説明で片付いてしまいそうですね(笑)。”
そもそも筆者は、筆者が有しているGatesのイメージの話をしただけですので、“世の中の多くの大企業”の“説明”をしようとしたわけではありません。また、“何のために”“どうして”“世の中の多くの大企業”の説明をしなければならないのかも全く理解できません。
何のためか良くわかりませんが、“お金と執念と運だけ”で貴殿が説明できるのであるなら、ご自由にご説明されると良いと思います。ただし、筆者とは無関係です。
(C)“結局ビジネス的に負けたものが何を言っても負け犬の遠吼えになってしまいますよね。”
筆者は“Gatesがinnovativeであったか”どうかを、例を挙げて示しただけで、ビジネスの話をしたいわけではないですよ。
ファクトはファクトとして伝えるべきで、それ以上でも、以下でもないでしょう。それをどの様に解釈するかは、解釈する人の意識が出てくるということでしょう。
Gatesにしても、ビジネスで勝ったからといって、自分が最初に考案した、などと言うことは無いと思いますけどね。
能澤 徹 on 2008/07/07
> Gatesは技術的にも、ビジネス的にもそれ程傑出した人物とは思えないが、法律やポリティカル・ゲームに強く、「意地っ張り」の「PC大好き人間」で、たまたまIBM-PC用に86-DOSを買い揃えた幸運から、DOSの印税に支えられて、「執念」を実現した、強運な人物、といったイメージになるのである。
お金と執念と運だけですか?そういう意味では、CISCOやGoogleも似たようなもんですかね。Appleもそうですね。世の中の多くの大企業がこの説明で片付いてしまいそうですね(笑)。
良いか、悪いかは別として、今は、最初に作ったのは他の人だ〜といくら騒いだところで結局ビジネス的に負けたものが何を言っても負け犬の遠吼えになってしまいますよね。
hokky (cafe noir) on 2008/07/06
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コメントが不適切でした。
本エントリを読んだときに勝手な拡大解釈&理解不足があったみたいです。どうもすみませんでした。
もう一度エントリを読み直してみました。個人的にはGates氏もGates氏の知人も知らないのでGates氏の技術力が本当に皮相だったのかどうかはわかりませんが、筆者のGates氏に対するイメージは理解できました。