最終更新時刻:2008年7月25日(金) 21時03分

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T2K(筑波、東大、京大)とJAXAのスパコン

公開日時:
2008/02/23 19:00
著者:
能澤 徹

 昨年末から大型スパコンの調達ニュースが続いている。T2KJAXAである。

 T2K>
T2Kの共通仕様の骨子は、
1ノード16コア以上、メモリ32GB以上(4コア4ソケット)
・ノード内共有メモリ、転送40GB/s以上
・インターコネクト 5-8GB/s以上
 ということで、3大学ともOpteron4コア・4ソケットのボードである。

    Peak File 期間 リース 推定  Tflops   メーカ
   TF  TB 月  総額 買取額  単価
筑波 95   400 60  25.2億 21.4億  2246万 APPRO
東大 140 1000 69  87.4億 69.9億  4989 日立
京大 61   800 46  39.0億 33.9億  4827万 富士通     
  (
70.2

 筑波は米APPRO社のXtreamX3で、APPROの代理店の住商情報シスが主契約社で、住商情報シスの下でCray Japanが設置を行う。Xtreamシリーズは米エネルギー省のリバモア研、ロスアラモス研、サンディア研の3研究所に導入されているシリーズである。
 東大は日立のHA8000
 京大は富士通のHX600。ただし前機種からの移行措置として同系列のSPARC64VIIによる8.96Tflopsのシステムが合算されているので、実質70.2Tflopsのシステムとして計算した。

 インターコネクトは筑波と京大がInfiniband、東大がMyrinetで、ファイル(DASD)は筑波400TB、東大1,000TB、京大800TBである。

 表のリース総額は、筑波、東大、京大とも公示に基づくものであるが、リース期間が異なるため、リース加算額も異なるので、それらを調整した概ねの買取推定額を示した。
(注:東大に関しては、3月3日に公示がありましたので、報道による見込み価格から、公示による価格に変更しました。見込みで90億でしたが、公示では87.4億です。)


 興味深いのは筑波 vs 東大・京大の比較である。東大と京大は概ね
Tflops単価5,000万円前後で、筑波の2,246万円はその2分の1弱である。筑波のXtreamは住商情報シスが輸入し、CrayJapanに設置作業等を外注した結果の価格であるので、常識的には米国での価格はさらに安いことになる。
 実際、米エネ省3研究所に導入されたXtreamは、筑波が導入するものとは若干フォーム・ファクターが異なる製品であるが、報道され契約価格を、1ドル110円として計算すると、Tflops単価は主契約で660万円、後のオプション契約では870万円となり、1000万円を切っているのである。つまり筑波の2分の1程度ということである。

 従って、T2Kというオープン・スパコン仕様にそったスパコンのTflops単価は、単純化して言うと、米国が1000万で、輸入すると2000万になり、国産メーカがつくると5000万前後になるということが判明するのである。

 米国での価格トレンドはAPPRO以外でもOpteronXeonを使用したCraySunHPSGIなどのスパコンに共通したものであり、また、CPUは異なるがIBMBlue Gene/Pもこのトレンド上にある機械である。

 参考までに、ベクタ機のTflops単価は、概ね、NECSX-92億円(日本国内)、CrayX21億円(米国内)といったところである。

<内外価格差>
 Top500での日本の存在感は「地に落ちた」と嘆く諸先輩が多い。これには様々な理由が考えられるが、最も直截的で最大の理由を挙げるとするなら、それは、内外の価格差なのである。米国が1000万円のところを5000万円とか2億円とか払っていれば、同じ額の税金をかけても、日本は米国の5分の110分の1、あるいは20分の1程度の計算能力しか調達できないことは自明であろう。つまり、これが「存在感」をなくす原因なのである。

 少なくとも国際的な科学技術の競争力を維持してゆくには、競争相手と同じ程度の道具は必要である。公共調達に経済原理を働かせ、国際常識に沿ったオープンかつ公平な調達を行えば、同じ予算で、確実に現在の数倍の計算能力が手に入るのである。

 米国での単価とはいわずとも、筑波の調達単価を東大に適用するだけで200Tflopsを越え、ドイツの世界第2位のBGPと同程度のスパコンが手に入るのである。勿論インドの後塵などを拝することもなくなるのである。

 実はこのことは日本のスパコン調達のいたるところで起きることなので、Top500の中で「存在感が増す」などといった単純皮相なランク付けの問題だけではなく、計算力を欲している我が国の科学技術者に、より多くの計算能力と機会を廉価に提供することであり、我が国の科学技術の足腰を鍛えるものなのである。

 したがって、今後のT2Kの課題は、今回のT2K調達が図らずも明らかにしてくれた「内外価格差の問題」であり、(1:2:5)の価格差をどの様にして何処まで解消できるかということが最大かつ焦眉の急の問題と考えられるのである。

 ところで、筆者は、T2Kの本当の目的が何であったのかはよく知らない。端から見ていると、何故、3大学が徒党を組んであの程度の共通仕様で調達をしなければならなかったのか不思議であった。しかし、改めて考えて見ると、国内の各種組織の内に散らばった、狂信的なベクタ教のマインド・コントロール下にある信者とか、偏狭な技術ナショナリスト、あるいは、それらを楯にして闇に隠れた技術利権屋もどき、などからの暗黙の圧力を振り払うには、「赤信号、皆で渡れば怖くない」式のT2Kの仕掛けが必要であったのではないかと思うようになっている。

 東工大のTSUBAMEに始まり、地球シミュレータのリプレース報道やT2K調達などを通し、徐々にマインドコントロールが解け、普通の国際常識が浸透して行くことは、慶賀に堪えない。

JAXA、宇宙航空研究開発機構
富士通がJAXAから110億円でスパコン受注、性能は国内最高に相当
JAXA様の新スーパーコンピュータシステムを受注

 JAXAが調達するスパコンは、富士通のFX1という機械で、理論性能135.7Tflops6年リースで110億円となっている。

CPUSPARC64-VII 4コア。
・クロック2.5GHzT2K-Opteron2.3GHz
・ソケット性能40GflopsT2K36.8Gflops
・1ノード1ソケット。T2K1ノード4ソケット
・メモリは32GB/ソケット。T2K最低仕様は32GB/4ソケット。
・ボードはT2Kと同じ4ソケット。
・シャーシは5UT2K2UなのでT2K2.5倍。
・消費電力はシャーシ当り2.21KWT2KHX600730WなのでT2K3
・1ラック8シャーシ、理論性能1.28TflopsT2KMax21シャーシ、3.09Tflops
・システム全体のDASDの総量は11PB。東大のT2K11倍。

 実行性能に関しては、FX1T2Kのどちらもベンチマークデータが公表されていないので、不明。SPARC64-VIIがどの程度の性能を示すのかは興味深い。現行機のPrimepowerSPARC64V)はLinpackの実効性能が50%以下という機械。一方T2KではXtreamの米エネ省3研究所版がTop500100位以内に29位、38位、61位にランクされており、Linpackの実行効率は82%を達成している。

 パッケージ的にはどちらも1シャーシ4ソケットであるが、FX1SPARC64-VII)は5UのシャーシでT2K2U2.5倍の厚みである。消費電力もFX1T2Kの約3倍で、その結果、ラック性能はクロックが若干高いにも関わらずT2K40%程度に留まっている。

 従って、現状では、FX1は消費電力、設置面積などの点でT2Kにかなり劣っているということになる。

 価格的にはJAXAFX1135Tflops6年リースで110億円である。同程度の性能の東大のT2Kは、140Tflopsで、5年9ヶ月のリースで90億円であるが、FX1は実装メモリ量が多く、またストーレッジもかなり大きいので、実質的価格は同等程度ではないかと思える。

<次世代スパコンとの関係>
 このFX1というスパコンは文科省の次世代スパコンの実態を知る手掛かりとして興味深い機械である。というのは、次世代スパコンはベクタ方式のSX後継機とスカラ方式のSPACR64後継機の混在と考えられており、次世代スパコンへの中間ステップが観察できるからである。

 SX系は昨年10月発表のSX-9で概略は見えた。1ラック1.6Tflops512ラックで0.8Pflopsであるので、今後かなり無理して頑張って性能を8倍程度増強したとしても、512ラックで6.4Pflopsに過ぎず、10PFlopsを達成するには1,000ラック必要である。そもそも512ラックですら現在の地球シミュレータの1.6倍で、正気の沙汰とは思えない数であり、ましてや1,000ラックなどは論外である。

 一方、SPARC64系もやっと今回のFX1でその片鱗が見えたが、ラック性能は1.28TflopsSX-9より低いので、結局、SX-9と同じストーリになってしまい、10Pflopsは無理というのが現在の判定であろう。FX1の場合、ラックサイズはSX-9より小さそうなので、その分、設置面積的にはSXより少しは楽かも知れないが、所詮は五十歩百歩で、10Pflops達成は困難であろう。

 というより、SPARC64系はOpteronXeonの後継機を圧倒する性能を示すことが出来るのかということの方が重要である。やっと45nmを実現しても、Intel32nmに移行している可能性もあり、「大差ない」ないしは「劣る」というのでは、わざわざ税金をかけてまで開発せずともT2KのようにOpteronXeonの後継機を使えばよいわけで、何故、高額の税金をかけてSPARC64の後継機を開発しなければならないのかといった根本的疑問が解決されないのである。

 食料セキュリティになぞらえて、技術セキュリティの観点からスパコンのCPUの純国産化を唱える人達がいるが、それをいうのなら、スパコンのことなどより、パソコンや業務用サーバーのCPUIntelAMDで占拠されている状況をこそ大問題としなければならないはずである。パソコンや業務用サーバーのCPUが手に入るなら、T2Kのように、それでスパコンを作ればよいわけで、パソコンや業務用サーバのCPUを無視して技術セキュリティの議論を持ち出すなどは、本末転倒なのである。

 次世代スパコン・プロジェクトは本当に必要なのか?

 文科省はこの問いに対し、十分な説明責任を果たさねばならないのであるが、驚くことに、文科省は国民に説明責任を果たすことが出来ない仕組みを作ってしまっているのである。この点に関しては次回以降に検討してみたい。

 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

2

 今日3月4日、NECは「JAXAにSX-9を3台(4.8Tflops)提供する」と発表したようです。

 JAXAは旧宇宙開発事業団と旧航空宇宙技術研究所(NAL)、旧宇宙科学研究所(ISAS)が合併した組織で、スパコンも一箇所に統合することをプランしているようで、その一環の話でしょう。
 NALは「数値風洞」、Primepower、2月のFX1と富士通ですが、ISASにはNECのSX-7 かなんかが入っていたはずなので、この発表はISASの旧システムからの移行を考えたリプレースというように思えます。

NECの発表で少々気になったのは、「提供」という用語で、NECは通常は「受注」という用語を使っていたはずなので、何か、通常の契約とは異なるものなのかも知れません。

 日刊工業新聞の記事では期間6年で10億円程度と通常の契約のように記述されていました。この記事をベースに考えると、若干安めのような気がしますが、多分、DASDはFX1のモノを使うので不要であったためではないかと考えられます。

  能澤 徹 on 2008/03/04

1

本文表のUPDATE:

 本文中のT2Kー3大学の価格表の東大のリース総額は日経産業新聞の報道による「推定額」90億を使用していましたが、3月3日に公示がありましたので、当該部分の価格を公示の値にUpdateし、買取推定額とTflops単価もUpdateいたしました。

 公示では月額126,648,900円(1億2,664万8900円)とのことですので、リース期間の69ヶ月を掛けると87億3877万円となります。

 日経産業新聞の推定価格は、多分、リース期間を6年と予想して計算したのではないかと思いますが、実際は5年9ヶ月なので、その3ヶ月分の差がでたものと考えられます。

  能澤 徹 on 2008/03/03

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