最終更新時刻:2008年7月24日(木) 23時08分

18

地球シミュレータと阪大のSX-9

公開日時:
2007/12/13 11:45
著者:
能澤 徹

 前回、地球シミュレータのリプレースに関連し、ドイツのGerman Weather Service (DWD)の件や、阪大サイバー・メディア・センター(CMC)のスパコン調達の件に触れた。筆者は地球シミュレータのリプレースと阪大CMCの件は関係があると思っているからである。
 阪大CMCの件では、詳細情報を求めたが、現在までのところコメントはなかったので、とりあえず公開情報だけで考えてみる。

 阪大CMCの調達仕様は平成17年8月16日の資料提供招請に関する公表で示されており、キーポイントは以下である。

・導入予定時期 平成18年度1月以降
・調達に必要とされる基本的な要求要件
<現有スーパーコンピュータシステム NEC SX-5/128M8 の16 倍以上の能力を有し、同システムと Fortran90 言語のソースコード・レベルで互換性を有すること> 

 CMC保有のSX-5の理論性能は1.28Tflopsであるので、この16倍という性能は「20.48Tflops」ということになる。

 そして、平成18年10月11日の落札公示は
・スーパーコンピュータシステム 一式 借入
・日本電気株式会社
・7,239,330,000円 (72.39億円)
となっており、報道発表等から知りうる内容は「SX-8R 20台、5.3Tflops」で、要求性能の「20.48Tflops」からは「15.16Tflops」不足しているのである。

 一方、納入側であるNECからの発表「大阪大学サイバーメディアセンターから大規模ベクトル型スーパーコンピュータを受注」では、さらに2年後に次機SXを導入し、20Tflopsに拡張する予定とある。つまり、2年後の製品を既に受注したと言っているのである。このNECが公表した2年後の拡張が、この時点での落札公示価格に含まれているのか否かは不明である。

 もし含まれているとするなら、(1)製品が完成し販売されるかどうか不明な2年先の機械を物品調達で調達可能なのか、(2)納入までの支払いはどうなっているのか、といったような様々な疑問が噴出するのである。
 こうした調達手続き上の疑問に加え、地球シミュレータのリプレースには、このCMCの調達価格が大きく影を落としているのではないかと思っているのである。

 というのは、CMCの落札価格の72.39億円にSX-9による拡張10ノード(16Tflops)分の価格が含まれ、全体で要求性能を少し超える21.3Tflopsになるとしても、Tflops単価は約3.4億円なのである。この単価はSX-9の最小リース価格から推定されるTflops単価と概ね同じ価格なのであり、CMCは2006年に2008年納入の物品を、発表予定価格で購入したということである。
 その同じSX-9は2007年にドイツでTflops単価8千万円程度で契約しているようであるから、阪大CMCはドイツの4倍の単価で契約しているのである。

 そして、重要なのは、この阪大価格は阪大以外の官公庁のSX-9の調達価格をも規定してしまっているということである。官公庁の入札で、同じ機械をA大学とB研究所では大幅に異なる価格で入札するなどということは整合性の観点から極めて問題である。

 つまり、地球シミュレータのリプレースにおいて、整合性の観点から、SX-9の価格を阪大価格から大きく変更することは出来なくなってしまっているのではないかと思うのである。

 従って、阪大価格がある限り、海洋研の年額45億円/月額3.75億円の予算では、NECは正規価格では50-60Tflops程度であり、かなり勉強しても80Tflops程度が整合性の限界なのではなかろうか。

 この阪大価格はSX-9を導入した(する)官公庁は影響を受けているはずで、たとえば、前回例に出した、国立天文台も例外ではないであろう。しかし、この国立天文台のケースは、SX-9 とCray-XT4 との抱き合わせで、しかもNECがプライムであるため、それぞれの実際の価格は表に出ないため、SX-9が高いのか、XT4が高いのかわからないのである。SX-9を阪大価格で推定すると、XT4の価格は米国での実勢に近くなる。あるいはSX-9をドイツ価格で推定すると、XT4は米国での実勢からは程遠い価格と推定される。

 いずれにしろ、阪大CMCのSX-9の先物買いが、地球シミュレータのパンドラの箱を開けてしまい、ドイツからのバックファイアもあり、地球シミュレータ・リプレースの連立方程式を解くのはLinpackでは無理であろう。

 納税者サイドからみれば、ドイツでの価格は極めて重要な情報で、国内でのこうした談合的調達は、近頃話題の水増し防衛装備品調達と違いはなく、税金の価値、円の価値を著しく毀損する行為なのである。支出をケチる意味ではなく、「もっと上手に買い物をしなさいよ」と言うことである。

 こうした観点から、地球シミュレータのパンドラの箱は、従来のベクタかスカラかといった議論ではなく、賢い調達、税金の有効支出といった問題を提起してくれており、筆者は海洋研の努力を高く評価したい。

 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。

============================
                 事後追加
============================ 

 2007年12月公示の東北大のSX-9(26.2Tflops)の月額リース料は期間5年で10,248万円となっており、Tflops単価は月額リース料で391万円ということになります。したがって、SX-9のTflops当りの買取推定額は2億円前後と思えます。

 ご承知のように、一般的にリース料金には本体価格のほか金利、固定資産税、保険,手数料等々が含まれますので、リース料金総額は、本体価格より高くなっていると考えられます。したがって、本体価格を推定するには、その分を割り引く必要があります。
 また、公示される価格は、メモリやファイルサーバー、ログオン・サーバーなどシステムに必要なものをすべて含んだ価格ですので、ここでいうTflops単価はそれらを含んだ価格です。

 

===================
メント欄の一部を本文欄に追加いたします。
=================== 

To:コメント#1
東北大の件、了解いたしました。

 日曜日(9日)に阪大や天文台の公示データを確認したのですが、その時点では東北大のデータはUPされておらず、その後、確認を怠ったため、失礼致しました。

 東北大のSX-9(26.2Tflops、月額リース料10248万円) のTflops単価は月額リース料で391万円ということになり、Tflops当りの買取推定は2億円前後と思えます。

 このデータを使うと、阪大のシステム(72億円)のうち、SX-9(10ノード・16Tflops)の部分は32億となり、SX-8R(5.3Tflops)の部分は40億となりますので、2006年10月の契約時点でのSX-8RのTflops単価は7.5億前後と推定されます。勿論、SX-9をもっと高く値付ればSX-8Rの価格は下がってきます。いずれにせよ、疑問の多い契約ですね。
 
 また、同様にこの東北大のデータを使用すると、国立天文台の月額リース料2,047万円の内、SX-9(2Tflops)充当分は782万円となり、XT4(26Tflops)充当分は1,265万円ということになりますので、XT4のTflops当たりの月額リース料金は48.7万円ということになります。
 従って、SX-9とXT4のTflops当りの月額リース料を比べると、SX-9:391万 vs XT4:48.7万ということで、SX-9はXT4の8倍ということになると思います。
 SX-9がXT4の8倍の性能を示すことが出来るかどうかは大変興味深いものがあります。

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

2

To:コメント#1

 東北大の件、了解いたしました。

 日曜日(9日)に阪大や天文台の公示データを確認したのですが、その時点では東北大のデータはUPされておらず、その後、確認を怠ったため、失礼致しました。

 東北大のSX-9(26.2Tflops、月額リース料10248万円) のTflops単価は月額リース料で391万円ということになり、Tflops当りの買取推定は2億円前後と思えます。

 このデータを使うと、阪大のシステム(72億円)のうち、SX-9(10ノード・16Tflops)の部分は32億となり、SX-8R(5.3Tflops)の部分は40億となりますので、2006年10月の契約時点でのSX-8RのTflops単価は7.5億前後と推定されます。勿論、SX-9をもっと高く値付ればSX-8Rの価格は下がってきます。いずれにせよ、疑問の多い契約ですね。
 
 また、同様にこの東北大のデータを使用すると、国立天文台の月額リース料2,047万円の内、SX-9(2Tflops)充当分は782万円となり、XT4(26Tflops)充当分は1,265万円ということになりますので、XT4のTflops当たりの月額リース料金は48.7万円ということになります。
 従って、SX-9とXT4のTflops当りの月額リース料を比べると、SX-9:391万 vs XT4:48.7万ということで、SX-9はXT4の8倍ということになると思います。
 SX-9がXT4の8倍の性能を示すことが出来るかどうかは大変興味深いものがあります。

  能澤 徹 on 2007/12/14

1

SX-9の価格について、様々な仮定による推測をなされている様ですが、官報で東北大学情報シナジーセンターでの落札価格を知ることが出来ます。
http://www-gpo3.mext.go.jp/kanpo/gporesultm.asp?idno=F0032900

月額約一億円でのレンタルと思われます。別途の報道で東北大学情報シナジーセンターで導入予定のSX-9は16ノード26.2TFlopsと言われておりますので、より仮定の少ない見積もりが出来るのではないかと思います。

単純計算で月額3.75億円のレンタル料なら100Tflos弱のシステムが導入できるように思われます。

参考:国立天文台の落札結果
http://www-gpo3.mext.go.jp/kanpo/gporesultm.asp?idno=F0032649

追伸:正直なところ、Linpackの数値と導入価格のみで計算機に序列をつけたり、パフォーマンスを計ろうという評価基準には非常に疑問があります。なるほど客観的な指標は重要ですが、他に指標と成る数値が無いからといって、それで議論をするというのは、いかがなものでしょうか?

「男は度胸、何でも試してみるのさ」
次期国産スパコン計画も斯の如くありたいものです。

  yamajun on 2007/12/14

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