最終更新時刻:2009年7月11日(土) 10時00分
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地球シミュレータのリプレース

公開日時:
2007/12/10 09:00
著者:
能澤 徹

 旧聞に属するが、NHKの地球シミュレータ(ES)停止ニュースで話題になった地球シミュレータのリプレース問題。これの基本的構図は今年(2007年)3月に高度情報科学技術研究機構が主催してハワイで行われた「第9回最先端コンピュータにおける次世代気候モデル開発に関わる国際ワークショップ」での海洋研側のプレゼンテーションで、概ね明らかになっている。 
 このプレゼンテーションによると、リプレース問題に関する海洋研の基本的要求は2つである。

(1)現状の運用経費の範囲内で行う。
(2)実アプリケーケーション群に対する実行性能で2倍を確保する。

 具体的には、ES(SX-6 5120基)の総理論性能は41Tflopsで、SX-6のCPU単体の理論性能は8Gflopsであるが、実行性能は実アプリケーション・Apps1を例に取ると、単体理論性能の34%に当たる2.74Gflopsという性能であった。

 海洋研はリプレースのため、SX-8Rを試験導入し、Apps1での性能測定を行った。SX-8Rの理論性能は35.2Gflopsで、SX-6の4.4倍の高性能が期待されたが、Apps1の実行結果は4.60Gflopsで、理論性能の13%であり、SX-6の1.68倍の性能でしかなかった。
 
海洋研は他のAppsでの測定も行い、結果として、海洋研の実アプリケーション・ベースでは、SX-8RはSX-6の1.6-1.7倍程度の実行性能と結論づけたのである。
 
従って、海洋研は、理論性能ベースで41TflopsのESを、単純にその2倍の80TflopsのSX-8Rシステムでリプレースしたのでは、実アプリケーション的には性能低下を来たしてしまうと主張しており、さらにその倍の150TF程度に引き上げても、実行性能的には現在の1.44倍程度にしか過ぎないとしており、結局、SX-8Rで、実アプリケーション・べースでESの2倍の性能を確保するには、計算上、理論性能で210Tflops程度のシステムが必要と判断しているようである。
 SX-9の実測性能データは、今のところ、公表されていないので、定かではないが、SX-8Rと同じ傾向を示すのではないかと思われる。


  経費的には、NHKのデータでは、年額でおよそ、保守関係45億円、電気5億円、ガス水道1.5億円ということであるが、メーカーとしては、この原資だけでは、SX-8R、ないしは、SX-9で、210Tflopsのシステムを設置することは出来ないということであったようである。これに不満な海洋研は、このワークショップでのプレゼンテーションという形で、実行性能で2倍を得るためには、SXに限定せず、色々なアーキテクチャーのシステムを検討するという意思の表明を行ったのであろう。

 このプレゼンテーションの「その後」が8ヶ月後の11月における、日経、NHK、朝日などのニュースということであろう。

 参考までに、直近の落札公示を拾い出すと、2007年11月12日に大学共同利用機関法人自然科学研究機構の天文シミュレーションシステム(いわゆる国立天文台のスパコン)の落札があり、NECがプライム・コントラクタとなり、「SX-9 2Tflops」と「CrayのXT4 26Tflops」を、月額20,475,000円で落札している。 

 それぞれのシステムの価格は不明である。NECがプライムであるので、XT4もNECを通して価格が設定されており、Cray JapanがいくらでNECに卸し、また、米CrayがCray Japanにいくらで卸しているのかは不明である。 この落札額そのものに関しては、米国での実勢からの議論は必要ではあるが、とりあえず、国内での直近の参考価格として参照することにする。

 海洋研の原資である保守費年額45億/月額3.75億は、この参考価格の月額2千万円の18.75倍である。つまり、保守費だけで「37.5TflopsのSX-9」と「487.5TflopsのCray XT4」の両方を購入できる額なのである!

 SXとTX4の実行効率の比較に関しては、共通のアプリケーションでのデータは乏しいが、上記3月のワークショップで、NECのプレゼンテーション・チャートのなかに、気象予報ソフトの「WRF」をSX-8で作動させた場合のデータがあり、実行効率が13.3%となっている。拙稿のHPCC賞のところで述べてあるように、「WRF」はCryaのXT3/XT4では11%程度で作動しているとのことであるので、SX-8の13.3%と比較すると、殆ど差はないことがわかる。

 従って、海洋研の要求は「487.5TflopsのCray XT4」だけで十分であるが、参考落札をそのまま適用すれば、さらにオマケで、現在のESと殆ど同じ性能の37.5TflopsのSX-9が付いてくるのである。 勿論、初期コストの5億円など全く不要であり、電気代の減少で、保守費も捻出可能であろうから、この案は検討に値するものと思う。

 
 ところで、昨年10月発表のSX-8Rの落札公示に関しては、阪大のケースがあるので以下に要点を記す。

・2006年10月11日 SX-8R 20台 理論性能5.3Tflops
・総額7,239,330,000円  Tflops単価13.66億円

 理論性能と総額を見て、絶句である。
 どなたか、この件の詳しい情報や経緯をお知りの方がおられましたら解説をお願いいたします。

 そして、SX-9の価格に関しては、HPCwireに「NEC Revisit」という記事が載り、SC07でNECからHPCwireの記者に詳しい説明があり、ドイツでのSX-9の価格はBackup機を含めた2倍の台数のものであるとのことで、Tflops単価は1.0Mユーロから半分の0.5Mユーロへ訂正されている。約8千万円である。

 このことは、阪大のケースや海洋研のリプレースのケースに関連付けて考えてみると、新たな疑問を提起する。
 SX-9とSX-8Rは若干異なるスパコンではあるが、ラック当たりのコストではなく、Tflops単価において、2006年の阪大のSX-8Rの13億と、2007年のドイツでのSX-9の8千万とでは、あまりにも違いがありすぎるのではないだろうか。
 
加えて、Tflops単価8千万であれば、海洋研に、保守費の年額45億円だけで、210TflopsのSX-9の設置は可能と思えるのである。

  皆様、どう思いますか?

  

  なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

1

下記、本文を訂正いたしました。

本文12行目と15行目のパーセント数字の訂正:

12行目  13% => 34% 「単体理論性能の34%に当たる2.74Gflops」
15行目  34% => 13% 「Apps1の実行結果は4.60Gflopsで、理論性能の13%で」

(原因不明ですが、現在、CNETの投稿用エディターを通して本文を訂正出来ない状態なので、とりあえず、コメント欄を通して、訂正を行います。 エディターが復旧いたしましたら、本文を訂正いたします。)

 

  能澤 徹 on 2007/12/10

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