近頃、筆者のテーマ近辺でも「戦艦大和」の論議が華やかだそうで、「帝国海軍とiPod」という表題を見て、ついに論争はスパコンとは正反対のュビクィタス機iPodにまで拡大したのかと思ってしまった。
http://japan.cnet.com/blog/murakami/2007/11/27/entry_25002251/
文春の戦記物対談は、皇室記事と同じで、何十年も前から、同じような対談を何回も掲載しているので、筆者にとっては、新鮮味のない漫談の類であった。コメントにも残っているアドミラル「ミニッツ」論議は、日本人によくある単純な読み違いで、瑣末なことではあるが、太平洋戦争を論じている中で「山本五十六」を「本山六十五」といってるようなものとのアナロジを効かすと、いささか問題ありとも感じられた。つまり、村上さんは太平洋戦争に関してそれ程詳しくないので、文春の対談内容を100%正しいと思っての引用ではないかと思うが、世の中には色々な考え方があり、対談内容を100%正しいとは思っていない人もあり、この対談だけから単純に教訓を引き出すのは如何なものか、と言うことである。
さて、村上さんの論立ては
「僕の個人的なテーマは、日本のタテ割り産業をヨコにつなぐこと、です。情報産業で言えば、Walkmanを作った国が、何故、iPodに負けるのか」ということであり、アナロジとして、
「帝国海軍vs米国海軍、日本はなぜアメリカに勝てないのか」があって
「帝国海軍とiPod」となるのであろう。
筆者は、この論立てはおかしいと思っている。理由は、
「日本のタテ割り産業をヨコにつなぐこと」というテーマを
「Walkmanを作った国が、何故、iPodに負けるのか」
と具体化した時点で、比較対象の概念に不一致を起こしてしまっているのである。つまり、「WalkmanがiPodに」でもなく、「SONYがAPPLEに」でもなく、「国がiPodに負ける」としているのである。 そして、この落差を認識しないことにより、彼の頭の中では何の不合理もなく「帝国海軍とiPod」の比較が成り立っているのではないかと思うのである。
しかし、彼のレトリックを使うと、彼自身も気が付いているように「wii」を例に取ると、「PS2を作った国が、何故、wiiに負けるのか」ということになり意味を成さなくなってしまうし、米国から見れば「T型フォードを作った国が、何故、Toyotaに負けるのか」とか「コダック・フィルムを作った国が、何故、キャノンやカシオなどに負けるのか」ともなり、製品により「国」の立場が反転する例も多く、意味が無いことを論じようとしているのである。
筆者は、「WalkmanとiPod」の製品企画、製造、販売インフラ、等々の議論は興味があるし、「SONYとAPPLE」に関する企業文化、組織運営、等々の比較も面白そうであり、また、「帝国海軍vs米国海軍(大西洋艦隊も含む)」や「日本国政府vs米国政府」などにも興味はある。
しかし、残念ながら、「帝国海軍とiPod」は、何を主張したいのか良くわからなかった。そこで彼の最初のログを読んでみて、なんとか彼のテーマを理解できたので、以下に、彼のテーマに関して若干述べてみる。
さて、村上さんの基本テーマである「日本のタテ割り産業をヨコにつなぐこと」は、国家を組織体として考えると、要するに、組織を「機能組織(Functional Organization)」にするのか「プロジェクト組織」にするのかということであり、「iPod」を引き合いに出したい気持ちは「価値連鎖(Value Chain)マネジメント」のことではないかと思う。
機能組織とは、組織を固定的に、営業、企画、ハードウエア開発、ソフトウエア開発、保守サービス、財務・法務・管理、等々といった機能に分けて縦割りに活動を行う組織形態であり、プロジェクト型の組織とは、組織目標ごとに目標達成に必要な機能(要員)を集め、階層の少ないヨコに広がった組織で活動を行う形態で、目標達成とともに消滅する組織形態である。機能組織との大きな違いは、目標に対する意思決定の早さで、機能組織では、それぞれの組織長にまで駆け上がって決済を求めなければならないのを、プロジェクト組織ではプロジェクト組織内で意思決定ができる点である。
一般的に、組織の管理運営で、機能組織がよいのか、プロジェクト組織がよいのか、という議論は、組織の置かれた環境や状況により異なるので、絶対的にどちらが良い悪いと言った議論は出来ない。いえることは、組織の運用にはこの2つの形態があり、組織の長は、組織の置かれた環境や状況を適切に判断し、どちらかに重心を移すことの出来る柔軟さがないと、組織の硬直化、形骸化が起こり、機能不全に陥ってしまうことが多い、と言うことぐらいであろう。
従って、村上さんの「日本のタテ割り産業をヨコにつなぐこと」というテーマを言い換えると、「機能組織型に固定してしまっている感のある日本のタテ割り産業界に、企業の垣根を超える、決断の早いプロジェクト型のヨコ風を送り込みたい」と言うことと、「プロジェクト型の風」で「価値連鎖」の「顧客満足度(サービス)、マーケットシェア、収益、生産性」などを極大化する方向にもって行き、日本の産業界を活性化させたい、ということではないかと思う。
しかし、組織論の如何に関わらず企業活動の本質的問題は、価値の源泉であるマーケット・ニーズが民族や国家・法律・文化、ライフスタイル、地理的環境、等々により多種多様に異なることで、これをどの様に取り込み、ロール・アウトするのかという古典的なことであるので、組織論は支援手段の一部でしかないということである。
と同時に、企業活動の最終目標は、誰がどれだけ儲けるかということであるため、新しい「ヨコ風」も儲けの分配の壁をくぐりぬけるのは容易なことではないであろうと思っている。
さて、話を戻すと、村上さんが他人事のようにピックアップした多くの部分は、実は、今日の霞ヶ関に最も強く受け継がれている悪弊のような気がしてしょうがないし、彼のテーマである「日本のタテ割り産業をヨコにつなぐこと」よりも、彼自身の属する「日本のタテ割り行政をヨコにつなぐこと」の方が緊急度も、重要度も高いのではないかと思っている。
筆者のブログのテーマであるスパコン分野で考えても、経産省が国策産業政策として平成13年度から22年度の10年間にかけて半導体のMIRAIプロジェクトを推進しているにも関わらず、隣の文科省は、MIRAIの半導体成果とはプラン上のリンクを取ることなく、同じ国策の教育科学政策として平成18年から平成22年にかけて「次世代スパコンプロジェクト」を、「一部IT企業への失業対策的公共事業」などと揶揄されながら、強引に立ち上げ始めているのである。
実に馬鹿げた話で、少なくとも国策と言うなら、「次世代スパコン」はMIRAIの成果にリンクし、平成22年を待って、一気に世界に存在感を示すべきで、「次世代スパコン」のプランである平成20年にTop1にならなければならない合理的理由など皆無なのである。そして「次世代スパコン」完成直後にはMIRAIの成果が出てきて、「次世代スパコン」は陳腐化し、1154億円の巨額税金が無駄金になるという、「すばらしい国策」を立てているのが「霞ヶ関」なのである。
繰り返しになるが、問題は、「日本のタテ割り産業をヨコにつなぐこと」ではなく、「日本のタテ割り行政をヨコにつなぐこと」であり、この方が緊急度も、重要度も遥かに高いと思うのは筆者だけではあるまい。
なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。
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実は件のエントリー、何を言いたいのかさっぱり解らなかったのですけど、能澤さんの話でようやく一部理解できました。ちなみに、縦割りの事情は日本だけではなくて、サイロ型やセクショナリズムの言葉どおり、海外企業や社会でも同じようなものだと感じています。