最終更新時刻:2008年7月25日(金) 21時03分

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NEC SX-9

公開日時:
2007/10/30 11:30
著者:
能澤 徹

<NEC SX-9>

 10月25日にNECのSX-9が発表され、スパコン業界も、1ペタフロップ級の登場が相次いでいる。 2008年へ向けてスタートラインにた立ったのは、NEC SX-9、 SUN Constellation、Cray Baker、IBM Blue Gene/P、などである。 SUNのConstalletionは、テキサス大TACCにRangerとして0.5Pflops機を構築中で、最大1.7Pflopsまで拡張可能であり、CrayのBakerは8月に$65Mでテネシー大に設置が決まった1Pflops機である。

 NECのSX-9は、1チップで102.4GflopsのVector CPUを使い、Max512ノードで0.839Pflopsのスパコンで、2008年3月から出荷とされている。チップは65nmのプロダクション・ルールを使用している。
 SX-8/8Rからの変更は、CPUに関してはクロックを2.2GHZから3.2GHZに引き上げ、パイプラインを増やすことで、CPU性能を35.2Gflopsから102.4Gflopsへ約3倍の増強をはかり、さらにラックにおいてもCPU数を8から16に増やすことで、ラック当たりの性能を1.6Tflopsに強化した。
 消費電力はノード/ラック当たり30KWとなっているので、Tflops当たり18.3KWであり、512ノードでは15.4MWということになる。この消費電力にはクロスバーやファイル・サーバー、空調などが含まれていないが、それでも地球シミュレータの2.5倍である。
 設置面積は保守エリア込みでノード当たり4.9平米と報道されているので、Tflops当たり3.0平米である。512ノードでは2500平米であり、クロスバーやファイルサーバーなどを入れると地球シミュレータと同様な床面積が必要になってしまうものと思える。
 価格は最小構成の4CPUで、リース月額284万円(税抜き)と発表されており、4年償却を仮定すると推定買取額は約1億4千万円程度と考えられている。単純比例で推定すると16CPUノードは5億6千万円で、Tflops単価は3億3千万円ということになる。この単純比例で推定すると、地球シミュレータと同性能のシステムは133億円であり、最大の839Tflops機は2790億円ということになる。これらの推定価格は、単純比例のため、いささか信じ難い値であるので、半値、あるいは3分の1としても、依然として、極めて高額であることに変わりはない。(事後追加参照)

 TACCのRanger(Opteron-Quad core)は82ラック、504Tflopsで消費電力は2.4MW、空調に1MWといわれており、調達価格はNSFからの総額$59Mで、その内のHWは$30M(約35億円、Y$117))とされている。ラック当たりの性能は6.14Tflops、29KWであり、設置面積は、SXとの比較のため保守エリアを加えても、およそ0.8平米である。Tflops当たりに換算すると、消費電力は4.7KW、設置面積は0.13平米、価格は約700万円である。

 従って、SX-9はRangerに比べ、Tflops当たりの比較では、消費電力は約4倍、設置面積は約23倍、価格は単純比例推定で約48倍ということになる。
 これらは、グリーン度からも、平面占有度からも、10年以上前のバプル時代の設計感覚であり、現在のエコ思想からは考えられないアナクロであろう。TCO(Total Cost of Ownership)の観点から、よほどの事情がない限り、SXの選択は難しいのではないだろうか。

 実行性能に関しては、基本はHPCCベンチマークであり、文科省の次世代スパコンもこのベンチマークを評価項目としており、SX-9もこのベンチマークを実行し、データを公表すべきで、これにより公平な性能比較を行うことができるようになる。HPL、FFT、Random Access、Streamのデータは大変参考になる。
 実際、SX-8(Stuttgart-576CPU)とOpteron-Dualコアのスカラー機であるRed StormのHPCCのFFTのデータでは、絶対性能的にはRed Stormが圧倒的に速く、Peakに対する比率においても、大きな違いは存在しない。
 SX-9発表時のNECの主張では、SX-9はスカラー機に比べ、気象予測計算では3-4倍、物性計算では3-7倍の性能を示すとしている。この比較に使用したスカラー機の詳細やプログラムの最適化の状況などが不明で、疑問の多い主張であるが、とりあえず、この主張を受け入れたとしても、スカラー機としてRangerを例に取れば、ラック当たりの理論性能はSX-9の4倍近くあるので、SXの1ラックに対しRangerの2ラックを対応させれば、SXの実行性能以上の性能を確保出来ると考えられる。価格的には2ラックでもSXの1ラックより十分安価であり、消費電力、設置面積も小さくて済む。つまり、設置面積、消費電力、価格的にいうと、NECの主張を受け入れたとしても、SXが速いということは無いといえる。
 従って、SXを導入するメリットは性能ではなく、SX用の既存のアプリケーションをそのまま作動できるといったようなこと以外、明確な理由付けは存在しないように思えるのである。

 気象予測計算や物性計算に関しては、現在、米国ではスカラー機ベースの各種プログラムを研究開発中で、テキサス大のRangerやANLのBG/Pなども気象予測のWRF関連の開発を主要用途に上げており、アプリケーションのスカラー化は進んでいる。ベクター機に固執しすぎると世界の潮流から孤立してしまい、パソコンのPC-9800の二の舞になりかねない。
 DOEのNERSCはスパコンの持続性能測定の目安として、気象(CAM3?NCAR)、計算化学(CAMESSーIOWA State)、核融合(GTC-PPPL)、天文(MADbench?LBNL)、QCD(MILC-Multi site Collaboration)、物性(PARTEC-LBNL/UCB)、生命科学(PMEMD-UNC-Chaple Hill)の7つのアプリケーションで構成されるベンチマークを作成している。SX-9もこうした全方位的で広範なベンチマークによる偏りの無い持続性能のデータを提供すべきであろう。 

 NECは2-3年後にSX-10を発表予定との報道がある。45nmを採用するとし、クロックを6GHZに倍増、パイプラインも倍増、ないしは、2コアとし、さらに1ラック32CPUと倍増しても、性能増加は8倍であり、相変わらず512ラックの非グリーンのバブル設計を採用しても、6.7Pflops程度になるに過ぎず、次世代スパコンの10Pflopsには届かないことも指摘しておく。 
  
 余談ではあるが、テキサス大TACCのRangerとテネシー大のCryaのBakerは、ともにNSFのCyberinfraプログラムのTrack2という1Pfops未満のスパコンに対するFundingであり、持続性能1Pflops超のTrack1では、$208Mでイリノイ大が提案したIBM-Blue WaterがFundingを受けている。
 1Pflops超のプランとしては、NSF以外にはDARPAのHPCプログラムがあり、IBM-PERCSとCrayーCascadeがFundingを受けている。イリノイ大のBlue WaterはPower7を使用したPERCSと同じと考えられており、またテネシー大のBakerは、Cascadeのスカラー系の前段階のスパコンといわれているものである。CrayのロードマップではBakeの次にはMarbleという持続1Pflops機が置かれており、HPCwireによれば、テネシー大はこの持続1Pflops機をNSFのTack1に申請したがBlue Waterに破れ却下されてしまったとされている。まずはBakerを完成してからということであろう。

 スパコンの調達価格に関しては、米国では、テキサス大TACCのRanger、テネシー大のCray Baker、DOEのTri-LABのAPPRO Xtreme-Xなど、Opteron系のTflops単価は700万円前後が多くなっている。日本に於てこの価格がそのまま適用されるかどうかはわからない。しかし、税金での調達に当たっては公務員は知恵を働かせるべきである。たとえば、スパコンの共同調達組織を立ち上げるとかして、量を確保し、量を背景に、米国での価格報道を出来る限り多く示し、タフな交渉を行い、米国価格に近づけるべきであることも指摘しておきたい。

 
 なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。

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                 事後追加
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 2007年12月公示の東北大のSX-9(26.2Tflops)の月額リース料は期間5年で10,248万円となっており、Tflops単価は月額リース料で391万円ということになります。したがって、SX-9のTflops当りの買取推定額は2億円前後と思えます。

 ご承知のように、一般的にリース料金には本体価格のほか金利、固定資産税、保険,手数料等々が含まれますので、リース料金総額は、本体価格より高くなっていると考えられます。したがって、本体価格を推定するには、その分を割り引く必要があります。
 また、公示される価格は、メモリやファイルサーバー、ログオン・サーバーなどシステムに必要なものをすべて含んだ価格ですので、ここでいうTflops単価はそれらを含んだ価格です。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

1

SX-10は、6.7Pflops程度になるに過ぎずとありますが、おそらく間違っていると思われます。
通常であれば、強化モデルを発表してその1年後に新型を発表するのでもう少しSX-10の能力は高いと思われます。ただし誰も最大構成を買う人はいませんが・・・。


(誤)テネシー大のCryaのBakerは
(正) テネシー大のCrayのBakerは

  Power on 2007/10/31

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