前回述べたPIMに関連し、HOT CHIPS19のニュースが多いので一言。
http://www.eetimes.jp/contents/200708/23345_1_20070807181703.cfm
このEETIMESのレポートは日本で報道されている多くのHOT CHIPS19のレポートとは若干視点が異なるもので興味深い。このレポートはマルチコア、メニーコアのMITのRAW/TILEや UTEXASのTRIPS等々より、コア間、メモリブロック間のチップ内/外iコミュニケーション・アーキテクチャーの問題、および、オンチップ・メモリブロックの問題を取り上げている点が秀逸である。
日本のスパコン戦略はボロボロ
<閣議決定>
日本のスパコン戦略は内閣府が所管する第3期科学技術基本計画(2006年ー2011年/H18-H23)の中でバイオ、ナノ、宇宙開発、等々と一緒に記述されているもので、2006年の3月に閣議決定されている。
スパコン戦略は「次世代スパコン」を中心にしたもので文科省が提出したものである。その中での、わが国の技術力の現状認識や米国の状況認識などは、あまりにも世界の実情から乖離しているもので、首をひねらざるを得ないものである。
たとえば調査会の資料に書かれている、
◆日本のとるべき戦略
◎米国よりも優位にある技術で対抗
・高性能プロセッサー技術 (?)
・超高速ネットワーク技術 (?)
・専用計算技術 (?)
=>汎用スパコンの実現に有利 (?)
◎理研の新型汎用スーパーコンピュータ(RSCC)の実績(優れた費用帯効果で高い実行性能を確保)を活用。 (?)
等とあるが、何処を叩くと、2006年3月時点で、このような現状認識に到るのか、理解に苦しむばかりである。
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon/haihu10/siryo1-2-4.pdf
<文科省からの原案>
これらの背景にあるものは文科省の「スーパーコンピュータ推進戦略」 2005年7月 文科省研究振興局
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/shiryo/007/05082601/005.pdf
で、これで複合型が決定されており、これに合わせて「作文」がなされていると考えるのが妥当と思える。
2005年7月に文科省が決定し、2006年3月に内閣府の第3期科学技術基本政策の中で閣議決定された「スパコン戦略」とは、
・大規模計算(ベクタ)
・逐次処理(スカラ)
・特定処理(専用計算機、アクセラレータ)
の3部分からなる複合計算機である。
そして、この提案に対しては、閣議決定に先立つ内閣府綜合科学技術政策会議の評価専門調査会で多数の質問が噴出している。
◆評価専門調査会 最先端・高性能汎用スーパーコンピュータの開発利用評価検討会
平成17年9月20日(火)15:30?17:30於:新霞ヶ関ビル CSTP会議室(1階)
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/super/haihu02/siryo3-3.pdf
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/super/haihu02/siryo3-2.pdf
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/super/
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/super/haihu02/haihu-s02.html
<2006年、原案の数値>
2006年の専門調査会での質問・回答を通して判明した「次世代スパコン」の概要数値を以下に示す。
| 2006年 3月 | 目標 性能 | 目標 性能 | 消費 電力 |
| PF | PF | MW | |
| (45nm) | (65nm) | (65nm) | |
| ベクター | 0.50 | 0.25 | 8.0 |
| スカラー | 1.00 | 0.50 | 6.5 |
| 専用機 | 20.00 | 20.00 | 7.0 |
| その他 | 18.0 | ||
| 合計 | 21.00 | 20.75 | 39.5 |
| 年間経費億円 | 81.4億円 |
要するに、専用計算機で20PFを目指し、ベクタは0.5PF、スカラは1.0PFということである。
つまり、諸条件から、ベクタ機は0.5PFが限界で1.0PFなど無理といっているのであり、スカラ機も1.0PFが限界で、といっているのである。当時既にBG/Lは0.28PFを達成しており、ANLに1.0PFのBG/Pが納品されるであろうことは周知の事実であり、DARPAのHPCSの3.0PFプロジェクトにはIBM、Cray、Sunの3社が最終契約競争を展開していたことも周知の事実であった。
こうした状況下で ”「日本のとるべき戦略」として「◎米国よりも優位にある技術で対抗する」" ということの実態が、ベクタ0.5PF、スカラ1.0PFで、10.0PFは特定処理で目指す、ということなのであるから、このことは、とりもなおさず「優位にある技術は特定処理以外無い」といっているのであり、「日本のとるべき戦略」の大言が実態の無い虚言であることは明らかであろう。
<2007年、理研・文科省の変更>
しかし、これらの矛盾は、まだ、始めの第1歩に過ぎない。本当に驚くべきことは、2007年6月提出の理研の概要設計である。ご存知のとおり、「ベクター、スカラー、両輪論」などと気取ったことを言っているが、これは、戦略的に10.0PFを達成しなければならない特定処理(専用計算機)を、消し去ったということであり、ベクタ部かスカラ部のどちらかが最低でも10.0PFを達成しなければならないということである。
これは、本当に驚くべきことで、技術的可能性、電力消費、設置面積、など全てにおいて、閣議決定の内容を完全に覆す多大な変更を強いるものであるからである。
これは10.0PF達成の可能性を疑わせるに足る重大な変更なのである。
特定処理部が削除された理由は明らかにされていないが、この部分はGRAPE-DRが想定されていたことは確かで、GRAPE-DRが性能的に日の丸スパコンの期待値(実行性能10.0PF)に応えられないと判断されたためであろうことは推測に難くない。
そもそも削除しなければならないような「役立たず」を基本政策に含めてしまったのは文科省の大失態であるが、なぜ「役立たず」なのかということの説明も無く「取り下げた」ということも理解に苦しむ点である。これらの点に関しては次回以降に稿を改め議論してみたい。
<次世代日の丸スパコンの実態>
この特定処理部の削除が「次世代日の丸スパコン」に対して与えるインパクトは計り知れない。
今まで0.5PFといっていたベクタ部か1.0PFといっていたスカラ部で実行値10.0PFを達成しなければならないからである。
そのため、性能達成そのものでさえ極めて難しい上、消費電力、設置面積、運用経費、等々においても多大な変更が必要となるはずであるからである。
電力消費に関しては、2006年の65nm案で予測すると、ベクタ部で10PFの場合は160MW+スカラー部電力、スカラ部で10PFの場合は65MW+ベクタ部電力で、その他を含めて100MW前後必要と考えられるからである。
これは完全に原子力発電機1基の1/10程度を必要とする程の電力消費量であり、年間の運営経費も2006年案の80億円強から一気に250億円超になるものと予測されるのである。
こんな馬鹿げた機器や施設がほんとに必要なのか?
文科省はこうした国民の疑問に対し回答する責務があるし、文科省、理研はこうした重大な基本データの変更に関しては迅速に公表を行うべきで、国会を通し国民にプロジェクトの継続の可否を問い直すべきである。
繰り返すが、こうした予測は、2006年に提出された文科省のデータから敷衍されるものである。もし、こうした予測が違うというのであれば、概念(概要)設計の数値データを公表すれば済むことである。データをもとに議論すれば、誤解も少なくなるし、無駄なエネルギーを使わなくて済む。
文科省、理研は、なぜ変更が必要であったのかを説明し、そしてその変更後の概要設計に関するデータを国民に提示し、了解を求める必要があるのである。
因みに、ベクタ部は勿論NECのSXであり、ベクタ部の要不要に関しては既に議論はした。スカラ部は富士通製と噂さされている。
「富士通が次世代スパコンを開発へ,2010年に3ペタFLOPS目指す」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/free/NBY/NEWS/20050622/163178/
Primepowerに関しては、以前に述べたとおりPerformaceで問題があり、
http://rblog-tech.japan.cnet.com/petaflops/2007/07/post_0774.html
また、”九大のスパコンを「PRIMEQUEST」など400台超のサーバーで構築” と報道され、理論値31.5TFで25億円(Primepowerの例では実行性能比50%以下)ということでTF価格がおよそ8千万円で、国際価格やTSUBAMEと比べ、いかがなものかといった疑問符がつく。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20070314/265076/
そして、3ペタの共同開発とスパコン購入という「合わせ技」は、某委員会や某XX院が関心をもってもおかしくないとも思えるが、如何なものであろうか。
また、SPARCに関しては「紆余曲折の末、APLが4月中旬に登場、日本から“メーカー”が消える日も?」と報道されており、
国際的には当然、SUNのVictoria Fall、 ROCKに吸収されると考えられいるもので、文科省の投資案は、実態として意味のあるものなのか、甚だ疑問と思われてもしかたがあるまい。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/MAG/20070427/269779/
国民の税金の有効投資に関する重要案件なので、内閣府、文科省、理研の担当者の方々からのコメント欄を利用した反論を期待します。コメント欄の使用要請は論議の散逸を防ぐためです。
なお、筆者の誤解、思い違い、転記ミス、計算違い、あるいは不適切な表現等がございましたら、ぜひ、コメント欄にてご指摘いただけますと幸いです。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
能澤 徹 on 2009/06/03
nuclear on 2007/09/01
アロン on 2007/08/29
かつて通産省は気が遠くなるような資金をコンピュータ業界に投入しましたが、何物をも残していません。アメリカ国防省の資金で作られたDSPなどが世界中の人々の生活を豊かにしていることと比べると、その差に驚きます。
アメリカでは絶えず性能目標を提示して競争を促し、最良なものを選んできましたが、日本では初めに選定した企業に任せ、成功しても失敗しても、その企業は大儲けとなります。
この図式を変えない限り、「日の丸」と称するものが成功することはないでしょう。
おじさん on 2007/08/28
風見鶏 on 2007/08/27
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To コメント#4
了解致しました。該当部分を訂正させていただきます。ありがとうございました。
昨今(2009年5月)次世代スパコン・プロジェクトからのNECの撤退の発表があり、改めて、以前の記述を読み直していて、nuclear さんのコメントに気が付きました。大変失礼致しました。