<主要スパコンの状況と今後の見通し>
BGLはDOEのアルゴンヌ研究所が中心になり、IBMとIBMの基礎研究所がバックアップする形のコンソーシウムを設立して活動を展開しており、学会関係への浸透が目立っている。今回のTOP500には全世界で34台のBGLがランクインしており、単一機種としては大きなグループを形成しつつある。このことはアプリケーション・プログラムの開発・流通の観点から極めて重要で、今後スパコン・プログラムの共同利用・共同開発に大きな威力を発揮するであろうし、また学術関係団体のスパコン導入時の大きな保険になるものと思える。
IBMは2007年6月にBGLの後継機BlueGene/Pを発表した。CPUはPPC440を改良したPPC450で、チップ当たりのコア数は2倍の4個、クロック数は700MHZから850MHZへ1.2倍引き上げ、全体でおよそ2.5倍の性能向上を図った。消費電力はクロック増加率から1.5倍程度の増加と考えられる。この結果、構造的変更無くBGPは1ラックで14.3TFLOPSとなり72ラックで1ペタフロップスが実現可能と発表されている。消費電力は1ラック41KW程度で、2.9KW /TFLOPSとなるので、1ペタで2.9MW、10ペタでも29MWということになる。
将来展望が見えていることとコンソーシアムによるバックアップ体制などからBGLは勢力を広げそうである。
2007年6月のTOP500の第2位はオークリッジ研究所(ORNL)のJaguar、第3位はサンディア研究所(SNL)のRedStormで、どちらもCray社のTX3/TX4でOpteron Dualコアを使用している。そもそもTX3はSNLのRedstormのために開発されたシステムで、その改良版がTX4で、ORNLが1ペタを目指して採用したものである。
RedStormは1ボード4ソケット16コアで、1ラックに24ボード96ソケット192コア収容するシステムである。2.4GHZのOpteron Dualコアで、1ラックで約1TFLOPSとなり、設置面積は0.82平米(0.57x144)、消費電力は15KW程度である。RedStormの演算部は135ラックなので理論性能127TFLOPSのシステムである。AMDはFPUを増強したK10アーキテクチャのOpteron クワッドコア(Barcelona)を2007年夏に出荷予定であるので、このクワッドコアを使用すると、コア数が2倍、FPU倍増で2倍の合計4倍の性能向上が期待できるので、1ラックは4TFLOPSとなり、1PFLOPSを実現するには250ラック、10PFLOPSを実現するには2,500ラック必要となる。10ペタの2,500ラックはラック数が多すぎ現実味がない。CPUがオクタコア(8コア)、ヘクサコア(16コア)になって、1,250ラックないしは625ラックとなった時点で現実味がでてくるものと思える。
CrayのTX4と同系列のスパコンにテキサス大学オースティン校のRangerというシステムがある。これはテキサス大学とSun Microsystemsが共同提案しNSFから$59Mのファンドを受けて製作中のスパコンで、これもOpteronクワッドコアを使用予定である。詳細構造は不明であるが、2007年末までに519TFLOPSを実現すると発表されている。Crya-XT4から類推して、概ね、125ラック程度で500TFLOPSを実現するものと思える。
このRangerの最大の注目点はその価格である。約500TFLOPSで$59M(約71億円)で、ハードウエアは$30M、ソフトウエアは$29Mと言われているので、純ハードウエアコストは1TFLOPS当たり700万円程度で、ソフト込みで1,400万円程度なので、概ね1,000万円/TFLOPSという価格帯である。BGLは2002年契約、2005年納入で、367TFLOPSで$90MであったのでTFLOPS当たりの価格は約3,000万円程度であった。従ってRnagerはBGLの半値以下といってよいであろう。しかしBGLの後継機BGPの価格は判明していないが、仮にラック当たりの価格がBGLと同程度に抑えられるとするなら、性能は2.5倍程度なので、TFLOP価格はBGLの半値以下になり、Rangerの価格帯と同じになる。これはある意味、今後のスパコン価格をリードする大きな事例になるかも知れない。
2007年のTFLOPS価格の安値帯が概ね1000万円前後であるとすると、次世代日の丸スパコンの1,180億円で10PFLOPSという価格は、1,180万円/TFLOPSということなので、実現できるなら、2007年での買い物としては悪くない買い物であろう。ただし、3年後には、オクタ(8)コア、ヘクサ(16)コアなどが出現し、さらに低価格化が進むであろうから、2010年の買い物としてはかなり割高と考えたほうが無難であろう。
IntelのXeonもCoreマイクロアーキテクチャーに移行し、FPU-SSE機能の倍増と、Intelの弱みであったバス構造をAMDのHypertranspotに対抗可能なバス制御CSI(Common Shared Interconnect)を導入したことでかなり競争力を高めた。大まかな性能的にはK10アーキテクチャのOpteronと同じと考えてよいであろう。クロックと消費電力はOpteronより若干良いようなので、今後超大型スパコン分野での採用が増えて行くものと思える。
IBMのPower系は2007年6月にPower6が発表され、4,7GHZという高クロックを達成している。Power5の1.5-2.0倍程度の性能向上を実現しているので、これもまた巨大システムへの採用が期待される。Power6の技術仕様書はまだ公開されていないが、Power4ではキャシュとバスの位置関係から性能が思ったほど出なかった経緯があり、4.7GHZという超高クロックCPUのキャシュやバス構造には興味がある。
Itanium2はPower、Opteron、Xeonなどのマルチコア化、高クロック化が進み、VLIWのアドバンテージを維持しづらい状況になりつつあり、ベクター機と同様、若干元気が無くなってきているように思える。
そのほかIBMはゲーム機のCellのFPUを倍精度に強化したVersionを発表し、ロスアラモス研究所とRoadrunnerというスパコンプロジェクトを始めている。RoadrunnerはCellをOpteronのFPアクセラレータとして活用することを狙ったプロジェクトであるが、PS3の売れ行きがいまひとつで、Cellの評判も盛り上がらず、若干浮いてしまっているような印象を受ける。
このFPアクセラレータ方式の代表例は東工大のTSUBAMEで、ClearSpeed社のFPアクセラレータボードを使用している。ボードの理論性能値は高いが、実際にはバスのバンド幅が十分ではなくデータの供給が間に合わないため、理論性能からはかなりへだったった低い性能になってしまっているようである。
ベクター系のCPUでは、2006年にNECがSX-8の後継機SX-8R(CPU:35.2GFLOPS、8CPU/NODE)を発表した。1ノード(8CPU)281.6GFLOPSで月額リース115万円(税抜)といわれているので、安めに3年償却と考えても、TFLOPS当たり1億4千万円程度と推定されるので、Rangerの価格帯にはとても対抗できるとは思えない。
Crayは2007年後半にX1Eの後継機でブレード型ベクター機Blackwidow(2TFLOPS/Rack)を出荷するとしている。
しかし、スカラー機の性能が飛躍的に向上した現在、スカラー機との差異を見つけ出すことは難しく、価格性能比、電力消費、設置面積などの観点から、世界的にベクター機の設置台数は極めて少なくなっている。
(1?5へ続く)
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