2007年6月12日に文科省は、2010年から運営開始予定の「次世代スーパーコンピュータプロジェクト」の「概要設計に関する評価報告書」を公表した。プロジェクトの総額は1,154億円といわれている。設計開発主体は一昨年「独立行政法人理化学研究所、通称理研」に決定し、昨年から概要設計が始まり、今年3月にはセンター設置場所が神戸に決定している。今回の評価報告書は、理研が提出した概要設計案を、理研とは別に文科省が選任した評価委員会が行った評価の報告という形式を取っている。
報告書の要点は、理研が提出した概要設計で「平成23年(2011)年6月までにLinpackベンチマークで10ペタフロップを達成することは可能である」が「10PFLOPSではTop500の第1位なれない可能性もあるので拡張性を担保する必要がある」ということ、付随して「HPC Challengeベンチマークにおいて、予算内で全項目は無理であるが、主要な4項目(HPCC Aword 4項目)でトップを達成することは可能である」ということである。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/toushin/07061321.htm
技術面の話しをする前に、このプロジェクトに関しては、プロジェクトの進め方について疑問を呈しておきたい。
そもそも、この評価報告書は評価とは言うものの、評価対象の概要設計のキーになる詳細文書類がほとんど添付されておらず、又、数値的裏付けデータもほとんど無い状態での評価であるので、言葉は悪いが「観念的でお粗末なもの」と論評されてもしょうがないように思う。
なんとか判読できるのは、システムはベクタ部とスカラ部を共存させ、チップは45nmのプロダクションルールで製造するということと、スケールダウンが可能で、広さ600平米、電力1.5MW程度の小規模施設にも設置可能にする、ということくらいである。
スカラー部、ベクター部のそれぞれの性能は不明で、それぞれが10PFLOPSを出すのか、合計で10PFLOPSなのかも不明である。そしてスケールダウンといっても本体の設置面積、消費電力、発熱といった基本データは提示されていないので、1.5MWでどの程度の性能が出るのかは不明である。
この程度の内容は、2004年頃の論議内容と大差なく、概要設計というにはあまりにお粗末である。当然詳細データはあるはずであるが、何らかの理由で公開できないのであろう。しかし、国税1,180億を使う税金でのプロジェクトである。公開が原則であり、特許関係などで機密にする必要があるのであれば、その理由を明確に述べ、国民に理解を求めるべきである。
さらに評価に関して、硬いことをいうと、「10PFLOPSでは第1位になれない可能性もあるので」という指摘は、概要設計に対するものではなく、目標設定に対する危惧の指摘である。従ってこれは文科省が責任を取るべきものであり、理研側は、目標変更に伴う設計変更を行い、必要であれば、予算、スケジュールなどの変更を求めることが出来る事案である。
なぜ硬いことをいうかというと、事ほど左様に、このプロジェクトは、プロジェクトの責任の所在が極めて曖昧で、従って、仕様は有っても無きがごとく、また、予算も有っても無きが如しになる可能性が大だからである。国税の無駄な浪費を避けるためには、発注仕様を明確にすることと、受注側は仕様達成可能の根拠を数値の裏付けを添えて説明すべきであり、設計評価(審査)はその裏付けの妥当性を検証すべきなのである。
ところが、今回の概要設計は、基本的に目標実現のための数値的裏付けがなく(公表されておらず)、このレベルでの概要設計を可とした評価(審査)そのものが不可であると評価せざるを得ないのである。
数値的裏付けが無いため、技術面やスケジュール、予算にどのようなリスクがあり、リスクの回避にはどのような案があるのかといったようなリスクマネジメントの審査もなく、そうしたリスクマネジメントを含めたプロジェクト全体をカバーする実践的なプロジェクト・プランに対する審査もないようなので、今後仕様変更、設計変更が頻発する可能性があり、予算の際限のない漸次投入などが起こる可能性もあることを指摘しておきたい。
また、技術的問題ではあるが、Linpackで10PFLOPSを達成するために、なぜ「ベクター型とスカラー型」のハイブリッド型が必要なのかという合理的な根拠を審査していない点も問題であろう。10PFLOPS実現に必要欠くべからざる構成なのか、別の理由なのかは数値を上げて明確にすべきであり、それぞれに掛かる予算も分離し明確にすべきであろう。
そして、政策目標である計算科学技術発展、産業競争力強化、技術力確保、等々に関しては、プロジェクト終了後の政策評価における評価項目及びその数値目標を明確にしておく必要があるであろう。
蛇足ではあるが、このプロジェクトの責任分担が若干「ぐちゃぐちゃ」になっている原因は、入札仕様に基づく公開入札での自由競争を行わなかったことに起因していることも指摘しておきたい。
(1-2へ続く)
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