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Tellme に学ぶ「データビジネス」

2006/07/01 09:49
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中島聡

Microsoftでチーフアーキテクトを務めた経験を持つUIEvolution CEOの中島聡氏が、「Web 2.0」と呼ばれる新しいネット時代のサービスのあり方や、ライフスタイルの変化について考察します。
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 「Software is Service」、「これからはサービスの時代」、このブログを通しても何度も引用してきた言葉だが、肝心の「なぜサービス型のビジネスモデルにシフトすべきか」という話をきちんとしていなかったとことに気がついた。そこで、今日は私の知り合いが経営しているTellmeを題材に、そのあたりを掘り下げてみようと思う。

 Tellmeは、ネットバブルの真っ只中の1999年に作られた、VoiceXMLをサービスとして提供するシリコンバレーの会社である。VoiceXMLは、電話の自動応答サービスの構築のために標準化されたマークアップ言語で、商業サービスよりも先に標準化が先行したために、Tellme以外にも複数の会社が名乗りを上げ、あっという間にブラウザーのようにコモディティ化が起こりそうに見えた。しかし、その中でTellmeだけがそれを、年商1億ドル(110億円強)の黒字ビジネスに育てた点は、注目に値する。

 Tellmeと他の会社はどこが違ったのであろうか?

 答えは、Tellmeが最初からVoiceXMLをソフトウェア・パッケージとしてではなく、サービスとして提供することを前提としていた上に、当初から「データを蓄積することにより企業価値を高める」ことを考えていた点にある。

 Tellmeの主なビジネスは、電話会社(携帯電話も含む)に対する番号案内サービスの代行である。AT&Tなどの番号案内サービスに電話をすると、最初に応対するのは機械である。「町の名前を言ってください」「番号を知りたい企業、もしくは個人名を言ってください」という質問に答えると、ちゃんと認識できた場合には機械が電話番号を教えてくれるが、認識できなかった場合にはオペレーターに代わる。この前半の「機械が応答」の部分をTellmeがサービスとして提供しているのだ。

 具体的にどのくらいの割合の問い合わせが自動応答で処理できているかの数値は公表されていないが、Tellmeによると番号案内に来る問い合わせの8割が上位100件の番号に集中しているため、その100件分の認識率を上げるだけでも、かなりの割合をTellme側で処理できてしまうそうだ。電話会社からすれば、その分オペレーターの人件費を節約できる、という仕組みである。

 こんなサービスをウェブ・サービス・ビジネスの黎明期に思いついてきちんとビジネスとして成立させてしまっただけでもTellmeの連中は偉いが、実は認識率を上げるためにTellmeがしていることが興味深い。認識を失敗したケースのデータをちゃんと蓄積して、それをデータベースに反映させているのだ。

 例えば、電話をかけてきた人が渋谷の駅前のスターバックスの電話番号を知りたかったとしよう(実際のサービスは米国で提供されているので、これは例え話である)。「町の名前を言って下さい」という質問に「渋谷」と言わずに「ハチ公前」、「番号を知りたい企業」という質問に「スターバックス」と言わずに「スタバ」と言ったとしよう。その場合は、「ハチ公前」、「スタバ」のいずれかがデータベースに登録されていないと、機械(正確にはサーバー側のソフト)には処理できない。そこでオペレーターに転送され、「ハチ公前って渋谷のことですね」などの人間同士の会話の結果、目的の電話番号が返されるのだ。

 興味深いのは、こういった「認識に失敗したケース」におけるユーザーの声の録音データと、最終的にオペレーターが返した電話番号の両方がペアリングされてがTellme側にデータとして蓄積される仕組みになっている点である。そのデータを利用して、Tellmeは、「スタバ」は「スターバックス」として認識した方が良いこと、「ハチ公前」は「渋谷」として認識した方が良いこと、などをデータベースに追加して行くことができるのである。

 こんな形でのサービスを創業以来続けているTellmeには、すでに膨大なデータが蓄積されており、今でも毎日のように蓄積を続けている。VoiceXMLのテクノロジーそのものは、音声認識のソフトさえどこからかライセンスしてくれば誰でも簡単に作れる(実際、Tellmeも音声認識のソフトはNuanceからライセンスしている)。しかし、毎日何十万件の番号案内を処理しながら蓄積しつづけているTellmeのデータベースは、実際に何十万人のユーザーを抱えていない限り不可能であり、それが参入障壁となっているのだ。

 ちなみに、業界のうわさではTellmeの上場も近いらしい。YouTubeに代表される、「いかにもWeb2.0な企業」ばかりが注目を集めているが、こうやってしっかりとしたビジネスモデルを持って着実に企業価値を高めているネット企業もいることを忘れてはいけない。 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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