前回、「ソフトウェアを『デバイスの呪縛』から開放された時代を実現する」のが私の夢だと語ったが、もう少しその意味するところを考えてみよう。
ごく最近「Final Fantasy XII」というゲームが発売されて話題を呼んだが、このゲームがPS2用に作られており、WindowsパソコンやGame Cubeでは遊ぶことが出来ないことは、ゲーム好きの人たちにとっては「常識」である。それでもこの広い日本のどこかには、Game Cubeしか持っていないのに間違ってこのゲームを買ってしまった人もいるだろうが、そんな人を多くの人たちは「常識がない」、「買う前にパッケージを見ればPS2用だと書いてあるんだから、ちゃんと見なきゃ」と笑うだろう。技術者ならば、「PS2とGame CubeではCPUもOSも異なるのだから、同じソフトウェアが動くはずがないじゃないか、だからシロウトは困るんだ」と言うかもしれない。
しかし、私はこれは決して笑い飛ばして良いような問題ではないと思う。消費者の立場からすれば、「音楽CDはソニー製のCDプレーヤーでも、パナソニック製のCDプレーヤーでも聞けるのに、なんでゲームはだめなの?」と言い返して当然のことなのである。批判されるべきは、そういった互換性のないハードウェアを作っているメーカー、特定のハードウェアでしか動かないソフトウェアを作っているゲーム会社なのである。この世の中にCPUやOSが複数ありそれぞれに互換性があるかどうかなどは、作っている側の問題であり、その問題を消費者に押し付けるのは間違っている、と考えるべきなのである。
この「デバイスの呪縛」は互換性の問題だけにとどまらない。パソコンを使いこなす人たちにとっては、パソコン上でアプリケーションを走らせるときには、ソフトウェアを「インストール」しなければならないことは「常識」である。彼らにとって見れば、Microsoft Powerpointで作ったファイルはPowerpointがインストールされているパソコンでしか開くことが出来ないのは「当然」である。この業界で働く私達の誰もが、パソコンに慣れていない家族が、「ねえ、なんかこの添付ファイル開けないんだけどどうして?」と苦しんでいる時に、「あたりまえじゃないか、このパソコンにはPowerpointがインストールされていないんだから」と言ってバカにする、に近いような経験をしたことがある人が多いはずだ。
しかし、これもエンジニアの「常識」を一般の消費者に押し付けているだけのことなのである。普通の人たちにとっては、なぜPowerpointのファイルがあるパソコンで開けるのに別のパソコンでは開けないのか全く理解できなくて当然である。彼らの立場に立ってみれば、「うちのテレビでは、野球番組だって、料理番組だって、ニュースだって、チャンネルをひねるだけで見れるのに、なんでパソコンはこんなに分かりにくいの!インストールって何?」である。
こういった問題を、「消費者に常識がない」と消費者のせいにしたり、「もう少し勉強してからパソコンを使って欲しい」と消費者に負担をかけて解決しようとするのは間違っている。それよりも、ムーアの法則により安くなったハードウェア、ネットインフラの充実によりユビキタス化しつつあるネットワーク、そして、進化しつつあるウェブ・アプリケーションの技術を最大限に活用すれば、「どこでもどんなデバイスでも動き」、「インストールなど不要な」アプリケーションをサービスとして提供できる時代が実現できるはず、と私は思うのだ。
それが実現できれば、どんなアプリケーションでも「テレビのチャンネルを代えるのと同じぐらいの容易さで」走らせることが出来るようになる。それが実現した時が、アプリケーション・ソフトウェアが「デバイスの呪縛」から開放された、パーベイシブ・ウェブ・アプリケーションの時代の到来である。
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