そもそも私がWindowsに代表されるリッチクライアントのアーキテクチャに疑問を持ち始めたのは、Windows95の開発の後半戦において、その時点で既に膨大な数があった既存のアプリケーションとの互換性に大いに悩まされたからである。
既存のアプリケーションとの互換性を保つことの難しさは、オペレーティングシステムなどのシステムソフトウェア開発をしたことがあるエンジニアの方なら理解していただけると思うが、既に市場に何十万種類のソフトウェアが流通している上に、マシンのオペレーター(つまりユーザー)が必ずしもパソコンのことを理解しているとは限らないWindowsの場合、その難しさは筆舌に尽くし難いのだ(色々と面白い体験談もあるので、それに関しては後日どこかで書きたいと思う)。
そんな苦労を日々繰り返していた私の中に持ち上がってきた疑問は、「Windowsのアーキテクチャって少し複雑に作り過ぎてしまったのではないか?そもそもアプリケーションプログラムをパソコンにインストールしてから走らせる、なんてことをするのがシステムを不安定にする原因になっていないか?」というものであった。特に当時は、サードパーティにシステムソフトウェアの一部(DLLファイル)をアプリケーションと一緒に再配布することを認めていたために、アプリケーションをインストールする順番によって誤動作の仕方が異なったりという、悲惨なことになっていたのだ。
別の言い方をすれば、ユーザーが「アプリケーションをインストールする」という作業をするためにシステムの状態が少しずつ変わっていくのである。それも、インストールするアプリケーションや、インストールする順番によってもその変化の仕方が少しづつ異なるのだ。その結果、世の中に何千万台とあるパソコンは、例え同じバージョンのOSが搭載されていようとも、皆それぞれ少しずつシステム構成が違うのである。
そんな複雑なシステムを安定して動かし、既存のソフトウェアの互換性を保ち、かつ、セキュリティホールが無いように作るなどそもそも人間には不可能なのではないか、というのが今の私の正直な気持ちである。わずか数十人で作ったWindows95をリリースすることでさえあれほど大変だったことを考えれば、何千人が関わっているWindows Vistaをリリースすることがいかに大変かは想像を絶する。
そんな私だったからこそ、NetscapeのMarc Andressenによって書かれた「Netscape One」というウェブ・アプリケーションへのシフトの重要性を訴えるホワイトペーパーを読んだ時には、心底納得してしまったのである。Microsoft内部にいながら、シリコンバレーのベンチャー企業Netscapeのヴィジョンにとことん惚れ込んでしまったのである。
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