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    政府の審議会を、ニコ動で放映せよ・・・という、東浩紀さんの「一般意志2.0」を読んで(後編)

    2011-12-25 23:00:00

    プロフィール

    村上敬亮

    長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 商務情報政策局の村上敬亮氏が、日本の情報産業がさらに発展していくための課題や可能性について語ります。
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    3.処方箋


     


    (1)全審議会をニコ動で放映せよ


     


      さりとて、実際には、東さんは、そんなに難しい処方箋を提示しているわけではない。 


     「政府のあらゆる審議会や検討のオケージョンを、ニコ生等で放映せよ。」 言い換えれば、そういう極めて単純な提言を、とりあえずの結論として、置いている。


     この気分、個人的にはよく分かる。現に、経済産業省の多くの審議会も実践を始めている。全く賛成だ。もっと言えば、普段の議論の多くも実況中継して良い。むしろもっと聞いて欲しいくらいだ。


     


     もう少し、東さんのイメージを正確に引用しよう。





    •     すべての省庁の審議会や委員会を、あるいは法案条文作成の模様を例外なく中継する徹底した可視化国家。


    •  政治家と官僚と学者が集う会議室には必ずカメラとスクリーンが用意され、議論は全てネットで公開され、他方で室内には、数千数万の聴衆の反応を統計的に処理し、タグクラウドやネットワーク図で映像化してダイナミックにフィードバックするモニタが用意されたインタラクティブな政府。


    •  特に気負うことなく、ただだらだらとUstreamやニコニコ動画の画面を立ち上げ、中継画像を見てコメントを打ち込むだけでそのつぶやきが回り回って政策審議の行方に影響を及ぼす。


    •  ひきこもりたちの集合知を生かした新しい公共の場。熟議とデータベース、小さな公共と一般私費が補い合う社会という本書の理想は、一つにはそのような制度設計を目指している。

      実際、東さんも書いているように、政府の意志決定は、「地滑り的」にこうなっていくだろうと思う。何より、公開されているという安心感を国民に提供することなく、議論を進めることは、もはや、政府にとって不可能になりつつある。


     


     しかし、贅沢を言えば、今、日本政府に下すべき処方箋は、本当にこれだけなのだろうか?せっかく東さんにここまで書いてもらえるなら、更に、その周りで起きていることへの目配せや分析は書いてもらえなかったのだろうか。この本に対しては、そんな贅沢な空振り感が、僕にはある。


     


     


    (2) 語り部の育成


     


     正直なところ、これまでも、政府の意志決定は、マスコミや業界団体を通じて、相当程度、利害関係者にはリアルタイムに中継されてきた。ただ単に、それを一般が関心を持たなかったか、持つ必要が無かったか、どちらかだったのではないか、という気がする。意志決定と言うものは、さほどに閉鎖的にできるものではない(安全保障系は例外)。今後、ニコ動などへの公開がある程度不可欠だと思う僕でさえ、これまでを振り返ると、そんな実感がある。


     


     では、一体、何が変わってきているのか。


     


     今、僕らにニコ動やUstreamの力が必要な理由としては、現にITがそれだけの力を持つようになってきたということがある(逆に言えば、「タグクラウドやネットワーク図で映像化してダイナミックにフィードバックするモニタが用意」されるようになるには、もう少し時間が必要なような気もする)。


     しかし、もっと大事なことは、窮乏化し引きこもった若者達との断絶を縫合するためには、これしか手段がないということだ。だからこそ、ITに頼る必要がある。そういう単純な世代間の問題が、やはり、この問題の背景にあるように思えてならない。


     


     エネルギー問題しかり、社会保障問題しかり、TPPを通じて議論されている農業、就中農地問題しかり。いずれも、将来世代との資源配分についてもめている事項である。しかし、自分の確立した保守的な特定世代が、「国のために」と称して自分達の視点からのみ議論しているように見える。だから、進められている議論にリアリテイが湧いてこない。今話題になっている政策には、そういう構図に陥りやすい課題が多い。


    なればこそ、オヤジの一人芝居など、ただ滑稽なだけで、若者世代や、女性などを巻き込んだ議論を惹起する必要性がますます増している。そのためには、従来のメデイアや政治的代弁の仕組みではリーチが届かない。ニコ動やUstreamの活用といった発想が欠かせない。本書の背景には、そういう実態的な課題があるような気がする。


     


     ITが一般意志を見える化する。この命題はとても魅力的だ。僕自身、スモールワールドネットワークをはじめとするネットワーク理論の信者(?)でもあり、是非、そうあって欲しいとも思う。ただ、今、ネットに全てを公開するだけでは、一般意志は目覚めてこない。何かを起こすほどに盛り上げるには、まだ不十分な気がする。それを100%現実のものとして議論するには、まだ少し、技術の面からも、ネットの向こう側の慣れや知見の積み上げという面からも、早すぎるのではないか。それが、行政の現場にいる僕の実感だ。


     


    政治の危機の本質は、社会が複雑になりすぎて熟議への参加コストが高くなりすぎてしまったことにある


     


    東さんは、こう指摘するが、おそらく、社会が複雑になりすぎたから、熟議への参加コストが高くつくようになったのではない。単に、熟議に参加してもフェアなオチが期待できなくなったから、参加しようとしなくなった、ということだろうと思う。


    複雑だからコストが上がったのではなく、世代間や異なる社会セグメントの間の対立を紡ぐ「場」が提供されなくなったから、オチがつかなくなったということである。


    (結果的には、「参加コストが上がった」とも言えるとも思う。東さん自身も、別の箇所では、「政治の危機の本質は、・・・単純に人々がもはや政治を欲望しなくなった」とも記載している。)。


     


    物事、つめていけば、今でも、ほとんどの政策課題は、案外、単純化できる。妖怪のようになってしまった国際的な金融市場の世界はさておき、そこからある程度独立性を保てる分野に関して言えば、決して、今起きている問題は、そう複雑ではない。仮にそう見えるとすれば、単に議論不足なだけだ。僕にはそう思える。


     


    単なる感情論ではなく、知る意欲と考える意欲を持つ方になら、相当程度、色々なことは分かってもらえるし、その現状認識をシェアできさえすれば、案外、意見の集約も可能だ。行政の現場にいても、一番切実なのは、その現状認識をシェアする場や手段がないということである。


    知識を共有するための機会が無い。大きな政策課題になればなるほど、相当幅広い知識をベースに、単純なフレームをくみ上げていく必要がある。なのに、多くのプレーヤーが、自らの断片的な知見と専門性に基づいて、互いに相手の知見を吸収する前に、相手を非難することに終始している感がある。これは立場の多様化の問題ではない。やる気の問題だ。


    その初歩的な、知的スタンスの誤りに、日本の国力が低下しつつある原因があるのではないだろうか。僕の周りには、最近、そんな現場がたくさんある。時間はかかるかもしれないが、結論を共有しようという意志さえあれば、議論はできる。結論もでる。


    仮に、今、意見の集約が不可能な話があるとすれば、それは、少なくとも今その瞬間、参加している人に結論を共有する気が無いからだ。僕にはそう思えてならない。切迫感の欠如。そういうことではないかと思う。


     


    だからこそ、僕は、公の場に、事実を、今起きていることを、いかにわかりやすく、専門家でない人にも分かるように喋れるか、その語り部の確保が極めて重要になっているような気がする。そして、それを専門的な見地からの解釈論ではなく、普通の日本語の問題として語り合える論壇の復活が必要なんだと思う。


    これまでのおきまりの知的フレームワークに頼らずに、素直な言葉で問題を語ることができるか。池上彰さんが、高校生向けに資本論を読み解く作業をされた本を読んだときにも、強くそのことを感じた。前書き的に、池上さんも、資本論というややもすればバイアスのかかりがちな本を読み解くに当たっての注意を、繰り返し繰り返し書かれていたのが印象的だ。


     


    知的伝統から離れて、知的伝統を見直す作業がいる。その語りが、ネットを通じて踊り始めたとき、日本は、もっと、狭く濃密な、スモールワールドへと進化を遂げていくことができるのではないだろうか。そんな世界が実現できないものだろうか。


     


    もちろんである。東さんの提言する、あらゆる政策機会のネットへの公開や、そこから得られる全体の空気感の政策への反映は、今すぐ、順に、取り入れていく。これは、もはや当然の流れだ。ITは社会的な意志決定を強化できる。複雑化しているなればこそ、ITが力を発揮するはずだ。


    そうすることによってネットの向こう側(こちら側?)を、もっともっと強くしていくことが必要だ。お互いに、そうしたやり方に慣れていくことも必要だ。その流れに、待ったはない。


     


    そして大事なことがもう一つ。ITという手段だけではない、コミュニケーション能力の総合的な向上が不可欠だ。色々ぐちゃぐちゃ言ってきたが、すごく単純化してしまえば、違う立場の人と上手に議論できるようなスキルアップ。そこに、日本のもう一つの、大きなボトルネックがあるということなのかもしれない。共感力だけでは、世界とは互していけない。対話によって事態を昇華できるという自信が、今の日本人には必要なのかもしれない・・・


     


    (・・・と思いながら、ぱらぱらとニューズウイークをめくっていたら、ご本家アメリカにも、AE(アメリカンズ・エレクト)という、二大政党制への失望と、それをネットで超えようとする動きがあると聞く。政治的多様化、稀釈化の問題を、コミュニケーション能力不足に帰するのは、ちょっと無理があるのかもしれない。・・・) 


     


    (3)ところで・・・:「一般意志2.0」への素直な評価


     


    霞が関の中でも、思想・哲学に関心のある人の間では、本書は既に十分話題だ。エレベーターの中で本を持っていただけでも、「おっ、読んでるね!」。そう言われたこともある。行政機関の中にも、似たような思いの人が潜在的にはたくさんいる。政府の在り方について思い悩んでいる人がいるとすれば、多くの人が、本書と似たような感想を、どこかしら持っているのではないだろうか。


     


    確かに、この本は、正確さや厳密さこそ命と思う専門家からは、厳しく評価されるかもしれない。しかし、引用の正確さや解釈よりも、示そうとしているメッセージで議論して欲しい。東浩紀というプレーヤーしかこの世代に見当たらないから、みんな厳しく言いたくなるのかもしれないが、ここは、本書を前向きに取り上げ、広く議論していくことが必要だ。


     


    東浩紀という現代の知性が、窮乏化した若者の置かれた現状も踏まえて、今、あるべき日本の所作を、大胆に提案しようとしている。テクニカルな議論にも終始せず、感情的な煽動にも陥らないようにしながら、一生懸命、処方箋を語っている。強いて言えば当たり前のことだ。当たり前のことなのだが、しかし、回顧本や反省録が世に溢れ、前向きなビジョンが少なくなっているだけに、こういう本が出てきたこと自体、素晴らしいと思う。


     


    そう、今の日本には、総合的な社会批評が不足している。


     


    本書は、まだどこか、周囲を自分のインナーに誘い込もうとしている。そういう雰囲気がある、と感じる人もいるのかもしれない。しかし、それは東さんの問題ではなく、読んでいる我々自身の問題だ。東浩紀自身を、彼の取り巻きの世界に閉じこもらせないためにも、いつも同じ相手と対談させないためにも、僕等の方から、広く、東浩紀を様々な形で解釈し論評することが必要ではないだろうか。


     


    一般意志2.0を巡る様々な論評を十分読みこなせないまま、3連休の隙間を塗って、不必要に長いエントリを書いている僕に、こんなことを言う資格も能力もないのだろうとは思うが、でも・・・


     


    せっかく、世代の旗手たらんとして、彼が発言しているのだから、まずは、みんなで、東さんを舞台に引き上げようじゃないか。そして、もっともっと、みんなで褒め殺そうじゃないか。


     


    ・・・って、大袈裟すぎるかな。(^_^;;


     


    ・・・っていうか、長すぎるか。(>o<;;


    ※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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