最終更新時刻:2008年7月25日(金) 21時03分

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「アイディアマンの大罪」 〜再びT.レビットの論文から

公開日時:
2008/01/13 11:50
著者:
村上敬亮

   「情報の生産性を起点にして、産業構造/バリューチェーンの組替が起きる。」 前回は、そういうお話をさせていただきました。となると、次は、「じゃあ、その組替は、誰がどこから、どうやって始めるの?」ということになります。

 組替を起こす「最初の一撃」はどこから来るのか。今こそ、そこに一撃を加える創造的な人材が求められる時代。そうなりがちですよね。害悪なのは、既存のラインマネージャーであり、必要なのは、「自由に創造性を発揮するアイディアマン」。今回のエントリは、これが本当かどうか、そこをテーマにしたいと思います。

 社内や周囲を見渡すと、確かに創造的なヒトっています。しかし、そういう人たちが本当に自分で世の中を変えたことって、どのくらいあるんでしょうか?着想は、確かにそうかもしれませんが、それでそのとおりに世の中が変わったことって、どのくらいあります?でも、そうだとすると、それは何故??

 実は、年末にご紹介したT.レビットの論考集(「マーケティング論」有賀裕子、HBR編集部訳)の60年代論文の中に、まさに「アイディアマンの大罪」("Creativity is not enough")という小論があります。まずは、それを簡単にご紹介しようと思います。

 

1.アイディアマンは無責任

 

 なぜイノベーションは稀にしか実現しないのだろうか。最もよく耳にする応え、そして私の見たところ最も罪深い答えは、人々が組織に隷属させられ、創造性を身につけられずにいるというものだ。その主張によれば、産業界が創造性をみなぎらせ、進取の精神に満ちた人材を多数採用してアイディアを披露するチャンスを与えれば、アメリカ企業の問題は全て解決するという。 

 T.レビットは、このような形で本論を切り出します。そして、次のように言う。

 だが、今日の企業組織に多大な注意を払い、そこで働く人々と自由かつ素直に意見を交わせば、必ずや興味深い発見が可能なはずだ。創造性、そして創造性あふれる人材は不足などしていないのである。問題は別のところにある。・・・(中略)・・・

 アイディアを次々と生み出す人々は、たいてい組織をどのように動かせばアイディアをかたちにできるかを知らない。とりわけ前例のない画期的なアイディアを実行する方法を知らず、多くの場合、「アイディアは放っておいてもイノベーションに繋がる」とう理解しがたい考え方に染まっているようだ。このような偏見では、着想とイノベーションは同義語になる。この種の考え方にとりわけ強く毒されているのが、ブレーンストーミングの信奉者で、自分たちの流儀こそが企業を救うと信じて疑わない。

 ずいぶん厳しいなあと思いますが、他方で、とても40年前に書かれた論文とも思えません。確かに、冷静に考えてみると、だいたい自分が思いつくようなアイディアというのは、誰か他の人もいっているもの。ブレストだって上手にやれば、確かに、モデレーターの能力次第で、何かしらの発見はだいたいあるものだと思います。

 例えば、ネットを活用したサービスこそビジネスモデルが勝負って、みんなよく言うし、そう考えますけど、そのアイディアの原型は、だいたいシリコンバレーで90年代後半に語り尽くされていた感のあるモノばかり。そうそう独創的なものなんてあるものじゃありません。

 イノベーションって、冷静に考えてみれば、独創性というより、必然性の積み重ねによるところの方が大きいのではないでしょうか。そして、必然性が積み重ねられるところからスタートしないと、結果として、独創的なことも実現できないのではないでしょうか。

 ヒトが、過去の大人物の何を賞賛しているかを考えてみてはどうでしょう。その多くは、「一撃」となるシーズへの着想ではなく、それを実現するためにリスクを背負い苦戦する苦闘プロセスそのものであることが圧倒的なのではないでしょうか。

 

2.規律の必要性

 

 日々激務に耐える幹部社員は新しいアイディアに拒否感を示す可能性が高い。大きな重圧を課せられた人々は、既存事業を円滑に動かしていくことを主な責務と捉えている。 ・・・(中略)・・・現状の変革に繋がる提案に及び腰になるのも、無理からぬことだろう。・・・(中略)・・・自分の提案に関心を向けてもらうには、提案を受ける側、つまり上司に当たる人々がリスクや失敗についてどのような見方をしているのか押さえておく必要がある。

 確かにそうなんだと思います。加えて、長い間、「出る釘」にならないように慎重にキャリアを歩いてきた人たちがトップの地位についている場合、今更新しい姿勢を身につけるのが難しく、どうしようもし難い人が上司になってしまう場合が多いのも事実です。そして、「理想のトップがいないから、独創性が活かされず、我が社が競争力を失う」、そういう誤解に発展します。

 しかし、ここで僕が敢えて「誤解」と申し上げるのには理由があります。

 「最初の一撃」として意味があるものであろうとすればするほど、含蓄の深いアイディアとなり、あるいは組織業務手法を変える必要が大きいモノになる場合が多い。その結果、意味のある提案であればあるほど、結局は、トップ一人、もっと言えば、その組織だけでは、所詮変えられない。そもそも、意味のある提案であるほど、組織のトップはもとより、上司が沢山介在する提案となる。しかし、関係する上司が全て理解があるということはあり得ない。

 これらは、とても普遍的な現象であり、トップのリーダーシップ不在だけを嘆いても、何も問題は解決しないと思います。T.レビットは次のように言い切ってしまいます。

適応性とは違って、創造性は組織に似つかわしくないよう見える。・・・(中略)・・・創造性を重んじるべきだとする人々は、その主張を隠れ蓑にして本当は組織という概念を攻撃しているのである。 ・・・(中略)・・・ワンマン経営者が率いる小規模企業のほうが多くの場合、大企業よりも活気に溢れ革新的なのである。経営者が一人で切り盛りをしている以上、その直感や独断によって企業の方向性が決まるケースが多く、組織は無いも同然なのだ。 

 「ほらみろ、だからベンチャーだ」、次に、そういう声も聞こえてきそうです。確かに、この論文は、本格的なベンチャーブームの前に書かれたものであります。しかし、今、T.レビットに聞くと、「あれは間違っていた」と言うのでしょうか。僕は、あまりそういう感じはしません。

 実は、個人的に、在米時代、多くのベンチャー企業やVC、投資家の皆さんと一緒に勉強させていただいたことがあります。その時に強く感じたことが、ベンチャー企業は、実に様々な組織に取り囲まれて仕事をしているということです。

 確かに、ベンチャー企業内部には、組織も規律も余りありません。しかし、アーリーステージの企業にはアーリーステージなりに、怖い投資家がついていますし、成長段階を上り始めれば、様々な投資家、法律家、会計の専門家から取引先まで、実に様々な関係者とのつき合いが発生してきます。そして、より大きな変化を目指そうとすればするほど、より階層レベルの高い投資家やビジネス支援の専門家にトライしていかなければならない。その現場を僕はつぶさに見てきましたが、正直、大企業の役員会の方がまだ楽なのではないかと思うことがしばしばでした。

 結局、大きな市場や社会を動かそうとすれば、個人一人ではどうしようもありません。多くの関係者を動かそうとすれば、その関係する一人一人に、そうしなければならない動機付けを与えることが必要になります。「組織」というのは、そもそも、そういう動機付けに要する社会的コストを下げるために編み出されたモノ。企業の内外を問わず、その動機付けの構造が設計できない限り、現実は何一つとして変わりません。T.レビットは、続けてこうも言います。

往々にして誤解されているようだが、事業運営の手法や方針を大きく転換しても、組織の大変革が求められるわけではない。大組織は、少なくとも短期的に進む方向や組織を180度変えるのは不可能で、これがむしろ強みだとも言える。 

 そもそも、大企業同士の中にも、これが同じ企業かというくらい、実に様々な組織があります。一度組織を選ぶと、なかなか組織の選び直しが効かないといった組織選びにおける情報の非対称性の問題は別途あるかもしれません。が、それが故に、一度入った組織に不満だけぶつけ転職したところで、そう革新的に事態が改善することは少ないだろうと思います。つまり、どこに行っても、本質的な環境は余り変わらない。

 「組織」をゼロから作り直しながら、大きなことに取り組む、もちろん、そういう選択肢もあって良いと思います。しかし、全員がそうでなければイノベーションは起きないということは無いでしょう。組織を作り上げるのは、それはもう、ものすごい時間と労力がかかります。費用対効果から言うと、課題が大きければ大きいほど、それは非常に成功確率の低い話になります。むしろ、大多数のヒトにとって、イノベーションとは、既存の組織やネットワークを如何に効果的に活用しながら、実現したいことを一歩一歩前に進めるか、そういうゲームなのではないでしょうか。

 

3.「くれない虫」、「べき虫」 と 日の当たる場所

 

 だいぶ前に、とあるメーカーの方から教えていただいた面白い「社内の害虫」に、「くれない虫」、「べき虫」というものがあります。前者は、「・・・してくれない」、「・・・してくれない」と連呼する虫。後者は、もうちょっとマシで、「・・・・すべき」、「・・・・すべき」と連呼する虫です。そして両者には、以下のような共通点がある。

 ・影でコソコソ動く
 ・じめじめした所を好む
 ・常に安全圏にいて自分からは決して動かない
 ・常に自分以外の問題を探す
 ・強い伝染力を持つ

 「くれない虫」くんと「べき虫」くんには、イラストもあるのですが、オリジナルの著作権者がどなたなのかよく分からないので、引用は差し控えておきます。働き蜂に似せていて、なかなか可愛いですよ。

 しかし、そういわれてみていると、最近は、日本中が「くれない虫」と「べき虫」になっているような気がしますね。「くれない虫」の大繁殖。しかも、その行動態様が、「影でコソコソ」ではなく、おおっぴらにお天道様の下を闊歩しているような気がします。ひょっとすると、日本全体に、お天道様の当たる場所が無くなって、そこら中が、影になり、じめじめしてしまったということなのでしょうか。いずれにせよ、とても困ったことです。

 「くれない虫」や「べき虫」が影に隠れてしまうことになるような日向は、一体どうやれば作れるのでしょうか。

 

     *     *     *

 

 米国で、ベンチャーに日が当たるのは、それを支える膨大な社会的ネットワークができあがっているからだと、僕は思います。もちろんベンチャー自身が頑張るのは当然ですが、それを支える膨大な支援者と社会的仕組みがあって始めて、浮かぶ瀬もあろう、という感じがします。

 自分がベンチャー関係の仕事のお手伝いをさせていただいたとき、非常に印象に残っていることが一つあります。当時は、主として東海岸に拠点を置いていたのですが、その時、彼らが西海岸の人たちを見る時の目線が、日本が米国を見る目線にとても似ていたのです。詳細は、また別のエントリにしたいと思いますが、要点は次のとおりです。

西海岸の方が、ITに関しては、支援するネットワークの階層性が深い。だから、より先まで見通せるし、より幅広いポートフォリオを組み、いろいろなプロジェクトを支援することが可能になる。それは歴史が積み重ねてきたモノで、後発の東海岸は、今からそこには追いつけないんだ。

 当時、僕の付きあっていた東海岸のVCや個人投資家グループは、そう指摘しながらバイオを中心としたポートフォリオに急速に舵を切りつつありました。

 物事を実行する「組織」は、もちろん、今ある商法上の株式会社だけとは限りません。ゼロから作り直しても良い。でも、大きなことをしでかそうとすればするほど、その「組織」やネットワーク作りには、膨大な時間がかかります。

 西海岸の階層性の深いネットワーク構造も、60年代から時間をかけて築きあげてきたもので、いきなり90年代に突如、大ブレークを起こしたわけではありません。その辺は、「ベンチャーキャピタルの実態と戦略」(原題:Venture Capital at the crossroads)という本に大変よく書かれていると思います。MBAでこの分野を選択すれば必ず薦められる本だと思いますが、如何に、VCの世界が、いろいろな波を越えてここまで成長してきたのかが、非常によく分かると思います。

 

     *     *     *

 

 オープンイノベーションとか、創発とか、今の時代を支える「組み替えの最初の一撃」は、むしろ組織を必要とするものの方が多いのではないでしょうか。今ある組織を徹底批判し、ゼロから作り直すことがマストなのでしょうか。特に、「オープン」とか「協創」といったことが強調されると、組織があることが害悪であるかのように見えることがありますが、本当にそうでしょうか。僕は、違うような気がしてなりません。

 むしろ大事なのは、必然性が積み上がっていくような段取りをどう描くか。どんな組織にいようとも、その組織の良いところを使い、悪いところを避けながら、アイディアを実行に移す段取りが描ける能力。

 やらなきゃいけないことって、おそらく案外単純、若しくは、口に出していってしまえば、簡単なことであることがほとんどのような気がするんですよね。難しいのは、むしろ、その段取りの設計。その時に、自分をトップにしてくれればやってみせるみたいなことを言う人も少なくありませんが、では、そういうヒトは、本当に、トップになればそれが実行できるんでしょうか?

 それは自分の仕事ではないが理想の上司がいればできるはずだと思う人も多いのかもしれません。しかし、日本中探して、本当にそんな人が沢山いるのでしょうか。だとすれば、「理想の上司は探してもいない」ということ自体が、実現に向けた最大のボトルネック。それがいないことを前提にどう段取りを描くかが勝負になるのではないでしょうか。

 必然性の連鎖をどうデザインするか。逆に、そのための知恵と工夫に具体性が伴えば、響く上司だって多いはず。組織によってもいろいろと事情は違うと思うので、乱暴には申し上げられませんが、僕は、むしろそう考えたい。

 

    *     *     *

 

 今日は、比較的当たり前の話でしたが、しかし、こんな話を共有、若しくは、再確認するところから始めると、日本の再生って、案外早いような気がします。少なくとも、無駄な話のプロセスを相当すっ飛ばすことが出来る。「くれない虫」、「べき虫」を退治しつつ、そして本当に頑張っている人たちにもっと日の光を当てやすくすることが出来る。そのためなら、一見当たり前の議論でも、何度でも繰り返したらよいと思うのです。

 オープンか、クローズかというサブテーマと一見離れましたが、この問題を議論するために必要な前提の議論につながるような気がしています。次回以降は、もう少し直截に、これらの点に触れていきたいと思います。

 申し遅れましたが、本年もどうぞ、よろしくお願い申し上げます。 

 

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

このエントリーへのコメント

6

ベンチャー経営者の端くれです。自分で何かをしたい、世界を変えたいと思うベンチャー経営者というのは、自分の周りの人やモノをすべて自分のモノにしたい、と思うもので、実績のあるベンチャー経営者ほどそれが強いと思います。(参考:「起業家の本質」、ウィルソン・ハーレル著)つまり組織も、自分の(事業の)ために存在するのであるものなので、どう運営したらいいかという悩みは最初からありません。しかしながら、組織を構成するメンバーサイドから見た場合、会社や事業は自分の自己実現の場であったり道具であるので、そういった彼らの目的をどう組み合わせて事業を成功に導くかというオペレーションは重要かと思います。

  ねっとで会計 on 2008/01/21

5

すいません、結論をお手軽に先取りしようとするところでした。この先の連載とても楽しみにお待ちしていますので、よろしくお願い致します。

  尊仁 on 2008/01/15

4

かなり結論に近いお話ですが、僕は個人的に、尊仁さんご指摘されたような方向性があり得るのではないかと思っています。なんとか探し当てたいものですよね。

  村上敬亮 on 2008/01/14

3

その指摘で面白いと思ったのは金融資本含め流動化、国際化、仮想化がどんどん進んでいったとしても、「仮想的と捉えられがちな」付加価値や「バーチャルな環境」と捉えられがちな創造的環境など含めて地域的属性と密接な関係性があるというポイントでした。
米国との比較で製造業の旧態依然が問われがちな日本の実情に関しても、実は価値転換の方法如何では新しいイノベーション(しかも日本的環境に対応した)があるのかも知れないと思った次第です。

  尊仁 on 2008/01/14

2

「ある種の特産品」って面白いですね。確かに、そんな感じもします。問題は、どう特産品を見つけだし、育てるか、ということなんでしょうか。。。

  村上敬亮 on 2008/01/14

1

国際競争力のロジックのウソに言及した本に(競争というよりは協業と言うべきという趣旨)どんな産業でも地域的なコンピタンスに収斂可能というお話が出てくるのですが、そうするとオープンにしろそれを支えるネットワークにしろそういったものもある種の特産品なのでは?なんていう気もします。

  尊仁 on 2008/01/14

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