IGF3日目が終わりました。会議の成り立ちについては初日に、目立った話題については2日目に書きましたので、今日は、会議自体のGovoernanceや政府の立ち位置について感じたことを書いてみようと思います。
1.発散する会議
この会議、内容的には非常に議論が発散しています。中でも、3日目の午前中に行われたOpennessについてメインセッションは、特に大発散。モデレーターの方の問題もありましたが、「先進国には著作権があるが、途上国には著作権がないから我々は守られない」といった、「じゃあ法律を作りなさい」といったレベルの質疑もあり、エッジの立った議論が出来るような状況ではありませんでした。リテラシーが違いすぎる。
しかし、このリテラシー格差自体が、いろいろなことを考えさせられました。ポイントは、ここにある。
第一に、リテラシーの低さを糾弾するのは簡単なことです。しかし、現実として直視すれば、インターネットが世界をカバーすると言うことは、つまり、こういう現実と戦うということでもあるんだと思います。よくよく考えてみると、この程度の質問、日本でも高校生くらいだったら十分あり得ます。渋谷を街行く若者に聞いてみれば、正直リテラシー的に同じレベルの人は五万といるでしょう。そう考えると、IGFに集まる人には、基本的な問題をきちんと理解してもらうことからねばり強く始める意味もあるかなと思います。
第二に、もっと途上国の主張を真摯に受け取ると、こういう「立法で自由と社会の規律の維持の両立を図る」という考え方自体が、一つのチャレンジを受けているともとれます。
ちょうど、丸山真男先生の「『文明論之概略』を読む」を携行していたのですが、その中に、こんな一説があります。「言語宗旨は存すといえども、その人民、政治の権を失うて他国人の制御を受くるときは、則ちこれを名付けて国体を断絶したるものと云ふ。」 おそらく、途上国の人から見れば、こんな感じなんだろうなあと。これだけでも解説すれば長くなってしまうので、短く書きますが、過去のすべての権力は、立法をしつつその正統性を得ていくプロセスで、自分は暴力以前にある「資格」を持っていたのを暴力が奪ったのだと、必ず主張する。実定法より前に自然法が優先するというのが、自然法思想の上に立つ、正当性の主張ですが、日本をはじめ、ほぼすべての近代国家がこの論議を消化するプロセスをたどっています。
終わってしまえば当然ですが、このプロセスを乗り越えて権力が暴力に基づかずに正統性を行使できるようになるまでには、実は大変なパワーがいる。IGFに参加するアフリカ諸国も、ある意味同じことを今言っているのではないでしょうか。これはこれで面白い論点なので、別途機会があるときにもっと砕いて書きますが、実は、同じ構図は1996年の著作権条約交渉で、今回ご一緒した経団連代表の加藤さんとご一緒してたときにも、感じました。
2.Cooperative Governanceとコーディネーション
本来であれば、こうしたプロセスの調整は、国家権力同士が行うものです。しかし、インターネットは、その調整をあざ笑うかのように、それよりも遙かに速いスピードで、国境を越えた知見の交流という現実を作ってしまう。だからこそ、政府が歴史的にやってきたようなのんびりとした調整プロセスは、待っていられない。ボトムアップで、インターネット文化独自の環境管理を身につけていかなければいけない。
この面でのキーワードは、Cooperative Governance。NHKの今井解説委員が見事なモデレートをされた午後のセキュリティのセッションでこう表現した方がいらっしゃいましたが、うまいこと云うなあと思ってい聞いていました。結局、体制がすべて整うのを待っているような余裕はとても無い。特にセキュリティの問題は、事件を起こす側がすでに国境を越えて活躍をしてしまう。現実には、インターネットはどんどん普及して(というか「つながって」)いってしまうので、体制が整うまではインターネットは使わないでください、とは言っていられない。でも、悪意の人、特にサイバー犯罪などは、そういうところも集中的に狙ってくる。
こうなると、法制度整備やキャパシティ・ビルディング(法制度を動かすだけの能力や人材を育てること)と平行して、個々の事件、この業界ではインシンデントとカタカナでいいますが、個々のインシデントに応じて、個別に協力していくしかない。それが現実なんだと思います。政府間協力(+内政不干渉)などと悠長なことはいっていられず、市民社会同士の切り口、ビジネスレベルでの切り口、CERT/CC同士のネットワークなど、様々な切り口を総動員して、個々の問題に、みんなで対処していくしかない。
インターネットが社会的に有効に使われるかどうかの正否は、その一つ一つのインシンデントに対するコーディネーションがうまくいくかというゲームでもあるんだと思います。協力される側もする側も、誰の権限、誰の仕事などというつまらないもめ事をしてないで、能力とネットワークを既に持つ人を中心に、スムーズに国際間連携を整えていかなくてはいけない。また、これを自らの力や権限を誇示するために使っても絶対にいけない。
この現実を理解しないと、IGFという会議自体も、南北対立の荒々しさが消えてしまえば、なんかつまらない会議だなあといって終わってしまう。インターネットガバナンスに対して政府の関与を強化かすべきか否か、みたいな命題でくるくる回り続けることになる。
3. Multi−Stakeholoderということ
こうした努力を続けていくと、ある意味、「会議のやりとりそのものは退屈」ということになってしまいがちです。しかし、感想がそこで止まってしまったら意味がない。こうした現実を、キャパシティビルディングの段階から含めて、みんなでコーディネートしながら進めていかなければいけない。だからこそ、マルチステークホールダー(複数の利害関係者)による会議という形式で、こうした取組を淡々と続けることに意味があるだと思います。これは、とても大切なことだと思います。
「なんだ官民連携みたいな話か?」いった単純な理解の仕方をされたくない。そんな生やさしい御題とは、ちょっと現実が違うような気がします。今、日本は、こうした努力にフリーライドしているのではないでしょうか。
そういう意味では、経団連団長でIGFアドバイザリーボードのメンバーをつとめる加藤さんや、なぜか日本代表のアドバイザリーボードメンバーであり、かつ裏方に徹して会議を支えているアダム・ピークさん、この世界に巻き込まれながら必死に勉強されてモデレータをされている今井さんといった方々の熱意と努力には、頭の下がる思いです。
日本政府も、総務省を筆頭にIGFを支える努力を続けているわけですが、一個人として、もっと何が出来るかを真剣に考えないといけないなあ、と思いました。なんか、最後のところは優等生的ですけど。また、こうした社会の作り方自体が、一つの壮大な実験だし、そうした事を情飲み込んで会議をする国連というところも、ある意味、いろいろな経験を積んできた懐の深い組織なんだなと思いました。IGF全体のChairをしている国連のDesaiさんも人間的に本当に立派な方です。
ちなみに、最後に一つだけスピーチを紹介します。この方、おそらく、こうした点もよくよくわかりながら、きっとちょっと苦笑いをしつつ、まとめていたんだろうなあと思いました。Opennessのセッションの最後だったのですが、このセッション、TWO IPs (Internet ProtocolとIntellectual Property)が一つのキーワードとなったことまでは良かったのですが、前述の通り、初歩的な「誤解」から意図的な発言までいろいろ混ざってもっとも発散したセッションでした。彼の表現は、この現実をよく直視し、何をなすべきか、簡潔に表現していると思ったので、最後に引用しておきます。
ではでは。
>> MARKUS KUMMER: Thank you, madam chairman. (no audio). Concluding remarks, I will just give a Secretariat's reading of what I heard. And not as ambitious to call it a summary, as that would be very difficult to summarize such a rich discussion. It clearly appeared that openness is a multifaceted and multi-dimensional issue. It's a cross-cutting issue with linkages to the other IGF themes: diversity, access, and security. And it has legal, political and economic dimensions. Several speakers pointed out that there are questions of balance. There is a balance between the two I.P.s, as several speakers referred to. The I.P. for Internet protocol and the I.P. for intellectual property. There is a question of balance between freedom of expression and free flow of information and the freedom to enjoy the fruit of your labor. There is also the question of balance between privacy and freedom of expression. The panel and the discussion gave a strong emphasis on the fundamental freedoms, the freedom of expression, the free flow of information, as contained in Article 19 of the Universal Declaration of Human Rights, and the Geneva declaration of principles and the Tunis Agenda in the WSIS context. It was pointed out that human rights' perspectives should go beyond paying lip service to these universally accepted principles. The observance of human rights should be part also not only for governments but should also be part of the business plan of international cooperation, and it was pointed out that compliance with human rights is a journey rather than a destination. One speaker was concerned that human rights -- that human rights slipped down the Internet governance agenda somewhat, and that issues such as child pornography or credit card fraud, terrorism, are treated as a priority issues, and there should not be an either/or. Solutions to these real problems should build on human rights. The principles that were accepted by all need now to be translated into practical solutions on human rights-based solutions. There was a lengthy discussion on various legal aspects. And as a nonlawyer, I hope the many eminent lawyers in this discussion will forgive me if my reading is not 100% precise. But, again, there was an interesting discussion on the relationship between the two IPs. And it was pointed out that while on the surface there may be a dichotomy, there was no real dichotomy between the two. It was also pointed out that law is always a product of society and reflects common held standards and that laws can be abridged, exceptions can be made, such as in the case of education. It was pointed out that open access to scientific knowledge was an essential -- was very important element in the development process and therefore very important for developing countries. And these movements, such as Creative Commons, were mentioned in this context. There is also a discussion on open standards and free and open source software. It was pointed out that they may lower the barriers of entry and promote innovation. Again, they were seen as important for developing countries. But there was --was not seen as a contradiction between free and open source software and intellectual property. And it was recalled that in WSIS declaration of principle and Geneva declaration and the Tunis Agenda, that both models were seen as equally valuable and both models have their merit. I think I will try to abridge somewhat as we are running out of time. There was also a discussion on what kind of regulation we want, should we have laws or should we have self-regulation. And my reading was that there was general favor for a mixed solution between hard and soft law instruments. With regard to the economic dimension, there was a discussion on market dominance and virtual monopolies and their relationship to openness and freedom of expression. And it was also pointed out that the discussion we had in the IGF had a relationship to discussions held in the World Intellectual Property Organization, such as the development agenda and also in UNESCO, and there, the conventional cultural diversity again was mentioned. The discussion just towards the end actually recalled very much the discussion we had in Athens last year, that the
legislation needs to be adapted to cyberspace. And again it was pointed out that legislation is not something that is taking place outside society, but it needs to reflect the wishes of society and be adapted to what society really wants. I think the chairman in his opening remarks said it is ultimately a political choice of what society we want. And with that, I hand back to the chair, who will make his personal concluding remarks. Thank you.
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