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製造業とサービス業  〜iPodは、ものか? サービスか?

2007/11/05 21:49
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プロフィール

村上敬亮

長年、官の立場からIT業界に携わり、政策の立案、実行をしてきた経済産業省 資源エネルギー庁の村上敬亮氏が、ITやエネルギー、様々な角度から、日本の発展のための課題や可能性について語ります。
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 「製造業とサービス業という区別をすることに意味がない時代がやってきた」。今更感のあるテーマですが、iPod問題を考える上では、面白い論点の一つかと思います。先日参加させていただいた経営情報学会でも、同じ問題が提起されており、「そうそう、iPodにも、もの的側面とサービス的発想と両方があるよね。」と思い出したので、今回は、その視点から、「産業分野横断的なビジネス戦略に弱い日本企業」というお話を書いてみようと思います。

    

 産業分野別に見れば外貨獲得能力が高く国際競争力があるのは自動車、家電(?)といった「ものづくり」分野です。様々な生産性に関する統計を見ても、製造業の優位は明らかです。このため、「製造業は立派だけど、サービス業は今ひとつだ」といった図式が成り立ちやすい。確かに、サービス業の名目GDPに占める比率は21世紀に入って逆転したのに、実質GDP比でみると見事に変化が無く、サービス業が製造業を下回っている状態が続いています(例えばこのあたりを参照)。社会全体のサービス経済化は進んでいるけれども、サービス業の相対価格は高く、生産性が低いのは、各種統計から推測できます。そういう意味で、「サービス業の生産性向上」問題は深刻な課題です(このレポートに、関連データなどを掲載。)。

  

 しかし、日本のサービス業には、本当に問題があるのでしょうか。多くの日本人が外国生活から帰ってきて最初に気付くのは、日本の安価かつ良質な各種サービスではないでしょうか。サービス業の生産性に対する指摘が、安易な「ものづくり万歳主義」を招くと、それはそれで色々と弊害が出てきます(経済産業省自身が一番危ないかも(苦笑))。例えば、商品の機能や中身よりも、売り方やサービスの方に課題があった場合でも、そこを冷静に振り返ってもらえなくなる可能性がある。今後は、サービスと「ものづくり」の融合。それは、ものづくり自身の再生のためにも大切だと思うのです。 

   

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 まずは、需要側、家計側の支出事情をみてみましょう。古い数字で恐縮ですが、こんな統計があります。

   

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 オリジナルの画像データが読みづらくて申し訳ありません。この統計で90年代を見ると、家電製品に対する年間の支出が9万円前後で安定している一方、通信支出が11.5万円へと伸びています。さらに住居・家事・被服・教養娯楽などのサービス支出の合計は31万円となっています。トレンド的には、家電などの消費財に投じている金額が70年代以来最も家計の中で安定的に推移しており、それ以外のサービス関連経費の方が圧倒的な伸びを見せています。この傾向は、実は、21世紀に入っても大きくは変わっていません。

 言い換えれば、家電は、一定の市場規模の中で、似たもの同士でパイの取り合いをしていると推測できるのです。教育費、旅行、外食等が大きいのだと思いますが、サービスに対してはこれだけ支出を伸ばしているのに、ものに対する財布のひもは案外堅い。家計は圧倒的に、住宅及びサービスへ支出のウエートを高めているのです。そうだとすれば、もの売りも、伸びつつある通信やサービスと相互依存関係を強めていく方が、当然優位と考えることも出来るでしょう。これが一つ目の視点です。

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 さて、二つ目の視点として、供給側の事情も見てみましょう。  

 製造業もサービス業化している。そういうフレーズは、最近よく聞くようになってきました。例えば、レクサス・ブランド。レクサスは確かに、自動車というものを売っているわけですが、その米国での売り方は、?需要に対する供給の抑制と枯渇感の演出、?ラグジュアリーな店舗環境、?店舗ブランドと商品ブランドの融合、?徹底したアフターサービスなど、サービスマーケティングに通じる販売法をとっている。車という”もの”ではなく、車の購入検討から利用するシーンやライフスタイルまでのトータルなサービスを提供する業種にシフトしている感があります。

 逆にセコム。これは、一般的にはセキュリティ・サービスなわけですが、実際には、セコムが独自開発した装置を各家庭に配備し、稼働させる作業のウエートが結構高い。もちろん、何かあれば警備員が飛び込んでくるわけですが、その投資の少なからぬ部分は、セキュリティ監視装置の開発・販売にもとられているわけです。冷静に考えれば、かつての松下系列の街の電気屋さんが提供していた顧客サービスも、松下製品に何か起きればすぐに顧客のところに飛んでいったわけですから、松下トータルで見れば、今のセコムと似たような機器及びサービスの一体的提供だったかもしれません。いずれにせよ、セコムは、実は結構、隠れたIT機器製造・販売企業なのです。

 テレビという家電も、本来は放送というサービスと表裏一体です。それはあまりにも当たり前すぎて、一般には、テレビは耐久消費財としか認知されていません。しかし、今後は、テレビもデジタル化が進んで、その気になればテレビ受像器以外にも色々な機能・役割が持てるようになってきています。そこが進歩すれば、テレビと映像ディスプレイの本来持つ違いも、徐々に認知されていくでしょう。変化が楽しみなのは、何も携帯電話だけではないはずです。実際の、今のテレビ自身も、T-Naviやアクトビラ、ポッドキャストへの対応など新しいサービスに一生懸命取り組み始めているとは思いますが・・・。

 製造業とサービス業の切っても切れない事例というのは、今後、こうした形で更に増えていくだろうと思います。この分野では、東大の元橋先生の分析のようなトライはあっても、残念ながらまだ良い統計がなく、実証的に申し上げるのは難しいのが実情です。「セコムならサービス、レクサスなら輸送機械製造」といった今の事業分類・産業分類自体にも大きな問題でもあるので、この辺の整理は、今後の重要な課題になってくると思います。

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 では、三つ目の視点として、我がWalkmanとiPodは、どうでしょうか。

 当然、Walkmanそのものは、「もの」です。でも、その発売時は、iPodと同じく、若しくは、今のiPod以上に独創的でした。僕個人も、あの銀色に光る躯体とオレンジのイヤホンカバーに、当時あこがれたものです。その後、Walkmanは、音楽を聴きながら移動するという新しい生活空間をあっという間に定着させました。そして、CDの売り上げや、国内的にはCDレンタルなどとともに市場を拡げていきました。他の分野の動きにも影響力を行使しながら、ものの力で生活を大きく変えていった、ある種の行動空間を生み出していった、貴重な例の一つだと思います。

 iPodWalkmanに取って代わったのは、それをデジタル化し、PCでの編集や、iTunesというオンラインのサービスと繋げていったことです。そして、スポーツクラブでも、自動車の中でも、どこへでも簡単にパーソナライズされた音楽空間を更に気楽に持ち込めるという生活空間を提案しようとしました。確かに、それはWalkmanが既に試みていたことの延長戦上でしかありません。でも、Walkman以来、機能競争、性能競争に明け暮れてきた類似商品の開発者が忘れてきたことだったような気がします。

 iPodは、新しい音楽空間を生み出すサービスである。既にコメントを頂いたように、確かに、iTunesとの連動が弱いまま日本で売れてしまったiPodに、機能的に見れば、そんなに従来製品との大きな違いは無かったし、それでものづくりのサービス化を語るのも大袈裟だと思います。でも、敢えてそう表現したい。

 実際、事実を冷静に分析すれば、iPodとそれ以外の違いは、

?UIを中心とした僅かなデザインの違い、

?PCに蓄積させたデータに関する著作権上の割り切り、

?Firewireではなくより普及したUSB2.0で良いと割り切ってみた経営者の態度の変化

などで、さほど大きくはないのかもしれません。しかし、それを可能にする動機付けの構造という意味では、やはり両者には大きな違いがあったと、敢えて、教訓的に理解することは出来ないでしょうか。iPodだけで語るのは大袈裟という指摘を甘受しつつも、iPodは、これらの問題を語る、貴重な共通言語になるのではないかと思うのです。

 日本のものづくりの現場は、まだまだ、今ある製品の機能・性能に対する技術へのこだわりがものすごく強い。ITという分野が中心ですが、沢山の企業を回らせていただいていると、どうしもそういう印象が僕には残ります。だから、「製品が形にならないと、そもそも事業化が動き出さない」、「形にならないものは売れない」といった雰囲気がある。でも、大切なのは、ものがどういう機能や品質を持っているかではなく、そのビジネスが生活をどう変えるのか、ビジネスをどう変化させるのか、そういうアウトカム的な部分です(一方で、Wiiのような独創的な商品も、まだ残ってはいますが・・・)。

 そうしようとすれば、製造業も、必然的にサービスマーケティング的な考え方をもっと取り入れざるを得ないはず。実際、アップル社の収益は、iPodという商品単体の性能で売れているのではないと思います。関連製品・サービスとの一体性や、iPodから派生発展していく今後の製品群自体に対する期待感・信頼感が、その利益を支えているのではないでしょうか。そのことに対して、日本企業は、どういう対抗手段を執ろうとしているのでしょうか。

 長いエントリで申し訳ありませんが、次も、もう少しこの路線で、イノベーションの在り方について考えてみたいと思います。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。朝日インタラクティブ および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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