映画「ALWAYS続・三丁目の夕日」を見てこんなことを考えた。主人公の一人、茶川竜之介は、芥川賞を狙って小説を書くが、落ちてしまう。しかし、その小説が雑誌に載ったことで家族の絆を取り戻す。小説を書いている茶川にとって、芥川賞に選ばれることは、一種のステータスシンボルである。現在では、誰が受賞してもあまり話題にはならないが、昭和30年代には、「芥川賞」は文壇にとっては最優秀新人賞とも言うべき存在である。そこに選ばれることは、茶川の人生にとって、自分の今までの苦労が認められ、小説界の「ナンバーワン」になったことを意味する。一方、家族の絆を取り戻すということは、血のつながらない淳之介やヒロミにとって自分はかけがえのない存在「オンリーワン」であることを思い知らされることだ。ただ、この映画の結論はいささか強引かもしれない。というのは、作家としての「オンリーワン」を目指さなければ、比較できないからだ。そこで仕事としての「ナンバーワン」と「オンリーワン」について問いたい。
この「ナンバーワン」と「オンリーワン」論争については「オンリーワンの時代」で論じたことがある。もともとSMAPの「世界にひとつだけの花」(2003年・作詞/槇原敬之)の歌詞から生まれた言葉だ。かつてのように横並びの世界から、自分探しの時代に変わりつつ象徴の歌でもある。しかし、若者が「オンリーワン」を目指すことに批判がある。例えば東大名誉教授の養老孟司氏は「超バカの壁」で
「ナンバーワンよりオンリーワンというような表現は、その部分だけとりあげれば間違いではありません。人間はみんなそれぞれに個性を持っている、独特の人なのだということはその通りです。しかしどうも好きになれないのです。
それは確信の問題です。そもそも個性というのはあるに決まっている。そこに自信があればいちいち口に出すこともない。わざわざオンリーワンだ何だと声高に言うというのはその確信が弱いからこそだと思えるのです。
他人に認めてほしい。だからわざわざ主張をするのです。自己を確立するというけれども、確立するまでもなく自己は初めからあるのです。もしもそれをわざわざ確立したいという人がいるとすれば、確立したいのは実は自己ではなくて、社会的地位なのではないでしょうか。
(中略)
ささいなことで『それは自分らしくない』『それをやると自分ではない』というようなことをいう人は逆に、自分についての確信がないのです。どうもオンリーワンを主張している人は実はこういう側の人のような気がするのです」(養老孟司著「超バカの壁」新潮新書)
僕は、ここから、「負け犬の遠吠えのオンリーワン」という言葉を考えた。つまり、確信がないゆえにオンリーワンに固執すると言うのである。
しかし、「ナンバーワン」は常に、追い抜かれる存在である。そしてほんの一握りの人にしかスポットライトは当たらない。その点で「無謀な野望のナンバーワン」と名づけた。しかし、インターネットで世界がフラット化するとますますナンバーワンを目指すことが難しくなりそうだ。
「個人情報が輸出されるフラット化する世界」を書いたとき、トーマス・フリードマンのこんな言葉を思い出す。
フラットな世界には「代替可能な仕事と代替不可能な仕事の二つしかない」。・・・フラットな世界の最も顕著な特徴の一つは、たくさんの仕事が代替可能になったことだ。
つまり、ナンバーワンを目指していたのでは、たちどころにより低コストの人たちに仕事を取られるので、オンリーワン(つまり代替不可能な)仕事で生き残ることしかできないと言うのである。
一方、精神分析医の香山リカ氏は「貧乏クジ世代」(PHP新書)の中で
「『自分らしい仕事』『本当にやりたい仕事』をいざ見つけようと思っても、そう簡単に見つかるわけはない。ほんとうの意味で『その人でなければできない仕事』に就けている人など、いったい世の中にどれほどいるだろう。
(中略)
そう考えていくと、『その人じゃなければできない仕事』をしているのは、一部のアーティストや松井秀喜選手やイチロー選手などスポーツのスーパースター、あとは一代名人のような職人くらいだということがわかってくる。もちろん、それぞれの職場で『この表は○○さんじゃなければまとめられないよね』『顧客名簿でここまで管理できるのは△△さんだけ』といった“名人”になることはできるが、『天職への転職』志望者が望んでいる『私でなければできない仕事』は、そんなレベルではないのだろう。
2003年、SMAPが「ナンバーワンよりオンリーワン」と歌った曲が空前の大ヒットとなったが、よく考えれば、ナンバーワンなら必死の努力でなれないことはないかもしれないが、真の意味でのオンリーワンほど難しいものはないのではないか」(香山リカ著「貧乏クジ世代」PHP新書)
とここまで、書いてきて、梅田望夫氏の「ウェブ時代をゆく」(ちくま新書)に「高速道路」と「けものみち」という表現があった。
「ナンバーワン」路線はある意味、舗装された道路だ。「ナンバーワン」になる方法は確立されている。一方、「オンリーワン」は、人跡未踏の道であり、自分で切り拓いていかなければならない。ある程度まで、「ナンバーワン」路線を高速道路で進み、大渋滞の前で、「オンリーワン」の「けものみち」に挑むことも可能である。どちらにしても、険しい道であることには違いがないが。
「ナンバーワン」も「オンリーワン」もどちらも大変に難しいらしい。さて、あなたはどちらを目指す?
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