アップルやマイクロソフトの新商品の発表は、イリュージョンの会場に似ている。観客たちは、常に新しいサプライズを求めており、アップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツはこれから私たちに向かってどんなサプライズを披露してくれるのだろうかと今か今かと待ち望んでいるからだ。
しかし、このサプライズにはいろいろ条件がある。イノベーションのジレンマとソニーでも、クレイトン・クリステンセンの言葉で、
「技術進歩のレベルが顧客の実際のニーズと活用能力をはるかに超えると、行き過ぎが裏目に出る。新興企業に、より安く単純で、高機能を必要としない顧客から見れば十分な性能を持つ商品を提供する機会を与えてしまうのだ」(イノベーションのジレンマに陥る優良企業たち)
をあげたが、これはマイクロソフトのWindows Vistaが高機能すぎて普及しない現実を思い出す。しかし、マイクロソフトが企業である限り、絶えず新製品を出していかなければ、収益は持続しない。そのことは、マイクロソフトが大企業になりすぎて、顧客のニーズに合った製品を作り出せないためである。クリステンセンはそれを脱却する方法として、
破壊的イノベーターを相手に巻き返しを図るためには、大企業は子会社を設立し、しかもその子会社に親会社を脅かすほどの自主性を与える覚悟が必要です。(イノベーションのジレンマに陥る優良企業たち)
企業というのは、なぜか大企業を目指すものらしい。はじめは、企業として小さく機動力があった企業も、大きくなるにしたがって、顧客の求めるニーズが幅広くなり、すべてに対応したアプリケーションをつけると、価格が馬鹿高くなる。この時点で、もうすでに顧客の後追いになってしまって、顧客の半歩先を行くサプライズでなくなっている。サプライズとは、顧客が想像していなかったものを出さなければならないのだ。
それは、破壊的イノベーションの法則1と2である。
1.企業は顧客と投資家に資源を依存している
顧客と投資家を満足させる投資パターンを持たない企業は生き残れないため、実質的に資金の配分を決めるのは顧客と投資家である。業績のすぐれた企業ほどこの傾向派が強く、すなわち、顧客が望まないアイデアを排除するシステムが整っている。その結果、このような企業にとって、顧客がその技術を求めるようになる前に、顧客が望まず利益率の低い破壊的技術に十分な投資をすることはきわめて難しい。そして、顧客が求めてからでは遅すぎる。(「イノベーションのジレンマ」)
2.小規模な市場では大企業の成長ニーズを解決できない
破壊的技術は、新しい市場を生み出すのが通常である。このような新しい市場に早い時期に参入した企業には、参入の遅れた企業に対して、先駆者として大幅な優位を保てることが実証されている。しかし、こういった企業が成功し成長すると、将来大規模になるはずの新しい小規模な市場に参入することがしだいに難しくなってくる。(「イノベーションのジレンマ」)
それなら、アップルはどうか。アップルには、ステイーブ・ジョブズという次世代の機器を読む天才的感覚をもったイリュージョニストがいる。そのため、ジョブズを排除した期間は、会社自体が持たなかった。(ジョブズとソニー参照)
「Windows XP」最後の日--Windowsのこれからを考えるという記事の結論部分、
とにかく、Windowsの大幅な変更はますます難しい問題になっているようだ。おそらく、いつかMicrosoftは、Appleがこれまでに「Macintosh」で3回行ったこと、すなわち中身を大幅に変更し、何らかの互換性レイヤを使って、これまでのバージョンとのつながりを維持することを検討しなければならないだろう。(「Windows XP」最後の日--Windowsのこれからを考える)
アップルが3回にわたって内容を変更できたのは、シェアが小さかったという理由もある。つまり、アップルは、マイクロソフトのようなにっちもさっちもいかない巨大企業ではなく、ジョブズの個人商店のようなもので、ジョブズの思い通り、進んでいるかのように見える。しかし、それでも、アップルは企業である限り、マイクロソフトのように巨大なシェアを持つ可能性がある。それは、iPhoneの世界的爆発的シェア拡大により、向かう方向である。アップルはやがて、MacintoshとiPhoneとiPodとApple TVがネットを通じてつながるに違いない。それは、iPhoneはやがてネットサーバーの端末になる(ホームサーバの戦い・第14章)で語ったことでもある。iPhoneが巨大シェアを持てば、それにつながる機器も増える。アップルが大企業になれば、ジョブズのサプライズの魔法が効かなくなるときがくるであろう。ジョブズもまた、ゲイツのように引退するときがくるのであろうか。
しかし、アップルやマイクロソフトは、なぜテレビとつながろうとするのだろう。もちろんホームサーバビジネスは、これからの大きな収益の柱になることだろう。だが、そのことは両社の独自性を失うことを意味する。ぼくは、「アップルとマイクロソフト、家電への擦り寄り方」で、(ジョエル・ブリンクリー著/浜野保樹・服部桂共訳「デジタルテレビ日米戦争?国家と業界のエゴが『世界標準』を生む構図」アスキー)の言葉を引用した。
これらのすべては、もう一つのあまり好ましくない変化とともにやってくる。間もなくテレビとコンピュータの明確な区別はぼやけてくるだろう。それに伴って、コンピュータ世界の病気がテレビ産業にも押し寄せてくるだろう。今までのテレビは、8年から10年、あるいはもっと使うつもりで買われている。そして実際にそのくらい使えた。なんといってもテレビ自体は、30年にもわたってほとんど変わらなかったのだ。しかし、今やテレビはコンピュータのようなものとなり、ほんの2年前に買ったパソコンがすぐに技術的にどうしようもなく古臭いものになるように、テレビも、すぐに古いものとなっていくだろう。新しいモデルはより速いチップ、より大きなメモリ、より高性能なモデム、より拡張性が高いオプションがつくようになるからだ。
(ジョエル・ブリンクリー著/浜野保樹・服部桂共訳「デジタルテレビ日米戦争?国家と業界のエゴが『世界標準』を生む構図」アスキーより/浜野保樹著・はじめに)
そこにあるテレビはすでに、耐久消費財ではなく、消耗品となりつつあることを意味している。
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