少子高齢化の時代の未来図に「介護ロボット」という奇妙な発想がある。確かに、メディアは人間の行動をサポートしてきた。そして、自律型2足ロボットは、このメディアの集大成として考えられることも可能かもしれない。だが、果たして、人間が介在しない介護ロボットが単独で高齢者の役に立つ時代が来るだろうか。むしろ、人間と人間のぬくもりがあってこそ、介護が可能ではないか。
教育の現場でもそうだ。教師は、決してメディアが成り代わることはできないだろう。なぜなら、教え育むという関係には、生徒一人ひとりに対応を変えねばならず、さらに間違っていたら叱るという行為が成り立たなければ進まないからだ。
テレビに子守をさせるということはよくあることだが、言葉をおぼえたての乳幼児をテレビの前に座らせると発育が遅れるという。母親と直接言葉のコミュニケーションの大切さが教育の必要性に大きくかかわっているのである。
「メディアはなぜ孤立化を好むのか」で心理学者の小此木啓吾氏の言葉を引用した。
たとえばいままでの人と人とのかかわりを「二」という数字で表すと、現在の情報機械と人とのかかわり、コンピュータとのかかわりなどは「一+〇・五」つまり「一・五」のかかわりだと私は比喩的に表現しています。
「孤独」ということについて考えてみても、子供がひとりきりになる、あるいはひとりで自分の部屋にこもったりすると、文字通り一人きりで、昔は日記をつけたり本を読むなどしたり、自分の心の中でいろいろなイマジネーション、思考、思索、瞑想をふくらませていく一人だけの時間とか経験がありました。
それが二・〇か一・〇かという心の条件で暮らす時代でした。ところが現代の子供の場合には、父親・母親に叱られると、すぐ自分の部屋に入ってウォークマンに聞き入ってしまう、TVをつけて面白い番組を見る。最近だとコンピュータ・ゲームにふけることになります。いわば情報機械の特徴は、機械ではあっても、そこにはいろいろな人間的な情報がたくさんインプットされていて、それが一つの擬似的な人と人とのかかわりを代行してくれるという意味があります。そこで人とのかかわり以上に面白いインタラクションを経験させてくれます。そのなかに、ほんとうの人間はいないけれど、こうした情報機械と二人でいる、つまり一・五というわけです。(小此木啓吾著「現代人の心理構造」NHKブックス)
そして、僕はこう書き添えた。
このメディアは、人工物だから自分の都合でON・OFFできる特徴がある。メールができなかった時代の携帯電話は、相手の都合を気にしなければならなかった。だが、メールができるようになって、そんな相手の都合も関係なくなる。その瞬間、自分のパーソナルな空間がその分広まったような気分になる。そしてこの友達関係も簡単にON・OFFできる関係となってしまった。
今、ケータイでは直接話すよりもメールが主体で使われている。これにより、会話によるストレスを感じなくてすむからだ。人間関係も間にメディアがはさまることで、ますます「一・五」の関係になっていく。
ロボットという言葉は、カレル・チャペックの戯曲「R・U・R」から生まれた。このロボットの構想をもたらしたきっかけは、電車の労働者からだという。「日本ロボット創世記」(井上晴樹著/NTT出版) によれば、
1924年(大正13)年6月2日付けの英国紙「イヴニング・スタンダード」への寄稿である。それは、「ロボットは、私が電車に乗っている間に生まれた」と始まり、郊外からプラハ市内へゆく電車のなかは満員で乗り心地が悪く、乗車口のところまで人があふれ、その様子は「羊というより、機械だった」と報告している。そのことは強く心をとらえ、チャペックはその状態を見ながら、「人間は個性をもった存在ではなく、機械ではないか」と思いついた。車中でずっと、「働くことはできても、考えることはできない人間に、何という名をつけたらよいか」と頭をひねった。「この概念は」とチャペックは書く、「ロボットというチェコ語の言葉に表現されているのである」
現代社会でも、サラリーマンたちの通勤風景は84年たっても変わらない。違っているといえば、誰もがケータイを覗き込んでいる風景だけだ。まるでロボットたちの次の行動プログラムがケータイ画面に映し出されているかのように。
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