最終更新時刻:2008年7月25日(金) 21時03分

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ジョブズとソニーBiPodとウォークマン

公開日時:
2008/01/22 14:52
著者:
mugendai

@ジョブズ氏とソニーのもうひとつの接点・前刀禎明氏

It media「MacBook Airの秘密に迫る」にこんな文章が載っていた。

 一時、日本のアップルの「顔」となっていた前刀禎明氏をご存じだろうか。前刀氏は同社の元取締役で、米アップルのマーケティング担当バイスプレジデントも兼務していた人物だ。
 4年前の2004年3月、その前刀氏がアップルに入社するため、スティーブ・ジョブズCEOとの最終面接を受けたときに、ソニーの薄型ノートPCを見せて「日本でMacを売るにはこのような製品が必要だ」と訴えた。
 これに対して、当時のスティーブ・ジョブズ氏は猛反対。「そんなのダメだ!」とバカにしていたのだという。当時アップルのPCに対する基本コンセプトは“オールインワン”だった。本体がどれだけ薄く、軽くても、そのノートPCには光学ドライブが搭載されておらず、ポートの数が限られており、当時のPowerBookと比較して単体での拡張性に劣っていた。これが、当時その提案が受け入れられなかった理由だという。
 前刀氏がジョブズ氏に見せたというVAIOは、「PCG-X505/SP」。バイオノート505エクストリームのソニースタイルモデルで、重さわずか785グラム、最薄部9.7ミリ(後部は21ミリ)のモバイルノートPCだ。
 ジョブズ氏の基調講演では、MacBook Airの薄さを強調するために、比較対象としてわざわざソニーを選び、米国での現行最薄モデル「TZ」シリーズ(日本でのtype T)を選んでいたが、これは前刀氏によるプレゼンの印象が強く残っていたからかもしれない。
 ジョブズ氏は、彼自身が大のソニーファンであることを公言しているし、日本で薄型デスクトップPC「VAIO type L」が出荷されたときも、真っ先にカタログを送ってくれと頼んだという逸話で知られている。

 前刀氏は、なぜわざわざジョブズ氏にソニーのVAIOを見せたのか。それは、彼がソニー出身だったからだ。
 そこで前刀氏のことを調べた。たとえば、CNET Japanでは、小池聡氏がインタビューした、「“iPod旋風”の極意は心に深く突き刺さる前刀流マーケティングにあり」前編では、前刀氏がソニー入社の動機が語られる。

前刀:大学は文系の学科が苦手で理工系に進んだんだけれど、その時は世の中的に情報工学、情報処理技術者とかが流行っていた時代で、今後は有望だろうと思ってコンピュータのサークルにも入りました。でも、いきなり嫌いになったんだよね。
 「コンピュータはつまんない」って思っているうちに、全く別の分野で日本が誇る歴代の創業者にものすごく興味を持った。それこそ本田宗一郎さんや松下幸之助さん、井深大さんや盛田昭夫さん――。そのほか国内に限らず、世の中の経営者全般に興味が傾いていったんだ。
 それで「いつか自分で会社を作ろう」と思いつつ、まずは尊敬する創業者のいるソニーに入った。その頃のソニーはまだ井深さんも盛田さんもいらっしゃったので、創業者のいる会社はすごく魅力的に映りました。かつ、他のエレクトロニクス関連企業と比べてもすごく自由闊達といった雰囲気があった。
 その中で、これはどこでも話すんだけれども、井深さんがソニーに社名変更する前の東京通信工業株式会社設立の際に書かれた「設立趣意書」というのがある。その中にいろんなフレーズが書いてあるんだけれども、「他社の追随を絶対許さざる境地に独自なる製品化を行う」というワンフレーズがあって、これが強烈で今でも僕はめちゃくちゃ好きなんだよね。
 そういう“ソニースピリッツ”にものすごく惹かれてソニーに入って、その後30歳になった時にベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社に転じ、そこで勉強というか修行というか……。(「“iPod旋風”の極意は心に深く突き刺さる前刀流マーケティングにあり」前編)

 事実、前刀氏は、平成18年の丸の内ビジネス人勉強会でも語っている。

 マーケティングの3つの構成要素は、個人の成長にもあてはまります。個人の場合は、「セルフ・ブランディング」「セルフ・イノベーション」「セルフ・モメンタム」ですね。特にイノベーションを続けることは、個人の成長にも大事です。ソニーの設立趣意書の中で、最も好きな言葉は、「ソニーとSONY」という本でも紹介されましたが、「他社ノ追随ヲ絶対許サザル境地ニ独自ナル製品化ヲ行フ」。とても強烈なメッセージですよね。これを今やっているのがiPodです。個人でもこういう気持ちを持って自己革新を続けるといいと思うのです。自分を変える力があればどんどん成長していけます。なかなかできないですが、素直に学ぶ力がすごく重要です。(第17回MBB(丸の内ビジネス人勉強会)平成18年3月22日(水))

 さて、アップルに入ったいきさつだが、「“iPod旋風”の極意は心に深く突き刺さる前刀流マーケティングにあり」後編では、

前刀:実はもう1個別件がファイナルステージまで進んでいた時に、Appleからオファーがあった。「雇われには興味ないし」みたいな気持ちでAppleに職務内容を「マーケティングの責任者ですか」と聞くと、「今回お願いするのは、マーケティングVPであってコーポレートのVPでもある、今までになかった特別なポジション。これを新たに作って、日本を本当にテコ入れしないといけないと思っている」と言うので、話を聞くだけ聞いてみようということになった。それが最終的には3月にスティーブ・ジョブスに会って、彼から即OKをもらったわけです。
 Appleを選んだことの1つには、当時のAppleが駄目駄目だったということもあるよね。僕が最初に買ったパソコン(PC)はMacのSEで、当時は60万とか70万とかしてメモリも2メガしかなかった(笑)。でも僕は、そんなMacを使い続け、知らず知らずのうちに愛着を持っていた。そんなAppleがこのままいくと日本から消えちゃうかもしれない――。
 さらに新たに投入されたiPodも単なるPC周辺機器の1つという位置づけで不発だった。でも、iPod miniが発表されたり、「うまくやればひょっとしたら日本でブレイクするかもしれない」という感覚があって、そこにちょっと、駄目なものを見ると立ち上げたいなという気持ちもあり(笑)。そんな気持ちかな、Appleを選んだのは。そして、日本におけるAppleブランドを復活させたいと思ったんだ。
小池:Appleというのはすごく特殊なブランドというか会社だからね。僕もアンチMS派の牙城だった西海岸にいたから、「唯一の守るべきシンボル」みたいな感覚は分かるな。昔から憎めない愛着のあるブランドだったよね。
前刀:だから、iPod miniをきっかけに大ブレイクさせていくシナリオを、入社する前から考えていた。「やっぱりこれはファッションアイテムだ」というのもあって、バーニーズのディスプレーなんかでも洋服とコーディネートしたのを知っているかもしれないけれど、あれなんか実はAppleに入る数カ月前に考えた話。バーニーズのクリエイティブディレクターに話をして、「今度ひょっとすると面白い会社に入るので、ぜひ一緒にやりましょう」ってすでに仕込んであったんだ。
 あとはiPod miniを常に必ず5色持ち歩いて、ターゲットは女性だろうなっていうので、いろんな女の子に見せて反応を見ていた。やっぱり最初の反応は「かわいい」とか「何、これ」というのがほとんど。「実は、これ音楽が聞けるんだよ」っていう話をすると、みんな「ええ?」ということになって、さらに「1000曲も入るんだよ」ってたたみかけると、「ええ? すごい!!」ということになる。
 これでファッションアイテムとして成功することの確信を得て、さまざまなアプローチをしかけていった。
小池:僕らウォークマン世代のことを思い出しても、基本的に女子大生あたりが持ち歩いて、ある意味ファッションの一部みたいなところもあったよね。
前刀:もう1個概念を変えたのは、当時、Appleの人間が「iPodは液晶ディスプレイのリモコンが付いていないから売れないんですよ」と、本体をかばんの中に突っ込んでリモコンで操作するスタイルを想定していた。でも僕は「違う。これは片手で操作できるクリックホイールという極めて優れたインターフェースがある。これを手に持って、カラフルだし、人前でその使用感を自慢して見せて聞くものなんだ」という意識改革をした。だからまさに、むしろ本体を見せることにフォーカスした。iPod miniの実物大のプラスティックカードを渋谷の路上に貼ったアプローチなんかは、日本オリジナルのものだったんだよね。

Aソニーが持っていた意識改革の伝統

 前刀氏の発想の元には、ウォークマンの下地がある。というのは、当時は録音機能のないカセットプレーヤーは売れないという固定概念があったからだ。「ソニー自叙伝」(ソニー広報センター/WAC)にこうある。

 アメリカへの出張を控えた井深が、ある日大賀に持ちかけた。
「また出張なんだが、『プレスマン』に再生だけでいいからステレオ回路を入れたのを作ってくれんかな」プレスマンとは、1977年に発表された小型テープレコーダーで、モノラルタイプとしてはかなりの小型化に成功し、手のひらに乗る大きさだった。大賀は、すぐにテープレコーダー事業部長の大曽根幸三に電話をして、その旨頼んでみた。
 大曽根は二つ返事で承知し、プレスマンから録音機能を取り去り、ステレオ音を聴けるように改造した。ちょっと不釣り合いだが、有り合わせのヘッドホンをつけて、数人の技術者たちと音を聴いてみた。なかなか良い音がするではないか。大きなヘッドホンをつけた小さなプレスマンとは妙な代物ではあったが、大曽根たちがここをこうしたらああしたらと格闘していると、その仕事場にふらっと井深が現れた。
「大賀さんに頼んでおいたけれど、連中やってくれているかいな」
 この時に限らず、井深は社内でどんな研究開発が進んでいるのかを知ろうと、いろいろな職場にふらりと現れるのが常だった。
 改造版プレスマンを取り上げて、言われるままにヘッドホンをつける。
「ほー、小さいくせに良い音が出るじゃないか。そうだよ、本当に良い音を聴くには、無駄なく音を拾うヘッドホンがいいんだよなあ」
と嬉しそうに言った。1952年、アメリカのオーディオフェアで初めてバイノーラルを聴いた時の感動が、井深の中に蘇った。
(中略)
 いろいろハプニングはあったが、改造版プレスマンは帰国後もすっかり井深のお気に入りの様子だ。録音機能もなく大きなヘッドホンがついたままのそれを持って、井深は盛田の所へいった。
「これ聴いてみてくれんかね。歩きながら聴けるステレオのカセットプレーヤーがあったらいい、と思うんだが」
 盛田は借りて週末に自宅で試してみた。盛田も気に入った。
「井深さんの言うとおり、確かにスピーカーで聴くのとは違った良さがある。しかも持ち運びができて、自分一人だけで聴ける。こりゃなかなか面白い。これは、ひょっとするとひょっとするぞ」
盛田の独特なビジネスの勘が働いた。
 1972年2月、盛田は本社の会議室に関係者を招集した。事業部から電気・メカ設計のエンジニア、企画担当者、それに、宣伝・デザイン担当者など若手社員が中心だった。何事だろうと、皆緊張気味だった。
 例の改造版プレスマンを手にした盛田の第一声に皆驚いた。
この製品は、一日中音楽を楽しんでいたい若者の願いを満たすものだ。外へ音楽を持って出るんだよ。録音機能はいらない。ヘッドホンつき再生専用機として商品化すれば売れるはずだよ
さらに、盛田は続けた。
「若者、つまり学生がターゲットである以上、夏休み前の発売で、値段はプレスマンと同じくらい、4万円を切るつもりでいこうじゃないか」(「ソニー自叙伝」ソニー広報センター/WAC)

 井深社長の発案で始まったこの販売計画、たまたま開発中だったオープンエアータイプのヘッドホン『H・AIR』と結びつき、名前は『ウォークマン』と決まった。

 「こんなのを作ってくれ」とアイデアを出したのは、70歳を過ぎた井深だった。「これはいけるぞ」と商品化に熱中したのは、60歳に近い盛田だった。年齢にも過去の成功にも捉われることなく、絶えず好奇心に満ちあふれアンテナを張る二人は、新しい商品提案を支持する感性と、何よりも熱意を持ち続けていた

(中略)
 しかし、マスコミの反応は冷ややかだった。新聞はほとんど無視、載せても本当に申し訳程度の記事である。7月1日に予定通り発売したものの、7月が終わってみると、売れたのはたったの3000台程度だった。
「やはり、駄目なのか!」
 だが、宣伝部や国内営業部隊のスタッフたちは、ウォークマンをつけて山手線の電車に乗り込み、一日中ぐるぐるまわって人目に触れさせる作戦を始めた。まずは聴いてもらって良さをわかってもらわないと話が始まらないという声も挙がり、大曽根部隊では4月に入社してきたばかりの企画や管理の若い女性社員に声をかけ、日曜日になると新宿や銀座の歩行者天国へ繰り出した。ウォークマンをつけて歩いては通りがかった人にヘッドホンを差し出し、「ちょっと聴いてみます? 聴いてみてください!」とやったのだ。若者があふれる高校や大学の運動会や文化祭にもよく出向いた。最初はけげんそうな顔をしても、ヘッドホンをつけると、若者の顔はぱっと驚きの表情に変わる。販売側も、特約店にデモテープを入れたウォークマンをつけて店内を歩き回ることを頼み、「ちょっと聴いてみてください」とお客様に働きかけてもらった。良い音を味わってもらうと同時に、ヘッドホンへの抵抗をなくしてもらいたかったのである。必死の努力が続いた。
 こうした草の根の宣伝活動を進める一方、影響力のありそうな有名人にもウォークマンを渡して働きかけた。やがて数人のアイドル歌手が気に入って使う姿が雑誌に取り上げられるようになり、若者の間の憧れを高めるのに一役買った。
 大々的なテレビCMを展開することはなかったが、工夫をこらした広告・宣伝活動が当たり、評判は口コミで広がっていった。発売当初の7月とうってかわって、初回生産の3万台は8月いっぱいで売り切れ、今度は生産が追いつかなくなった。増産につぐ増産で嬉しい悲鳴があがり、品切れ店続出という状態が6ヵ月間も続いた。こんな録音機能のないものと否定的だった販売店から、嘘のように、「早くくれ、早く」とあちらこちらから嵐のような注文がくる。(「ソニー自叙伝」ソニー広報センター/WAC)

 iPodもウォークマンも古い固定概念を壊すことから始まった。そして、それはファッションになる。そうなると、後発のライバルがいくら機能を良くしても、「iPod」「ウォークマン」というブランドの偽者でしかない。つまり、「iPod」「ウォークマン」の伝説はブランド化の道筋なのである。

Bライフスタイルを提案する会社

MacBook Air にはピッタリのマーケットがあるという記事があった。

イメージが重要な業界
スピードが何ギガヘルツとか、どんな機能があるかなんて、ファッションにとってはメじゃない。デザイン、エレガンス、ライフスタイル、それこそが重要なのだ。言い換えれば、本質的で美しいものに焦点を絞り、それ以外のものをすべて削ぎ落とすことが大切なのだ。ファッションやホスピタリティ業界、テレビ番組、その他イメージが重要な業界にとって、MacBook Air はまさにドンピシャリだ。

 実用一点張りの業界よりも形がよければそれでよい。両社はまず形から話が始まる。

 たとえば、僕は「アップル・ソニー・ディズニーの共通点」でこんなことを書いた。

ベータマックスの原点は文庫本サイズのソニーの手帳だった。「映像メディアの世紀」(佐藤正明著/日経BP社)によると

「木原君や、次に開発するビデオのカセットは、せめてこのぐらいの大きさにしてくれないか。そうなれば機器も小さくなり、家庭に簡単に入る」
 この言葉が木原(信敏=ソニー木原研究所会長)の頭から離れなかった。井深の「文庫本サイズのカセット」が、いつしかソニー技術者のターゲットになった。

 最初に「文庫本サイズ」という明確なイメージを提示して、それに邁進させるという方法はジョブズ氏も行っている。

 ある日、設計会議に現れたスティーブは、持っていた電話帳を机の上に放り投げた。「それがマッキントッシュの大きさだ。これ以上、大きくすることは許さない。消費者に受け入れられる限度がそれだ。
 もうひとつある。ずんぐりと四角いコンピューターにはあきあきだ。横長じゃなくて、縦長にしたらどうだ? 考えてみてくれ。」これだけ言うと出て行ってしまったという。(「スティーブ・ジョブズ偶像復活」)

 @で引用した前刀氏の講演会では、

アップルはメーカーと言うよりは、むしろライフスタイルを提案する会社と言えます。

と語っている。確かに、iPodもウォークマンもそれを身につけて街を歩きたいという格好良さがそこにある。

※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。

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