今回は、いささかテーマが大きいので、数回にわたってお送りする。
ネカフェ難民も、ケータイは必需品である。ケータイさえあれば派遣会社からの連絡も簡単だ。
ネットカフェ難民の派遣労働者として働くことに欠かせないツールとして、携帯電話は出発コール(出勤・現場到着報告)・終了コール(勤務終了報告)・新規派遣先の前日確認などに利用されている。
2000年代になって、携帯電話の月々の支払い明細書を電子メールで送付するサービスを実施している携帯電話事業者(NTTドコモの「eビリング」など)があるので、住所不定の人物でも契約時に現住所と身分証で契約を済ませていれば後にネットカフェ難民に属した場合でも携帯電話は維持し続けることはできる(以前は契約住所に支払い明細書の郵便物が届かず返送される場合は利用停止にされ、後に改善されない場合は契約解除)。
ケータイ一本で動かされる点では、IT業界も同じようなものである。とりあえず、家庭(ホーム)は持っているが、ケータイで指示された場所で働き、本社(ホーム)には机がない。本社と派遣会社とはどこが違うのだろう。その意味で、会社に勤めようと勤めまいと、「ケータイホームレス」こそが、これからの日本のサラリーマンの姿となってくる。
その意味では、かつての日雇い労働者とは違う。
あなたは寄せ場という言葉を知っていますか?寄せ場とは日雇い労働の求人が行われる場所で、どこかの街角だったり駅近辺だったりします。職を求める人々は朝早くその場所へ出かけ、手配師と呼ばれる職業斡旋者と交渉して仕事に行きます。
次に釜ヶ崎という言葉を知っていますでしょうか?釜ヶ崎とは寄せ場であると同時にドヤ街でもあります。ドヤとは500円から2000円程度で泊まれる簡易宿泊所のことで、ドヤ街とはドヤが集まっている街のことです。ドヤ街には日雇い労働者たちがたくさん暮らしています。彼らは主に建設日雇い労働で生計を立てています。(日雇い労働者の作り方)
つまり、かつての日雇い労働者は「寄せ場」という場所に集まる必要があった。日雇い労働者は、簡易宿泊所とはいえ、ドヤ街の中では労働者同士のコミュニケーションをとることが可能だ。そこがホームとなったのである。ところが、現在のネカフェ難民は、派遣会社に登録さえしておけば、ケータイによってあらゆる場所に行かされる。派遣社員同士のコミュニケーションもない。ましてや、相手がネカフェ難民か、自宅持ちかの判断すらつかない。まさに、「さまよえる日本人」の誕生である。
ケータイをひとたび持つと、手放せなくなる。ケータイは本来、電話であり、人と人をつなぐツールである。ところが、現代のケータイの機能はそれを超越している。それは、ケータイが第二の脳となり、なくした瞬間、おろおろする人も多い。
僕は、「メディアはなぜ孤立化を好むのか」で心理学者の小此木啓吾氏の理論に触れたことがある。
小此木啓吾氏は「一・五の時代」と呼び、こんなことを言っている。
たとえばいままでの人と人とのかかわりを「二」という数字で表すと、現在の情報機械と人とのかかわり、コンピュータとのかかわりなどは「一+〇・五」つまり「一・五」のかかわりだと私は比喩的に表現しています。
「孤独」ということについて考えてみても、子供がひとりきりになる、あるいはひとりで自分の部屋にこもったりすると、文字通り一人きりで、昔は日記をつけたり本を読むなどしたり、自分の心の中でいろいろなイマジネーション、思考、思索、瞑想をふくらませていく一人だけの時間とか経験がありました。
(中略)(ケータイやパソコンなどの)情報機械の特徴は、機械ではあっても、そこにはいろいろな人間的な情報がたくさんインプットされていて、それが一つの擬似的な人と人とのかかわりを代行してくれるという意味があります。そこで人とのかかわり以上に面白いインタラクションを経験させてくれます。そのなかに、ほんとうの人間はいないけれど、こうした情報機械と二人でいる、つまり一・五というわけです。(小此木啓吾著「現代人の心理構造」NHKブックス)
このメディアは、人工物だから自分の都合でON・OFFできる特徴がある。メールができなかった時代の携帯電話は、相手の都合を気にしなければならなかった。だが、メールができるようになって、そんな相手の都合も関係なくなる。その瞬間、自分のパーソナルな空間がその分広まったような気分になる。そしてこの友達関係も簡単にON・OFFできる関係となってしまった。
いわば、わずらわしい人間関係の間にケータイを入れることで自分のプライバシーを確保し、自分の部屋(=ホーム)となりつつある。ケータイがホームになれば、ホームレスはこわくない。固定電話や新聞は、自分の家を持つ必要があった。家は住民票と言う自分の存在証明を示す唯一の方法だった。ところが、ケータイ+派遣会社+ネットカフェが「ケータイホームレス」の誕生を促したのである。
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