「ジョブスとソニー」に前会長出井伸之氏の「迷いと決断」(新潮新書)で、ソニーがアップルやディズニーを買収する話を紹介した。僕は、なぜかこのジャンルのまったく違う企業、どこか共通点があるのではないかと思った。そこで、三社の歴史や創業者の伝記を調べていくと、大きな共通点が見えてきた。
ウォルト・ディズニーといえば、ミッキー・マウスやディズニーランドで有名だが、果たして、ウォルト・ディズニー自身がアニメの原画を書いているのだろうか。最近、発売された「創造の狂気ウォルト・ディズニー」(ニール・ゲイブラー著/中谷和男訳/ダイヤモンド社)によると、
ウォルトはミッキーとドナルドの生みの親として、世界的に有名な存在になっていたが、実際でのスタジオでの仕事ぶりは謎に包まれていた。多くのファンは、今でもウォルトが絵筆をとっていると考え、彼もそれをあえて否定しなかったが、ウォルトが絵を描くことは、もうまったくなくなった。(中略)ウォルトは作画だけでなく、久しくシナリオも書かないし監督もしなくなっていた。(ニール・ゲイブラー著/中谷和男訳「創造の狂気ウォルト・ディズニー」ダイヤモンド社)
それならウォルト・ディズニーは何をしていたのだろうか。
ウォルトは優れたストーリーテラーだった。ストーリーボードを前にしての作品検討会でも、彼は一種のトランス状態に入り込みながら、ミッキーやドナルドやフクロウや老犬になりきって、演技を交えて構成を語り、スタッフを圧倒した。
「このイヌは掃除機のようにくんくんかぎながらやってくる。そしてその鼻面は地面いっぱいに広がっていく」とウォルトは、マーセリーン(ウォルト・ディズニーが子供のころに過ごした田舎町)の子供の頃に出会ったイヌを思い出しながら、イヌになりきって演技する。演技をすれば演技をするだけイヌは滑稽になっていき、スタッフが反応すればするだけウォルトはキャラクターになりきり、アニメーターにインスピレーションを与えた。
ウォルトのなかで一番注目されるのは、その監督・管理能力だけでなく、スタジオのスタッフを調和させ統率する能力だろう。ウォルト自身も漫画をシンフォニーにたとえて、自分をスタッフ全員の指揮者であり、ストーリー担当、アニメーター、作曲家、演奏家、声優、仕上げ担当、彩色係など、それをひとつにまとめて一体化し、ひとつの素晴らしい「全体」を創造するのだと力説する。(ニール・ゲイブラー著/中谷和男訳「創造の狂気ウォルト・ディズニー」ダイヤモンド社)
こうしてディズニーアニメはできていくのかと、イメージを髣髴とさせるエピソードである。まさに、ウォルト・ディズニーはイマジネーションの人であった。
ところで、アップルのスティーブ・ジョブズの仕事は何であろうか。パソコンのプログラムを書いているのだろうか?ここにもウォルト・ディズニーと同じような疑問が浮かび上がる。「ジョブズとソニー」で紹介した「スティーブ・ジョブズ偶像復活」 (ジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン著/井口耕二訳/東洋経済新聞社)の中でマッキントッシュソフトウェアの発売プロモーションを担当したジョー・シェルトンの言葉を紹介している。
「私がグループに入り、発売後100日で7万台、初年度50万台というすさまじいMacの販売目標数字を聞いたときは、そんなばかなと思いました。」ところが、スティーブ・ジョブズの魔法薬を飲んでいると、「2,3ヵ月のうちに、自分でも同じことを言うし、信じるようになっていました。スティーブは、みんなにすごい影響を与えていました。彼の言うとおりにするのは無理だって頭ではわかるんです。でも、どうしても実現したいという気持ちにさせられ、そのうち、信じるようにってしまうんです」
ウォルト・ディズニーと同じようにスティーブ・ジョブズもスタッフや社員に言葉でエネルギーを注入してきたのである。
一方、ソニーの創業者井深大にも人をひきつけてしまうカリスマ性があった。たとえば、ベータマックスの原点は文庫本サイズのソニーの手帳だった。「映像メディアの世紀」(佐藤正明著/日経BP社)によると
「木原君や、次に開発するビデオのカセットは、せめてこのぐらいの大きさにしてくれないか。そうなれば機器も小さくなり、家庭に簡単に入る」
この言葉が木原(信敏=ソニー木原研究所会長)の頭から離れなかった。井深の「文庫本サイズのカセット」が、いつしかソニー技術者のターゲットになった。
「われわれはニュー・フロンティアのはしに立っている。月へ行こう」
アメリカ第35代大統領のジョン・F・ケネディが設定した目標が、アメリカの技術と産業の発展を促したように、井深の文庫本サイズという目標が、ソニーのビデオ技術を飛躍させた。意深にはカリスマ性があり、木原に言わせると研究所の技術者は、どんな無理難題を押しつけられようとも、誰もが「井深さんの喜ぶ顔を見たくて、ついつい頑張ってしまう」という。こうなると井深の人徳以外のなにものでもない。(佐藤正明著「映像メディアの世紀」日経BP社)
最初に「文庫本サイズ」という明確なイメージを提示して、それに邁進させるという方法はジョブズも行っている。
ある日、設計会議に現れたスティーブは、持っていた電話帳を机の上に放り投げた。「それがマッキントッシュの大きさだ。これ以上、大きくすることは許さない。消費者に受け入れられる限度がそれだ。
もうひとつある。ずんぐりと四角いコンピューターにはあきあきだ。横長じゃなくて、縦長にしたらどうだ? 考えてみてくれ。」これだけ言うと出て行ってしまったという。(「スティーブ・ジョブズ偶像復活」)
Aその夢を実現する人
世の中には、夢を語る人は多い。だが、その中から大成したものはまれである。それはなぜか。彼らの多くが、独創的な夢を追いかけるがゆえに、現実離れしており、コストや過程を無視しているからだ。この現実を直視しながらも、彼らの夢を実現するために努力する、現実と夢の間に橋渡しをするパートナーが必要だ。たとえば、ウォルト・ディズニーは兄のロイ・ディズニーが、銀行家としてのつてを使って、さまざまな資産家から資金援助に奔走したからウォルトの夢を成功に導いた。
また、スティーブ・ジョブズの夢もまた、スティーブ・ウォズニアクとの出会いがなければ、まったく違ったものになっていただろう。ウォズニアクが天才的なプログラマーとしてジョブズの様々な発想に答えていったから、アップルが生まれたのだ。
井深大も、盛田昭夫との出会いがなければ、小さな町工場で終わっていたかもしれない。盛田昭夫は、本来研究者であったが、アメリカにビデオを売るため単身渡ってアメリカと交渉を始めた。盛田は、なぜそれほど井深に惹かれるのか。「本田宗一郎と井深大?ホンダとソニー、夢と創造の原点」(板谷敏弘・益田茂編著/朝日新聞社)の「もう一人の創業者 盛田昭夫」の項目にこんなことが書かれている。
井深は、盛田に自分よりはるかに洗練された感性を見出し、盛田もつぎつぎと独創的なアイデアを生み出す井深に畏敬の念を持った。なんとか井深のアイデアを実現したい、そんな思いが研究者としての自意識よりも、幼いころから無意識のうちに生まれた経営センスを刺激したのかもしれない。(板谷敏弘・益田茂編著「本田宗一郎と井深大?ホンダとソニー、夢と創造の原点」朝日新聞社)
「幼いころから無意識のうちに生まれた経営センス」とは、盛田が愛知の大商家「盛田酒造」の跡継ぎとして生まれ、幼いころから経営の帝王学を授けられたということを示している。
ともかく、「夢を語る人」と「その夢を実現する人」の両者があいまって、この三社の経営基盤が共通していることがわかる。
ジョブズがまるでロック歌手のように、スピーチで観衆を熱狂させ、ipod touchが飛ぶように売れるのはなぜか、京葉線がディズニーランド帰りのにわかミッキーマウスであふれるのはなぜか。はたまたCNET Japanで松下や東芝は話題にならず、アップルやソニーがいつも話題になるのはなぜか。
もちろん、それは商品が優れているからという名目はある。もちろん、優れていなければ誰も買わないだろう。だが、それぞれのブランドにしかできない色がある。単純に比較されてしまえばそれほどのこともないが、でもこのブランドじゃなければだめという説明できない何かがある。
これは一種のカルト宗教のようなものである。「アップル教」「ソニー教」「ディズニー教」と考えればよくわかる。そこの宗教に入れば、熱狂的になるが、外から見れば批判の嵐となる。ほどほどの企業ではだめなのだ。どこかに狂気を秘めていなければ信徒を獲得できないのである。そしてその信徒の中から、それぞれの企業に入るものもあるだろうし、新たに創業するかもしれない。自分が「夢を語る人」になるか「その夢を実現する人」になるかはわからないが。茨の道に違いない。だが、周りにいっぱいいる「夢を見ない人々」よりは自分のほうが優れているに違いない、ただその気持ちだけで。
※このエントリは CNET Japan ブロガーにより投稿されたものです。シーネットネットワークスジャパン および CNET Japan 編集部の見解・意向を示すものではありません。
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