「ありがとうございました。幸せになります」(山口百恵「蒼い時」集英社)昔、こういって引退し、結婚した歌手がいた。彼女は幸福な結婚をしたという。「結婚は女の幸せ」という言葉もある。しかし、アメリカでは現在離婚率が50%に達しているという(NHK取材班「アメリカの家族」NHK放送出版協会)。すると、アメリカの「結婚」は「幸福」をもたらさなかったのだろうか。今回は、日米の「幸福」について考えてみた。
「幸福」を調べてみると、「精神的物質的に(欲求を)満たされた状態(=満足感)」と出ている(森田良行「基礎日本語3」角川書店)。しかし、すべての欲求を満たすのは不可能である。誰もが、大統領や社長になれないように、どこかで自分の欲求に線を引かねばならない。この線の引き方の違いが、幸福観の違いとなる。そして、日米の「結婚」観こそが「幸福」観を探るためのバロメーターなのである。
さて「結婚」がそのまま「幸福」を生むわけではないのは誰でも知っている。結婚して「幸福」な家庭を築くのが目的なのだ。すると「幸福」な家庭とはどのようなものだろうか。
日本の家庭とアメリカの家庭を比べてみると、日本の家庭は親子が中心(特に母と子が中心)で、アメリカの家庭は夫婦が中心である。これは日常の行動を見ればわかる。日本の母親は子供べったりで亭主は亭主で群れたがるが、アメリカでは常に夫婦一緒に出歩く(広中和歌子「ふたつの文化の間で」文化出版局)。これだけ見れば、アメリカの夫婦は何と「幸福」そうだと思うのだが…
さて、なぜ日本の家庭が親子中心なのか。とくに戦前までは親から子へ「家」の後継がもっとも大切なことと考えられていた(増田光吉「アメリカの家族・日本の家族」NHKブックス)。その大切な「家」を守るため、親戚や親が口を出す「見合い結婚」ができたのである。そして「家」制度が崩壊した現在でも、子供の「幸福」のために「教育ママ」として奔走する姿にその名残りが見える。
それに対しアメリカでは、あくまでも「結婚」は個人の問題であって、親が口を出すべきものではない。また「愛情」がなくなれば離婚もやむを得ないと考えている(尾崎茂雄「『生きがい』と『豊かさ』」講談社現代新書)
日本では、個人よりも「会社」「家」などの組織が中心で、個人的な「幸福」よりも「会社の幸福」「家庭の幸福」が優先される。「幸福」とは「果報は寝て待て」「金は天下の回り物」というように本来偶然の産物である。だから身の程以上の「幸福」を得た者は、後でどんな「不幸」につき落とされるか知れないのだ。したがって自分より「不幸」な人を見て、自分はこの人より「幸せ」なんだと思うべきだと考える。ここには「組織あっての自分」という思想が現れている(南博「日本人の心理」岩波新書)。
アメリカでは、独立宣言にもあるように人生の目的は、「生命、自由、幸福の追求」である。個人の幸福の追求こそもっとも大切な事である(ジャック・スワード「日米もののみかた」匠出版)結婚して「幸福」が得られなければ、離婚して他の人と再婚しても「幸福」を追い求めねばならない(尾崎茂雄「アメリカ人と日本人」講談社現代新書)。
アメリカ人は高すぎる「幸福」の理想と現実の違いに失望し、日本人は限られた組織の「幸福」で我慢しようとする。どちらも、主体的ではなく「不幸」になった原因を相手や環境に求めている。そしてこの「幸福」たちはいずれもが他人が創った「幸福」なのである。でも、本当の「幸福」はそんなところにはない。もう一度周りを見渡し、自分のおかれた立場や自分自身の「理想」や「希望」を冷静に判断してほしい。そこに本当の自分の「幸福」が見えてくるはずだ。他人に期待することをやめ、家庭や職場で自分の能力や存在がいかに必要かという自覚に立つ時、自分の「幸福」への本当の第一歩が始まるのではないだろうか。
「みんなが考えているよりずっとたくさんの『幸福』が世の中にはあるのに、たいていの人はそれを見つけないのですよ(メーテルリンク「青い鳥」新潮文庫)」
追記
この(異文化文献録)のシリーズは、20年近く前にあるタブロイド紙で連載したコラムである。これは、僕の文章スタイルの原点でもある。引用文と地の文が明確でないし、ネット・メディアとはあまり関係ないと思われるかもしれない。だが、メディアは現代文化のひとつの様相であり、文献をつないで現代日本人を探る姿勢は変わらない。自分のデータベースとしては、このシリーズを載せないでは中途半端だと思っている。
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